1 呪われた令嬢
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アンジェリカは突然目の前にいる王子様が大きくなったので驚いた。いや自分が小さくなったのを受け止められず拒否したとも言う。暖かな春の陽射しが心地よく風がそよそよと吹いていた。花が咲き誇る宮殿のガゼボでお茶を飲んでいたのに身体が縮んだような気がした。これは夢だろうか。夢であって欲しい。
そっと手を見た。小さい。なんてことだろう、嫌われているのは知っていたけれど勝手に魔法を掛けられるなんてと頭の中が真っ白になってしまった。
今日は王子妃教育の終わりに設けられている月に一度のお茶会だ。仏頂面を見るだけでも憂鬱だが、形だけでも取り繕う必要があるので嫌々だが参加していた。
元々二人の仲は良くない。顔合わせした頃はまだそうでもなかったが十五歳くらいになって覚えることが増えた頃から、王子が不機嫌になる事が増えた。
何か気に障ることをしたのかと側仕えに聞いても曖昧な笑顔しか返って来ない。
アンジェリカは途方にくれその内気にするのも嫌になり、婚約が解消にならないかと密かに思うようになっていた。
「殿下、私小さくなったような気がするのですけど?」
「その通りだ。お前に子供になる魔法をかけたんだ。手を見てみろ」
アンジェリカは言われた通りにもう一度自分の小さくなった身体を見た。足も地面についていない。テーブルも紅茶のカップも何もかもが大きい。
「えっ?……どうしてですか?これって直ぐに魔法を解いてくださるのですよね」
幸いドレスも縮んでいた。裸でなくて助かったけどね…闇魔法が開花したの?はあ〜。これからのことを思うと頬が引き攣った。
「お前が俺より何でも出来ていい気になっているから子供にしてやった。ざまあみろ、姿はそのままで生きていけ。魔法は解かない。王子妃教育なんてしなくていい。目障りなんだよ。何が語学が堪能なアンジェリカ様なら立派な王子妃になられますね、お優しい婚約者様で良かったですねだ。うんざりなんだ。どうせ俺はお前より秀でたところなんてない。身分と容姿だけで擦り寄ってきやがって邪魔なんだ」
僻みが拗れて嫌がらせか、子供っぽい。縁談を持ちかけて来たのは王家の方だ。貴方の身分や容姿なんてこれっぽちも魅力的ではありませんが、と言いたいのをぐっと堪えて感情を悟られないように言った。こちとら伊達に何年も王子妃教育に通ってるわけじゃないのよ。腹立つわ〜こいつ。
「そんなつもりはこれっぽちもございませんが、子供にされるより婚約破棄をしてくだされば良かったのではないでしょうか?殿下に相応しい方は他にいらっしゃるかと存じます。
殿下は闇魔法の属性でしたから呪いの勉強をされていたのですね。ずっと私が気に入らなかったからですわね。でも小さくなったくらいでは陛下や王妃様、父も諦めないと思いますが(残念だけど)」
「結婚なんて面倒だ。小さいままで育たない魔法を掛けてやった。これでやっとお前と離れられる」
えーっ!大きくなれない魔法?何それ。嫌がらせにも程がある。
「成長しない魔法がかかっていては、これから私はどうやって生きていけば良いのでしょう。それにそんな禁呪を使われた殿下に未来はありませんわ。侍女や侍従が見ておりますもの」
「認識阻害の魔法が掛けてあるからここで起きたことは誰にもばれてはいない。誰の記憶にも残らない。生きていけるかどうかは分からないな。せいぜい頑張ることだ。お前はこれから俺の配下に山に連れて行かれて捨てられるんだ。ここにある菓子は情で持たせてやる。どうだ優しいだろう」
どこが優しいの、狂ってる。馬鹿王子のくせに変なところがずる賢い。
「屋敷に帰してくださいと言っても駄目なのですか?このまま死ねと言われるのですね」
「ちびのままで頑張ってみろよ。お得意の語学で生きていけるかもしれないぞ」見下したように口の端を上げた王子が言った。
何なのこれ、下品な下町の破落戸みたい。陛下が気が付いていないとすれば、この国もう駄目なんじゃないの。まあ毒殺されなかっただけでもましなのかしら。こいつのせいで死ぬなんてまっぴらごめんだわ。結婚しなくて良かった。
控室にいる侍女のカミラと護衛のザイルが気づいてくれると良いのだけれど。ここは王妃様の庭園で限られた人しか入れない。良いように言われて帰らされるだけかしら。
「影連れて行け」アシロホ第一王子が命令すると何処からか現れた黒い人物がアンジェリカを抱えてあっという間に消えた。
★
気がつくとそこは山の中の小屋だった。周りに空き地があり辺りは樹木で覆われていた。公爵令嬢なので物置小屋にしか見えない。アンジェリカの部屋の十分の一くらいの大きさだった。子供になったのでそれ以下かもしれない。
「ここは何処?早く公爵家に連絡して迎えを寄越すように言いなさい」
無駄だと思ったが影に向かって命令した。
「場所はお教えできません。公爵家に連絡は取れません。お嬢様は馬車で帰宅途中で襲われて亡くなった事になっています」
「え〜っ!何なのそれ。死体が無いでしょうに」
「お嬢様に似た死刑囚が顔を潰されて同じドレスで身代わりになっておりますのでご安心ください」
「どこがご安心くださいなのよ。不安しかないじゃない。ここでどうやって暮らせと言うの?今まで何もしたことがないし、ましてや子供なのよ。あいつは悪魔だわ。あっ悪魔に失礼だわね。貴方まさかこのまま出ていくの?いたいけな幼子を残して出ていかないわよね。今すぐ護衛と侍女を呼んできて」
「それは出来ませんが流石にこのような場所にお嬢様を一人にはしません。もう直ぐ味方が帰って来ますのでどうかお待ちください。では」
「えっ味方って誰?」
尋ねた声は壁に吸い込まれて消えた。
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