第8話:対策
第8話:対策
「鯨の中には30メートルを越えるものがいるわ。大海蛇は数百メートルの物もいると言われています。巨大な生物はいるのです」
「この生き物は、普段は地中で大人しく土を食べて暮らしていたのだと思います。そのため、人の目のはつかなったのでしょう。今回、何らかの理由で、アイゼン山脈から出て、王都に向かっています。その目的が分かれば対策はとれます。そして、これが生き物なら目的はそれほど多くはありません。やりようはあります」
「ほほう、さすが博物学者だ。これはマリーベルの専門という事じゃな」
「そうです」
マリーベルは自信をもってそう答えた。
マリーベルが俺に向き直って質問した。
「ハインツ殿、あなたが森の動物だとして、熊でも、キツネでもなんでもいいです。何のために動きまわりますか」
「それは簡単だ、食べ物を求めて動き回るだろうな」
「その通りです。動物は、第一に自己保存を求めます。その為には第一に食べ物が必要になります。だが、この生き物にはその必要がありません、どこにでもある土を食べているため、そのために移動する必要がないんです。でも移動している」
「そこで、次の質問です。動物は、食べ物以外で何のために移動しますか」
俺は少し考えた。
「食べ物の次は、番を求めるだろうか。こいつがオスかメスかは知れないが、異性を求めているんじゃないか」
「素晴らしい。まさにその通りです。動物は、第一に自己保存を求めます。次は子孫存続です。だから、この生き物は番を求めていると思います」
「他の可能性はないのか。例えば、もっと強い生き物から逃げているとか」
「他の可能性はいくつか考えられます。環境の変化で居場所を移るしかなくなること。それからより強い生物から逃げること」
「環境の変化については、この地方の環境に変化がない事、他に移動してくる同様の生き物が報告されていないことから否定されます。環境の変化で移動するなら、こいつの他にもいくつも別個体が移動するはずです、それがみられません。最後のより強い生き物から逃げているというなら、こんな化け物が逃げるような生き物には、人間は対応できないと思います。即刻避難を勧告します」
「しかし、その必要はないと思います。なぜならこの生き物は、まっすぐ王都を目指しています。他の理由なら、どこに向かってもいいのではないでしょうか。やはり王都に何か原因があるのです」
「それは一体なんじゃ。こいつの番ならおんなじ位の大きさがあるじゃろう。絶対に目立つぞ」
「良く分かりませんが、ある種のアンコウは、オスがメスの十分の一以下の大きさしかありません。異性がかなり小さいのでは」
「十分の一でも30メートルじゃ。絶対にめだつ」
「でも、あとは子供を助けに行くとかした考えられません」
「こどもも大きいから目立つじゃろうな」
皆うーんとうなって声を出さなくなった。
「皆さま、食事が出来ました。お召し上がりください」
食事係が昼食をもってきた。
「とりあえず昼飯を食おう。少し休んだ方が良い」
「そうじゃな、メシ、メシ」
食事は、野菜スープ、ベーコンとチーズを挟んだサンドイッチと、ゆで卵だった。
「これはうまそうじゃな」
カミーラがサンドイッチにかぶりついていた。
マリーベルが、その昼食をみた瞬間、体が固まったように動かなくなった。一切の動きを止め一点を凝視していた。そして、その後全身がワナワナと震えだした。
その視線は真っ直ぐゆで卵に向かっており、微動だにしなかった。
「ルーデンドルフ嬢、どうしたんだ」
余りにも異様な光景に、俺は声をかけた。
「これよ、目的は番でも、子供でもないわ。きっと卵よ」
マリーベルはゆで卵を高く掲げながら言った。
「こいつの卵が王宮にあるのよ。それを取り返しに来ているんだわ」
「なぜ卵が王都にある」
「色々な可能性があるわ、建築資材として利用されたか、何らかの研究素材として運び込まれたのかもしれないわ。そして、もしかしてその卵の外見がとてもきれいだったから宝石としてしまい込まれているのかも」
その時、ブフォと音がして、カミーラがサンドイッチを吐き出した。
「それを聞いて思い出したことがあるんじゃ。約三十年前に、山崩れが起こり、そこから巨大なオパールが出てきたことがあったんじゃ。もちろん王家に献上された」
「その山とは」
「アイゼン山脈じゃよ」
「それよ。話は全部つながったわ」
マリーベルが興奮して叫んだ。
「しかし、なんで三十年前の卵を今取り返しに来たんだ」
「どうして分からないの。その卵が、今孵ろうとして、卵から出ようとしているからよ」
マリーベルが叫んだ。
「なんだと」
そこにいた全員が硬直した。
「すぐ王都に帰還しないと」
「そうすべきね、あの卵を親にかえさないと王都は破壊されるわ」
「総員撤退準備、王都に帰還する」




