1 呪われた令嬢
どうぞよろしくお願いします
アンジェリカは突然目の前にいる王子様が大きくなったので驚いた。この人こんなに大きかったかしら。
今日は王子妃教育の終わりに設けられている月に一度のお茶会だ。話が弾むわけでもないが形だけでも取り繕う必要があるので嫌々だが参加していた。暖かな春の陽射しが心地よく風もそよそよと吹いている。
花が咲き誇る宮殿の庭園のガゼボで座ってお茶を飲んでいたのに身体が縮んだような気がした。
「殿下急に成長されました?」
「馬鹿だな、お前に子供になる魔法をかけたんだ。手を見てみろ」
アンジェリカは言われた通りに自分の小さくなった手を見て呆然とした。足も地面についていない。テーブルも紅茶のカップも何もかもが大きい。
「えっ?小さい…どうしてですか?魔法の練習ですか?これって直ぐに魔法を解いてくださるのですよね」
驚くことにドレスまで縮んでいた。変な才能が開花したのね。はあ〜。
「お前が俺より優秀だから子供にしてやった。ざまあみろ、姿はそのままで生きていけ。魔法は解かない。王子妃教育なんてしなくていい。目障りなんだよ。何が語学が堪能なアンジェリカ様なら立派な王子妃になられますね、清く正しい妃様で良かったですねだ。うんざりなんだ。どうせ俺は秀でたところなんてない。身分と容姿だけで擦り寄ってきやがってうんざりなんだ」
僻みが拗れて嫌がらせか、子供っぽい。縁談を持ちかけて来たのは王家の方だ。貴方の身分や容姿なんてこれっぽちも魅力的ではありませんが、と言いたいのをぐっと堪えて感情を悟られないように言った。こちとら伊達に何年も王子妃教育に通ってるわけじゃないのよ。腹立つわ〜こいつ。
「闇魔法の属性でしたから呪いの勉強をされていたのですね。ずっと私を子供にして婚約を破棄しようと思っておられたのですか?でも小さくなったくらいでは陛下や王妃様、父も諦めないと思いますが(私も残念だけど)」
「諦めるさ。小さいままで育たない魔法を掛けてやった。お前さえいなければ比較されることもない」
「それほど嫌っておいででしたら殿下から破棄すると言ってくだれば済むことでしたのに。(これだから馬鹿は困るのよ)成長しない魔法がかかっていては、これから私はどうやって生きていけば良いのでしょう。それにそんな禁呪を使われた殿下に未来はありませんわ。侍女や侍従が見ておりますもの」
「認識阻害の魔法が掛けてあるからここで起きたことは誰にもばれてはいない。誰の記憶にも残らない。生きていけるかどうかは分からないな。せいぜい頑張ることだ。お前はこれから俺の配下に山に連れて行かれて捨てられるんだ。ここにある菓子は情で持たせてやる。どうだ優しいだろう」
どこが優しいんだよ、狂ってる。馬鹿王子のくせに変なところがずる賢い。
「屋敷に帰してくださいと言っても駄目なのですか?このまま死ねと言われるのですね」
「ちびのままで頑張ってみろよ。お得意の語学で生きていけるかもしれないぞ」見下したように口の端を上げた王子が言った。
何なのこれ、下品な下町の破落戸みたい。上がこんなのじゃあこの国もう駄目なんじゃないの。まあ毒を飲ませられなかっただけでもましなのかしら。こいつのせいで死ぬなんてまっぴらごめんだわ。結婚しなくて良かった。控室にいる侍女のカミラと護衛のザイルが気づいてくれると良いのだけれど。ここは王妃様の庭園で限られた人しか入れない。良いように言われて帰らされるだけかしら。
「影連れて行け」アシロホ第一王子が命令すると何処からか現れた黒い人物がアンジェリカを抱えてあっという間に消えた。
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気がつくとそこは山の中のログハウスの様な場所だった。庭にも見えなくもない空き地があり辺りは樹木で覆われていた。公爵令嬢なので物置小屋にしか見えない。アンジェリカの部屋の十分の一くらいの大きさだった。子供になったのでそれ以下かもしれない。
中はトイレやキッチンお風呂も付いていた。寝室もある清潔な小屋だ。
「ここは何処?早く公爵家に連絡しなさい。着替えが欲しいわ」
「お嬢様は馬車で帰宅途中で襲われて亡くなった事になっています」
「え〜っ!死体が無いでしょうに」
「お嬢様に似た死刑囚が顔を潰されて同じドレスで身代わりになっておりますのでご安心ください」
「どこがご安心くださいなのよ。不安しかないじゃない。ここでどうやって暮らせと言うの?今まで何もしたことがないし、ましてや子供なのよ。あいつは悪魔だわ。あっ悪魔に失礼だわね。貴方まさかこのまま出ていくの?いたいけな幼子を残して出ていかないわよね。出ていくなら護衛と侍女を呼んできて」
「それは出来ませんが流石にこのような場所にお嬢様を一人にはしません。もう直ぐ味方が帰って来ますのでどうかお待ちください。では」
「えっ味方って誰?」
尋ねた声は壁に吸い込まれて消えた。
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