表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

美人なら大抵のことが何とかなると思っているわがままな妹が、義姉の留学をずるいと言った結果

作者: 楠瑞稀
掲載日:2025/12/19




「テレサお義姉様ばっかり留学するなんて、ズルいわ。あたしも留学する!」


 オズワルド子爵家の次女ウルリカがそう言ったのは、珍しく父と義姉テレサが揃った晩餐の最中だった。

 義姉とは血の繋がらない、ウルリカの母である所の子爵夫人ヘレンは、友人たちと湖のある別荘地へ旅行中のため不在である。


 子爵の亡くなった前妻の娘、長女のテレサは長期休暇が終わるのを待たずに、この国と交流のある近隣国のパラス王立学園へ留学することが決まっていた。


「パラス王国って、目抜通りには宝飾品やドレスの一流店が立ち並んでるって聞いたわ。すごくお洒落でセンスの良いお店ばっかりなんですって。憧れちゃうわ!」

「あの、ウルリカさん……。私はあの国には勉強に行くのよ?」


 オドオドと見上げるように目付きで口を挟む義姉を、ウルリカは睨む。


「そんなの知っているわよ。だいたい、お義姉様こそ、そんな調子で他国でやっていけるの? あたし心配だわー」


(お義姉様よりあたしの方が似合うだろうから、使ってあげるわ。)


 そう言って、義姉の宝飾品入れから持ってきたネックレスを指先で弄りながら、ウルリカは嘆く。

 そして、やっぱりコレいらないなー、とペンダントトップを指先で弾いた。


「ウルリカ。パラス王国で買い物をしたいなら、旅行で訪れるのはどうだろう。ヘレンも一緒にだ。好きな物を買ってやるぞ」


 遅くに出来た娘が可愛くて仕方がない父は、母も連れて遊びに行けばいいと提案する。

 だが、ウルリカは機嫌を損ねたように頬を膨らませる。


「違うわよ。旅行じゃなくて、留学したいって言ってるじゃない!」


 柳眉を尖らせ、不機嫌も顕に唇を引き結んでいても、ウルリカの美しさは留まることを知らない。

 ピンクブロンドの髪は艶やかで、青い瞳は深い海のように水分を含んで潤んでいる。

 紅潮した頬は陶器のように滑らかで、ふっくらとした唇もまるで新鮮な果物のようだった。


 一方、ぱっとしない薄茶の髪に、印象の乏しい灰色の瞳、顔の造作も何だか野暮ったいテレサはおずおずと義妹に尋ねる。


「どうしてウルリカさんは留学に行きたいの?」


やっとそれを聞いたかと言わんばかりに、ウルリカは偉そうに胸を張る。


「あたしって、すごく顔がいいじゃない? お母様も、『美人なウルリカは、そのままで誰よりも価値がある』って言ってくれたわ」


 旅行中のオズワルド子爵夫人もまた大変な美貌の持ち主で、だからこそ実の娘のウルリカには過度なまでの期待をかけていた。


「勉強なんか出来なくても、ひく手数多だって。だからあたしは勉強なんかそっちのけで、学園では素敵な旦那様になってくれそうな男子生徒を探したわ」


 実際、この国では学園に通う女子の中には、勉学よりも良縁を結ぶ先を探すことが第一目標である生徒も少なくはない。

 ここオズワルド家のテレサは、そんな中でも首席の才女だったが。


「だけど、あたし気付いたのよ」


 ハァと、ウルリカは薔薇の香りのする吐息をこぼす。


「旦那様探しには、顔が良ければ他に何もいらないとして、でも相手のお家に入って夫人になったら、色々やらないといけないことは多いでしょ?」


 貴族の妻として、やらなければならないことは存外多い。

 後継を産むのが一番重要な仕事だが、他にも家政を取り仕切ったり、茶会などの社交で他家との繋がりを作ったり、家によっては領地経営も任される事があるようだ。


「あたし勉強好きじゃないから、頭使うことしたくないなーって思ったんだけど、それが許される嫁ぎ先って裕福な商家の平民か、引退後の老貴族の後妻とかでしょ? そんなところに嫁いで、本当に幸せなのかなって」


 ムムッと悩ましげな顔を顔をするウルリカに、困った顔の父は言う。


「だから、パラス王国に留学して勉強したいのかい? だが勉強ならこの国だって……」

「だーかーらー! 違うって言ってるでしょ!」


 ウルリカは腰に手を当てて胸を張る。


「あたしは自分の幸せが何か考えたの」


 ウルリカは茶会や夜会などの社交場で、綺麗な格好をしてチヤホヤされるのが好きだった。自分の美しさを、より多くの人に見せびらかしたかった。

 社交は貴族のご婦人の仕事ではあるけれど、しかし社交ばかりにかまけていると遊び回っていると言われてしまう。

 では、どうすればそれを許されるのか。


「ドレスやアクセサリーを売る商売に携わって、商品を着けて社交場に出ることを仕事にすればいいんだわ。あたしみたいな美人が身につければ、ドレスもアクセサリーも何倍にも素敵に見えるわ! どう? いい考えじゃない?」


 それは名案と言うには随分甘い見通しだったが、テレサは目を見張ると心底感心したように言う。


「すごいわ、ウルリカさん……。まさか、ウルリカさんがこんなにちゃんと将来のことを、考えられるなんて……」

「そうやって、自分が頭良いからってあたしのこと馬鹿にするのやめて貰える? そんな態度だから、婚約者のイアン様に逃げられのよ」


 眉を顰めて文句を言うウルリカに、テレサは焦って首を振る。


「も、元婚約者ですわ、フロニー様は……。それに、彼とはお互い納得の上で、婚約を解消しましたので……」

「どうかしらね。まあ、お義姉様にはイアン様はヤクブソクだったものね」

「そ、そんなこと言わないで……」


 縮こまるテレサに、ウルリカはフンと鼻を鳴らす。

 イアンはフロニー伯爵家の三男であり、オズワルド子爵家を継ぐテレサと結婚して入り婿になる予定だった。

 だが数ヶ月前に、その婚約は無かったことになった。


「あー、ゴホン。ウルリカが留学したいと言う気持ちは分かった。だが、結婚をしないと言う判断をするのは、少々時期尚早じゃないかね?」


 父親は困ったようにたずねる。

 ウルリカはたいそうな美少女であり、すでに婚約の打診が何件も届いていた。

 何よりいくら頭が少々弱いとしても、補佐をつけて何とか体裁を整えれば、普通の貴族の奥方なら充分にやっていけるだろう。

 母親のヘレンのように。


「留学するにしてもテレサと入れ替わりで行ってもいいわけだし、もう少し考えてみては……」


 娘二人が一度にいなくなるのが寂しいのか、父は渋るがウルリカはそれでは意味がないと首を振る。


「留学はするわ。だいたい結婚したくたって、可哀想なことにあたしは、学園でもそれ以外の場所でも、将来ユーボーな旦那様を探せない状況にあるんだもの」


 ウルリカは、心底困ってしまっていると訴えかけるような素振りで小首を傾げ、悩ましげな溜め息をつく。

 曰く、高嶺の花過ぎる為に、自分に声を掛けられる男子生徒が非常に限られてしまっていると。


「そのせいで学園に行けば、同じ学年の王子様とその取り巻きばっかりが構ってくるし、外に出れば何故かいつもイアン様がいてあたしに声を掛けてくるし」


 美人ってそこが困りものよねーと嘯くと、父親は大きく目を見開き、驚きと焦りで声を張り上げる。


「それを先に言いなさい!」


 ウルリカと同年代の王子と言えば第一王子だが、彼には生まれた時からの婚約者がいる。

 そもそもオズワルド子爵家は、王家に嫁ぐには家格が低い為、王子が遊び半分であろうと本気であろうと、ウルリカに興味を示せばそれだけで、非常に面倒なことになってしまう。

 そして、テレサの元婚約者であるイアンは、自分と婚約した方が子爵家を継ぐと勘違いしているのかも知れないが、そんな事はない。

 次期女子爵はテレサに決まっているし、何よりどんな思惑があろうと、一回り以上年下の1()0()()()()()に付き纏う男など碌なものではない。


 こうしてはいられないと、ウルリカの留学の手筈を整えようと立ち上がる父に、ウルリカは声を掛ける。


「そうだわ、お父様」


 ウルリカは思い出したようにネックレスを外すと、父親の元へテーブルの上を滑らせる。


「お義姉様に贈ったそのネックレス」


 ハート形の可愛らしい桃色の石の周りを、原色の七色の石が取り囲み、リボンを模した銀細工がアクセントになっている手のひら大の装飾品。


「石の色がお義姉様の目の色にも髪の色にもさっぱり合わないし、あたしならドレスとの組み合わせでどうにか使えるかなとも思ったけど、子供っぽ過ぎて無理だったわ」


 5歳やそこらの子供のファーストアクセサリーとしてならまだしも、ウルリカのようなローティーンにも満たない少女すら戸惑うような意匠を、成人目前のテレサなら余計に付けられるものではない。

 はっきりと言葉にはしていないだけで、明確にセンスの無さをこき下ろされて、父親は色んな意味でガックリと肩を落としながら部屋を出ていった。


 その後ろ姿を見送ったテレサは、おもむろにウルリカに向き直る。


「あの、ウルリカさん。ありがとう……」

「お義姉様も、ちゃんといらないって断ればいいのに。父様に遠慮してどうにか身につけようと四苦八苦して。そういうの、無駄な努力って言うのよ?」

「お父様も、良かれと思って贈ってくださったわけですもの……」

「ありがた迷惑ってやつよね」


 おずおずとお礼を言うテレサに、ウルリカは肩をすくめる。


「それで、そのぅ、ウルリカさんも、本当に留学されるの? ウルリカさんは顔も頭も、とっても可愛らしくていらっしゃるのに……」

「あたしが可愛いのは当然だけど、しれっと馬鹿にしないでちょうだい。確かにあたしは勉強は嫌いだけど、パラス王国では就職のツテを探すつもりだし、それが上手くいかなくたってあちらの最先端の流行に触れられるだけでも、行く価値はあるわ」


 それだって留学する理由としては、十分でしょ。と、胸を張って鼻を鳴らす。


「だいたいあたしは、お義姉様の方が心配だわ。おどおどしてる癖に無自覚に人を見下して、しかも一言も二言も多い。留学先でもイアン様の時のような騒動が、いくらでも起きそうだわー」

「フロニー様のことは、仕方がなかったのよ。だってあの方、将来自分が義兄になるからって、ウルリカさんのことをよこしまな目で見ていて」


 テレサは眉根を寄せて、ため息を吐く。


「だけどいまだにウルリカさんに近付くだなんて、もっとキツく言って差し上げた方がよかったかしら……?」

「充分だったと思うわよ。と言うか、泣いて逃げ出すまで追い詰めるのは正直やり過ぎだったわ」


 お陰で義姉の元婚約者であるイアン・フロニー伯爵令息は、テレサの話題を振るとあからさまに動揺して、とっととその場を立ち去ってしまう。

 その為行く先々で付き纏われても、ウルリカはちょっと鬱陶しいなと思うだけで済んでいた。


「ほんと、父様は装飾品やドレスを見る目がないだけじゃなく、人を見る目もさっぱりなんだから」


 たからいくら釣り書きが送られてこようと、ウルリカは父が選んだ相手とだけは結婚するまいと思っている。


「あ、そうだわ。何だったら、お義姉様の結婚相手もあたしが選んであげましょうか? 人を見る目はあるか分からないけど、趣味は良い方よ?」


 にんまりとウルリカはテレサに笑いかける。

 その如何にも何か企んでいますと言う顔に、きっと自分を甘やかす、都合のいい相手を探したがるんだろうな、とテレサは苦笑する。

 そんな考えの甘さがウルリカの可愛いところでもあるわけだが。


「考えておくわ……。ふふ、でもウルリカさんといっしょに留学できるなんて、楽しみだわ」

「お義姉様は大船に乗った気持ちでいるといいわ。何せ、あたしみたいな美人がいっしょにいたら、大抵のことは何とかなるに決まっているもの!」


 ふんす、と得意げに鼻を鳴らすウルリカに、テレサは頷いた。


「ええ、頼りにしていますわ。ウルリカさん」


 実際に、たったひとりで異国に赴くことに比べたら、義姉妹が揃っている方が何倍も心強いのは間違いない。

 そして、ウルリカさんはお馬鹿で可愛いわ、としみじみとつぶやくテレサは、いつものようにウルリカに怒られるのだった。





【おまけの人物紹介】


 テレサ・オズワルド(17)

オズワルド子爵家の次期当主。

大抵の人間より、自分の方が頭が良いと思っている。

ウルリカくらい可愛ければ、馬鹿でも人生問題ないだろうとも思っている。


 ウルリカ・オズワルド(10)

お洒落が大好きな、オズワルド家の可愛い末っ子。

美人なら、大抵のことがどうにかなると思っている。

テレサくらい頭が良ければ、美人でなくても大抵のことが何とかなるだろうとも思っている。



○最後まで読んでくださって、ありがとうございます!

○感想、いいね、★〜★ ★ ★ ★ ★での評価等を頂けますと、とっても励みになります!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なにこの凸凹姉妹wwwと笑って癒されました。「役不足」が正しい方の意味なのが後からわかる仕掛けも好きです。父親プレゼントのアクセサリーの趣味が本当によろしくないのにも笑ってしまいました。 面白かったで…
>ウルリカくらい可愛ければ、馬鹿でも人生問題ないだろうとも思っている。 >テレサくらい頭が良ければ、美人でなくても大抵のことが何とかなるだろうとも思っている。 よく似た姉妹(o・ω・o) 読んでて…
なんだこの姉妹w まあ二人揃えばちょうどいいのかな? しかし同い年の王子一行はともかくイアンキモいなー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ