11 治癒魔法と魔法使い
クルークは城での幽霊騒ぎの結果を知り合いの影から嬉々として受け取った。
王子は気になってしょうがないらしくこっそり北の塔に行ったという。
そこでアンジェリカの幽霊を見て腰を抜かしたらしい。人徳が無いと裏切られるのは必須である。
黒い噂のある王子に嫁ぎたいという高位貴族の令嬢や家は無く縁談は遠のくばかりだそうだ。王様は王領の痩せた土地を与え一代限りの伯爵にしようと考えている様子だ。
体のいい廃嫡だ。勿論その際には強力な魅力封じの魔道具をつけさせ、去勢もされるという。
闇魔法持ちなのは王家が知っていることだった。それを聞いたアンジェリカは
「遅すぎる!!」と憤怒の声を上げたのだが声が届くわけもなかった。
★
クルークは治癒魔法の精度を上げていた。一日の終わりにアンジェリカが寛いでいるところを見計らい魔法をかけていた。暖かな光に包まれるように繊細な魔力が要求される。最初は用心深く指先からかけていった。
「どう、何か感じる?」
「指先がチリチリしますが、暖かいです」
「チリチリねえ、魔術式に影響しているからか。見た感じでは悪い影響ではないようだ。掌に広げてみても良い?」
「はい、お願いします」
「どう?」
「暖かいです」
「チリチリはしないの?」
「はい、しません」
「広くなるとチリチリしないのか。ふうっ悪影響が無くて良かった。この調子でいけば解呪出来そうだ。終わる頃には奴は子供で伯爵など無理だ。はははっ」
「ありがとうございます。解呪していただいたら公爵家に帰ろうと思います。お礼をせねばなりませんし。あの…ちなみにですが陛下が命じれば子供でも伯爵にはなれます。ただしずっと姿が変わらないと気味悪がられると思うので幽閉されるかもしれませんが」
「えっ?子供でもなれるものなの?って帰るの?」
「はい、そのつもりです。大人に戻った私がお傍にいるのも変な話ですし。
伯爵の件は王命ですと通りますね。補佐官を付ければいいことですし」
「そっちは何とか阻止したいな。そうか…帰るのか。アンジー姫さんだったな……魔法の勉強は止めるのか?」
「楽しいので続けます。クルーク様のように誰かの役に立てれば幸いですので」
「そうか……それは…手を打とう。今日はここまでだ。おやすみ」
「はい、おやすみなさいませ。良い夢を」
★
「アンジーがいなくなる…。解呪するということはそういうことだ。何を今更」
クルークはなんて自分は温かさに鈍感なのだろうかと思った。小さな身体がちょこちょこ後をついてくるのは嬉しいものだった。
初めて一緒に買い物に行った時は、物珍しさできょろきょろしているのが危なっかしくて手を繋いだら驚いていた。一緒に本を読んだりお菓子を食べたり、淹れてやった紅茶が美味しいとびっくりしていて凄いと言ってくれた。
植えたばかりのトマトがあっという間に実をつけたら大きな目が一層大きくなってきらきらしていた。公爵令嬢なのに高慢でもなかった。子供にされていたからか?否、素のアンジーはそんな子ではない。
話をしても楽しかった。
アンジーが高熱を出して寝込んだ時にはもう目を覚さないのではないかと肝が冷えた。何しろ術式まで動くとは思わなかったのだから。
あの日ほど魔法使いをやっていて良かったと思ったことは無かった。
クルークはアンジーに惹かれているのを漸く実感した。
相手は公爵令嬢だぞ。でも死んだことになっていて、幽霊にまでなっている。ここは男として頑張るところではないだろうか。幸いお金ならうなるほどある。
一生苦労はさせないし、そのつもりもない。
明日からどうやって口説き落とすか考えながら眠ることにしたのだが、子供の身体のアンジーを口説くのは犯罪者の様な気がして止めた。自分はロリコンではない、好みは大人のアンジーだ。
大人のアンジェリカは綺麗な女性だった。透けるような白い肌にパッチリとした大きな赤い瞳、唇はさくらんぼのようにぷっくりと赤く、白銀の髪は艶があって滑らかにウエーブがかかっていた。
折れてしまいそうな細い腰に充分に育った胸。憂いのある姿は誰もが魅了されるだろう。
実体のない状態でそれだけの美しさだったのに自分より優秀だというだけで呪いを掛けやがってと、クルークはこみ上げて来る怒りを抑えきれなかった。
甘やかして甘やかして心地よくさせて、公爵家に帰りたくなくなれば良いとクルークは考えた。
何ならここをもっと広い屋敷にしようか、掃除は魔法で一瞬だ。シェフを雇っても良いかもしれない。
溺愛計画はまだ始まったばかりだ。
読んでいただきありがとうございます!次回は胸糞王子の出番になります。




