16 破滅
「奴は呪い返しにあって幼児になり北の塔に幽閉された。当然だな。王様は責任を取って退位するそうだ。新しい王様は第二王子がなるようだよ。カラナビ公爵が後ろ盾になるそうだ」
「そうですか、最初からお父様の目論見通りだったのかもしれませんわね」
「えっ、そうなのか怖いな」
「分かりませんけど、ありそうなことでしょう?」
「公爵だし有り得なくもないかな。う~ん近付きたくないな」
「私との婚姻は諦めるということですね」
「いや、諦めないよ。諦めないけど権力にこき使われるのは御免だというか。それで隠遁していたんだよ」
「今回の件のお礼として私がお守りしますわ。婚姻は無しで構いません」
「婚姻有りでお願いします!!守っていただけるのであればそれに越したことはございません。でもどうやって対抗するの?」
「私が呪いを掛けられた故の今の立場ですから、それを盾に取りますわ」
「分かった、強気でいくんだね。素晴らしいよ。益々惚れた!さすが元公女様だ」
「縁談をお受けしたわけでもありませんが恩返しとしてお守りしたく思いますわ」
「え〜そこはお受けしますで良いんじゃないかな。是非お受けください」
「わたくし何も出来ませんが」
「何もしなくていいよ。むしろお世話したいんだ。美味しい物を沢山食べて欲しいし、綺麗なドレスや宝石で飾ってあげたい。その目に映る景色が綺麗なものだけであるといいと思っている。それを全力で叶えさせて」
「そ、それはなんというか強烈な愛の言葉ですわね」
アンジェリカは箱入り令嬢だったので恋愛的なものに不慣れだった。何だろう胸がどきどきしていた。
「これからは色々な所に一緒に食事に行ったり観劇に行こう。まだ知らない景色はアンジェリカと見たい」
「今までの人生で見られていたのではないのですか?」
「君と行けるなら何処だって初めてだよ。山に籠るようになるまでは言えないような経験もしたしね。だから頷いてくれたらとても嬉しいんだ」
「誰にでも辛いことがあるのですね」クルークの辛い過去の話は聞かなくていいと思った。
「そうだよ、アンジェリカも大変な思いをしてきた。それを少しでも軽くなる手伝いをさせて欲しい。復讐がしたいのならやってあげる。君の手は汚させない」
「私が捨て駒だと考えたこともありましたわ。跡取りの養子と会ったこともありませんでしたのよ。義弟ですのに。変ではございませんか?」
「う~ん、変だね」
「こうなることが分かっていたので会う必要がなかったと考えていたとも思われますよね」
「そこまで穿った考えをしなくても良いんじゃないかな。息が苦しくなるでしょう。きっとこうなったのは偶然。あれが馬鹿で考えなしだったからで、親が責任を感じて引退した。普通の貴族なら切り捨ててお終いにするところだよ」
「当事者としては色々考えてしまうのですわ。クルーク様の考え方は楽で良いですわ」
「貴族じゃないからね。ねえ一緒に生きるならこんな男が楽だよ」
「そうですわね。息をするように口説きますのね」
「こんな美人逃したくないからね」
「そうですか?誰にも褒められたことがありませんのでよく分かりませんわ」
「え〜っ ! 誰も褒めなかったの?信じられない。アンジェリカは今までの人生で会ったことのないとても美しい人だよ。頭もいいし性格も良い。好きなところをもっと言おうか?」
「いえ、もう良いです」そう言ったアンジェリカは俯いて真っ赤になっていた。
「真っ赤になったところも可愛い」
「もう良いです。そういう言葉に免疫がございませんので」
「え〜可愛いよ。子供の姿の時も笑うと花が咲いたようになって危ないからさっさと家に連れて帰ってたくらいだったんだ。きっとあれの婚約者だったから褒めなかったんだよ」
「屋敷でも褒められたことなどありませんわ。出来て当たり前でしたから」
「公女様って大変な仕事だったんだな。これからは僕が毎日褒めるよ。またアンジーって呼んでいい?」
「今まで勝手に呼ばれていたではありませんか。どうされたのですか?」
「子供だったから呼んでたけど、レディだから許可が必要かなと思ったんだ」
「構いません、アンジーだろうがアンジェリカだろうが好きにお呼びくださいませ」
「投げやりだね。特別感が欲しいからアンジェにしようかな。求婚していてもう直ぐお嫁さんになってもらうんだし」
「まだお受けしておりませんのでアンジェはきちんとしてからでお願いしますわ」
「わあ~良かった受けてくれるんだね。ありがとう。大きなダイヤモンドの魔石を用意するよ」
「えっ、え〜っそんな意味で言ったのではありませんわ」
「結婚したらアンジェと呼んでもいいと言ってくれたじゃないか。男を弄ぶなんて酷いよ」
「もう良いです。お受けします。言いくるめられた気がしますが。
愛とか好きとか分からないのですが良いのでしょうか?それに浮気は許しませんわよ、良いですね」
「しないよ、するわけがない。誓約魔法で誓うよ。ゆっくりでいいから好きになってくれたら嬉しいよ」
「そう言えば高熱を出した時に変な夢を見たのです」
「どんな夢?」
「アンデイ様とばかりで話していて私を疎外して悪かったとか仰っていましたわ」
「それは現実のことだよ。夢だと思ってたの?心底謝ったのに夢の話にされていたのか。傷ついた心を守るためだったんだろうな。本当に悪かった。魔法馬鹿には戻らないし、ならないから安心して。まずアンジェを一番に考える。約束する、愛してるよ」
そう言うとクルークは髪を人掬いして口付けを落とした。改めてまじまじと見るとかなりのイケメンだった。アンジェリカは急にどぎまぎしてしまった。
顔が熱くなり胸の高鳴りが抑えられない気がした。今まで感じたことのない不思議な感覚だった。
★
その時何処からか現れたミルクが近づいて来た。
「君の精霊なの?ケット・シーだね」
「アンジェリカを泣かせると精霊王も許さないと仰っている。もちろん私もだが。約束は違うなよ」
「ミルク会いたかったわ。昼間に抱っこさせてってお願いしたのに来てくれなくて寂しかったのよ」
ミルクを見た途端胸の苦しさが止まった。気のせいだわきっととアンジェリカは自分を納得させた。
「精霊王様に魔法使いに姿を見せていいかお伺いを立てに行っていたんだ。漸く許可が出たので帰って来たところだよ。おい魔法使い、アンジェリカを泣かすと不幸に塗れることになるからな、覚悟をして結婚するんだな」
「心配いらない。幸せで溺れるほど愛するつもりだ。ミルクと言う名か、可愛いな」
「可愛いなどと言うな。お前とはライバルだ」
そう言うとミルクはアンジェリカの膝の上に乗りふふんと言う顔をした。
「ミルク、この毛並み気持ちが良いわ。最高ね」毛を撫でたアンジェリカが幸せそうな顔をした。
この時からクルークとミルクのアンジェリカを巡る熱い闘いが始まったのだった。
読んでいただきありがとうございます!!
強い味方が出来たアンジェリカはこれからもっと幸せになります。
後一話で完結です。




