10 夢の中で
これは夢の中かしら。ミルクが遊びに来てくれた。
「アンジェリカ僕に名前をつけてくれてありがとう。 これからはずっと一緒にいるよ。 見守ってあげる」
「えっミルク 話せるの?」
「そうだよ 、嬉しい ?これからはたくさん話そうね」
「うん 嬉しい。初めて友達ができたわ」
「寂しかったのか。、人間は気持ちが分からない 馬鹿が多いね」
「私も人間よ、 大目に見てねちょうだいね」
「アンジェリカは魂の色が朝日のようで綺麗なんだ。だから惹き寄せられた。もう少し早く生まれることができていたら呪いなんてかけさせなかったのに、悔しいよ」
「ありがとう大好きよ ミルク。 ずっとに一緒にいてね」
まん丸な大きな目が可愛いし夢でいいからモフりたいし抱っこしたい。もっと一緒にいたいの、ミルク……。
突然辺りが暗くなり雲が出たように陰った。
「お前なんて俺に相応しくない。もっと敬え。魔法なんて使えなくていい。むしろ使うな。出来損ないでいろ。何だそのドレス、地味だな。地味な顔に地味なドレスか」
昨日まで優しかったはずの王子様の顔が歪んでいた。
アンジェリカは父が買ってくれた物だと言い返すこともできず、悔しすぎてぐっと唇を噛み締め俯いた。今朝着せてくれた侍女達から沢山褒められて気分が良かったドレスだった。
これは十三歳のお茶会の時だわ。嫌な夢、早く覚めて。それまで普通に会話していたのにある時から罵倒されるようになった。
まさか僻みが原因だと思わず自分に非があったのかと落ち込んだものだった。
暗い世界から早く目覚めたい、あなたは悪くないと教えてあげたい。なのに手足は鉛のように重く動かなかった。
★
アンジェリカが高熱を出し 危篤状態になってから一週間が過ぎていた。
目が覚めると クルークが目の下に隈を作ってアンジェリカのベッドに身を投げ出すように眠っていた。
ずっと付いていてくれたのだろうか、申し訳なさすぎる。
喉が枯れて声が出せなかったアンジェリカはそろそろと手を出して クルークの服を何回か引っ張った。
「あっアンジー 目が覚めたの ?良かったよ 心配した。嫌な夢を見ていたの?うなされていたよ。ほら お水飲んで。お腹が空いただろう。 パン粥 食べる ?」
頷くと冷たい水を入れたコップが口に近づけられた。
水を飲んで落ち着くと、クルークはいそいそと パン粥を取りに キッチンに行った。パン粥なんて(病気になった本当の)子供の時以来だ。
「熱いから食べさせてあげる。 はいあ~んをして」先に伸びた手がスプーンを差し出した。 急いで首を横に振り 「自分で食べられます 」と言ったのに
「アンジーは死にかけたんだよ。僕がそばにいたのに 気がつくのが遅くなってごめん。 だから 遠慮しないの」
と押し切られた。 本当の子供の頃でも食べさせてもらったなんて 記憶にない。
死にかけたのか。よほど心配をかけたんだなぁと 申し訳なくなった。
「あの、看病していただきありがとうございました。どれくらい寝ていたのでしょうか ?」
「一週間だよ!心配したよ。 でも看病は僕が勝手にしたことだから気にしなくていいよ」
「えっ!そんなに長く。申し訳ありません。このご恩はきっと お返しします。 ありがとうございました」
「お返しなんて要らないよ。病人が目の前にいたら誰だって助けたいと思うよ。アンジーだって倒れている人を見たら助けるだろう。それと同じだ」
まだ身体の重いアンジェリカは力なく笑った。
★
「もう少しで聖魔法が完璧に出来そうなんだけど、向こうが自滅するのを狙ってそろそろこちらからも仕掛けるか」
クルークが独り言のように呟いた。
あれから疎外感が傷になってしまったらしい。名前を呼んでくれなくなった。
「仕掛けるってどうやってですか?」
「アンジーの幽霊を見せるんだよ。怖がらせて怯えさせようと思う。城で幽霊が出そうな場所ってない?まずは使用人あたりに見せて噂を広げさせるんだ。どうかな?」
「じわじわと追い詰めるのですね。いいと思います。北の塔が良いかもしれません。
昔気狂いの王族が閉じ込められていたという噂があって、誰も近づきませんし、それでいて見える場所にあるんです。
そこに私の姿が見えれば幽霊騒ぎになると思います。白い服を着て幽霊になればいいのでしょうか?」
「そんなことはさせない。近づかせるわけないよ。危険だし今は子供だよ。大人の幽霊は幻影魔法で作るんだ。ふよふよ光る霊もいるね。城に転移して魔法を発動させるんだ。魔道具も仕込んで来るよ。」
「そうでした。でも見つかったらどうするのですか?危ないです」
「そんなへまはやらないよ。一瞬で転移して帰って来るから安心して。誰も近づかない場所なんだろう?任せておいて、上手くやるから。
幽霊相手じゃあ何も出来ないよ。あれが見に来るのを待とう。きっと腰を抜かすよ」
クルークは悪戯を思いついた子供のような顔をしていた。
「王様が動いてくれるといいけど。廃嫡するとかさ。そしたら攫って異空間に閉じ込めるんだけど」
「そうですね、そうなれば呪い返しが出来ますね。まだ調子が戻っていないので少し寝ますね」
どうやら熱が出て以来身体が弱くなったような気がする。解呪されたら体力を付けようと思った。
「うん、気がつかなくてごめんね。お休みアンジー」
クルークの大きな手が頭を撫でた。
ベッドに潜り込んだアンジェリカは解呪が終わったら公爵家に帰ろうと思った。
きっともう直ぐ呪いが解ける。そんな予感がしていた。これ以上迷惑はかけられない。お礼の品を馬車で何台も届けて貰おう。
自分は公爵領の端にある別荘で使用人を少しだけ付けてもらって暮らそう。
一生独身で良い。誰にも迷惑のかからない自分の居場所が欲しかった。
一度死んだ娘を父が目につく所に置くわけもない。平穏な暮らしが手に入るなら文句は言わないとアンジェリカは思った。
後継には遠縁から男の子が来ていたはずだ。婚約者に決った時にそういう話を聞いた。忙しくて会ったことがなかった。変な話だわ、義弟になるのに会ったことがないなんて……。そんなことを考えているうちに眠ってしまった。
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