8 闇魔法使いの訪れ
クロは一週間滞在して旅行に出かけて行った。気に入った所があればそこに住むかもしれないと言っていた。アンジェリカはちょっと羨ましくなった。
距離が近くなった頃「どうやって組織を抜けたのですか?」と聞くと
「闇の人間はいつ死んでも可怪しいとは思われないんだ。抜けたと知っているのは気を許した一人だけだ。
そいつが抜けたくなったら手助けに行くことになっている。それにこの大魔法使いは誤魔化しが上手いからな」
という返事が返ってきた。
そこから先は踏み込まない方が良い気がしたアンジェリカは頷くだけに留めた。
★
相変わらずアンジェリカの生活は平穏だった。野菜の世話をして魔法の練習をした。
火を出せるようになったり、風が好きなように操れるようになった。
でも水魔法でシーツを洗うのは諦めた。大きすぎて五歳児では手に負えないのが分かったからだ。
一度やろうとしたらびちゃびちゃのシーツが顔に張り付いて大変な事になって、クルークに大笑いされながら助けて貰ったのだ。その時もうやるまいと誓った。
だから浄化魔法を頑張ることにした。上手になればあっという間に汚れが綺麗になるのだから。
魔法がこんなに楽しいものだったなんて人生を損した気がした。
クルーク曰く「アンジーは筋がよく上達が早い」らしい。
基礎の魔法の本を読んで大体のことが分かったので、闇魔法の本を読み始めていた。古代文字が多く困難を極めているが諦めるつもりは毛頭無かった。大魔法使いが側にいてくれるのは心強い。
「ぽんこつ魔法のくせに呪いが複雑に絡まりやがって腹立つな。普通のものなら理論さえ分かれば丁寧に解けば簡単なんだが」
とクルークがぶつぶつ呟きながら魔導書を睨んでいるのが日常になった。
「このまま呪いが解けなかったら死んだりするの?」
「死なないよ。でも子どもの身体では病気にかかりやすいし重症化しやすいんだ。
それに解呪すると奴に呪いが返るんだ。いい気味じゃないか。自分も味わってみれば良いんだ。そう思わないか?」
と悪い顔で答えが返ってきた。
「いらない呪いは返したいです」
「うん、うん。さあ夕飯にしようか。今日はアンジーの好きなふわふわオムレツと新鮮サラダだ。南瓜のスープも美味そうに出来たんだ。手を洗っておいで」
「は~い」
向かい合わせに座ったアンジェリカはテーブルの上のご馳走を見てにっこりしてしまった。
オムレツはてっぺんにナイフで切れ目をいれると左右に割れる。美味しそうでうっとりする。付け合わせのトマトとレタスは畑からアンジェリカが取ってきた。
「クルークは料理も上手ね。何処で覚えたの?」
「そうか?何処だったかな、忘れた。では頂こう」
目がオムレツに釘付けのアンジェリカは「頂きます」と口にし食べることに全力を傾けた。
黄色い卵と真っ赤なトマトのソースが合わさって、とてつもなく美味しい。やっぱりクルークは天才だ。
何でも出来るから一人で暮らせるんだわ。私も呪いが解けたら一人で暮らせるだろうかと考えたアンジェリカだ。
「今変な事を考えただろう。女の子の一人暮らしは危ないから反対だ」
「えっ心まで読めるのですか?」
「読めないけど顔に書いてある」
「え〜っ淑女の微笑みが完璧ですって家庭教師に褒められてたのですけど、五歳児だから駄目になったのかしら」
「ここで淑女を出すことはないよ。子供らしく生きることを楽しむと良い」
「そうですね、今は子供ですもの、そうします。気がついたら淑女教育をされてたので、こんなに自由に息が出来るって初めてです。魔法も楽しいし、人生損してたなって思います」
「そうか、公爵令嬢だもんな。厳しく教えられるよな。でも今は忘れろ。アンジーはアンジーだ」
「はい、忘れます。ありがとう、置いてくれて」
「気にするな、俺も楽しい。まだ知らなかったぽんこつ闇魔法があったなんて解呪する日が楽しみなんだ」
「流石、大魔法使いですね」
少年の大きな手がアンジェリカの頭を撫でた。
「あっ!初めて頭撫でられました」
「嫌だったか?ごめん」
「ううん、嬉しかったです。もう一回撫でてください」
「ああいいよ」
撫でられた頭から気持ちの良さが伝わってきてアンジェリカは幸せな気持ちになった。
★
それから数日後クルークの所に珍しく来客があった。魔法使いのお友達かなと思ったアンジェリカは邪魔をしないように部屋で本を読みながら過ごすことにした。
来客はやはり魔法使いだった。闇魔法が専門で遠くの国に住んでいた。クルークが手紙を出したので尋ねてくれたそうだ。
「お前でも解呪出来ないとは。どれほどのものか見たい。その子に会わせてくれ」
「ああ、呼んでくるよ」
「アンジー闇魔法の専門家だ。おいで」
アンジェリカは恐る恐るクルークの隣に行った。
魔法使いは無機質な目でアンジェリカを見た。
お読みくださりありがとうございます!




