6 間話 1 カラナビ公爵
「旦那様!大変でございます!馬車が襲われ、お嬢様がお亡くなりになられました」
家令が慌ただしく執務室に駆け込んできた。
「何?どういうことだ。今日は登城して妃教育後、馬鹿殿下とお茶会の日ではなかったか。それがどうしてアンジェリカが襲われることに繋がるのだ?害をなしても、あれには得がないではないか」
「殿下が言われるにはお茶会の場所にお嬢様が来られないので、臣下に探しに行かせたらもう帰られた後だったとのことでございます。
文句を言ってやろうと後を追わせたら郊外の外れで横倒しになった公爵家の馬車を見つけ、中を改めるとお嬢様の無残なご遺体があったそうでございます」
「ふん、一応筋は通っているのだな。遺体は今何処にある?」
「一番近くにありました教会に安置をお願いいたしました。馬車は回収するように申し付けました。
しかし可怪しいのは、いつも側にいるはずのザイルやカミラが何も知らずに宮殿に残っておりましたことでございます。本人たちに問い詰めたところお嬢様はまだお城にいらっしゃると思っていたと申すのです」
「そうか、本当にアンジェリカなのか疑わしいな。あれがそのような勝手な行動をとるとは思えん。顔は見たのか?」
「それが、潰されて酷い有様でした。ドレスはお嬢様が着て行かれた物で間違いありませんでした。
身体の方は侍女達に検分させましたが肌が荒れていると申しておりました。手などがさがさだったと。よく似た死体だと思われます」
「そこまでして娘を殺して何がしたいんだ?あれは」
「能力が劣っていますから劣等感でお嬢様を何処かへ閉じ込めてしまったのでしょうか?」
「闇属性だったな。碌でもないことをしでかしたのは間違いがない。こうなれば後ろ盾は降りる。
あれが王家にいる必要もない。公爵家の影は何をしていたのだ。娘から目を離すなと言っていただろうが」
公爵から流れ出す冷気が周りの空気を冷やしていた。属性の氷魔法が抑え切れていなかった。家令は震えながら影を呼んだ。お嬢様付きの影は三人だ。
「お前たちは何をしていた?」
底冷えのするような声だった。
「妃教育が終わった後お嬢様は確かに王妃様の庭へお茶会の為に行かれました。
殿下がその後来られて認識阻害の魔法を張られそこから先はお二人の存在が分からなくなりました。申し訳ございません」
「あれの認識阻害魔法を破れなかったのか。ぽんこつだぞ!」
「申し訳ございません。この処分はいかようにも」
「まあいい。今はアンジェリカを探せ、それが先だ。追って沙汰を伝える。去れ」
「御意」と言って影達は消えた。
「旦那様、一応葬儀は出さねばなりませんね」
「そうだな。手配を頼む。葬儀は密やかに、だが噂は大きくする。あの小僧を徹底的に潰す。公爵家を侮るとどうなるか王家に知らしめてやるとしよう」
公爵は黒い笑みを浮かべた。
アンジェリカが盗賊に襲われて亡くなったということは秘され馬車の事故で亡くなった事になった。
しかし噂はどこからか流れるものだ。貴族の間では殺されたのではないかという話がまことしやかに広まっていた。
屋敷の中は喪に服され沈鬱な雰囲気が漂った。
公爵夫人は娘が亡くなったことは信じておらず、夫が何か画策しているのを感じて静観することにしたが、娘はこのまま帰らないのではないかという悪い予感が拭えなかった。
公爵は宮殿の筆頭魔術師に魔法の残滓がないか探らせた。王妃様の庭には闇魔法の跡が色濃く残っていたが、一歩出るとかき消されたように感じられなくなったと報告が上がってきた。
捜索は暗礁に乗り上げた。
行方が掴めないまま半年が経った頃、北の塔にアンジェリカの幽霊が出ると噂がたった。
公爵は筆頭魔術師に頼み本当に幽霊なのか調べて貰うことにした。
幽霊は良く出来た幻影だった。もちろん噂を打ち消すことはしなかった。
王子が腰を抜かしていたらしいので、もっと怯えろと思い同じような幻影を枕元に立たせてやった。眠れなくなれば思う壺だ。
ここまで来たら娘が奇跡的に生きていて魔術師か魔法使いの味方がいるのだろうと確信できた。
悪い噂を流し貶めるのも止めなかった。
後は廃嫡をされ幽閉されるのか、処刑されるのかを待つだけだった。
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