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第5話:専門家登場

第5話:専門家登場


この岩山に対し、俺たちでできる調査はした。

岩山の大きさは、全長304メートル、幅は68メートルだった。高さは概算100メートル。アイゼン山脈より出現し、ここグランツ近郊までまっすぐやって来た。その速度は一日約864メートル。そして、まっすぐ王都に向かっていた。この岩山が何か、なぜ動くのか、どうして王都に向かっているのかは、全く分からない。この謎を解くのは俺達では無理だ。


王都に行き、専門家に調査を依頼しないといけない。専門家がいればいいんだけど。まあ全く当てがないわけじゃあないんだけどね。


俺達は、夕刻に、王都に着いた。

外城壁の門を通過し、内城壁内の騎士団総本部に駆け込んだ。

「私は、第三騎士団副団長の、ハインツ・ギースラ―です。騎士団総長に面会を申し込みます、緊急事態です」


副団長の肩書が効いたのか、すぐに騎士団総長の部屋に案内された。騎士団総長は、全騎士団を統括する、騎士団のトップである。


重い扉を開けると、そこは総長室だった。


騎士団総長はゲオルグ・フォン・カーマイン公爵だった。髪は白色になっていたが、その巌のような肉体は健在だった。そして、その眼光は鋼のように鋭かった。

俺は、これまであったことと、調べたことを全て報告した。


「それは、本当の事なのか。信じられない事態だ」

「誓って本当です。現在まで判明していることをまとめた報告書を提出します。そして是非、この事態の謎を解ける専門家を派遣してください。そして、あの山は王都に向かっています。まだ時間はありますが、先々王都が危険にさらされる可能性があります」

「分かった、とりあえず調査は必要だろう。ただ、前代未聞の状況だ。誰に頼めばいいかも考えねばならない。少し時間がかかるぞ」

「時間の余裕はあります、王都まで来るには、最低数か月かかると思います」

「そしてその専門家ですが、一人心当たりがあります」

「ほう、誰だね」


あのクソババアに頼むのは癪だが、こんな訳の分からない事態をなんとかしてくれそうなのは、あのババアしかいない。以前関わって大変な目にあったけど、あのとんでもない大事件を最後には解決したしな。ここは仕方ないか。


「宮廷魔導士のカミーラ様です」

「あのクソババアに頼むのか。お前なかなか勇気あるな」

総長が感心したように言った。

あんたもクソババアと思っているんかい。


「はい、魔法関係では、彼女に頼むしかありません。その他の部門の専門家は広範な知識を持つ彼女に人選をまかせるべきかと思います」


「お前がそれでいいというなら、彼女に連絡しよう。本当にそれでいいんだな」

「本当は嫌です。でも今回はそれしか方法がないと思います」

俺は総長に全てを託し退出した。


数日後呼び出しを受けた。


総長室に出頭すると、総長の他に二人の人物がいた。


「なんだ、ギースラーの坊っちゃんじゃあないか。以前の件では世話になったな。しかし、あんだけひどい目にあったのに、また儂を呼ぶとは、何か悪い趣味でも持ってるんじゃないのか」

十歳くらいに見える童女がニヤニヤ笑いながらそううそぶいた。


こいつは宮廷魔導士のカミーラだ、見た目は可愛い童女だ。だが中身は300年以上生きていると噂されている悪魔のような魔女だ。そして、目的のためにはいっさい手段を選ばないという冷徹さがある。7年前北部火山地帯で悪竜が復活しようとしたことがあった。その悪竜は約四百年前に一度復活したことがあった。そしてその時は、国の総力を使って封印されるまでの間に王国の北半分を焼き尽くしたという。

それに対し、カミーラは途方もなく高度な土魔法を使い、悪竜が眠っていた火山を噴火させたのだ。そしてその溶岩で悪竜を焼き殺したのである。もちろんそれで悪竜の被害はなくなったが、その後の噴火によって降った火山灰に対する復興には5年以上かかった。その復興の責任者が俺だ。悪竜による災害に比較し、1000分の1以下の被害で済んだと、この仕事は非常に高く評価されている。だが、その後始末をしたのは俺だ。物凄く大変だったんだぞ。


「ああ、覚えてるとも。とんでもなく大変だったよ。でも、あんたは問題を解決した。今回もそのくらいの事件なんだ。もうあんたに頼むしかないんだよ」

「お前にあんた呼ばわりされるのは心外だが、それはそれとして、それほどの事件なんじゃな」

「あれほどの被害はでないと思う、だが訳の分からなさでは、あれ以上だ」

「俄然、興味が湧いてきたぞ。詳細を教えろ」


「その前に、もう一人のその人は誰なんだ」

カミーラの隣には20代半ば位と思われる女性が立っていた。燃えるような赤毛をもつ目も覚めるような美人だった。そしてなぜか粗末な乗馬服を着ていた。

「ああ、こいつはマリーベル・フォン・ルーデンドルフだ。あのルーデンドルフ公爵家の3女だ」

「そんな大貴族のお嬢様が、なぜここに」

「私は、博物学にとらわれたのです。生物とは何なのか、いろいろな生き物がいるのはどうしてなのか。生きているとはどういうことなのか。死んだらどうなるのか。物質は何でできているのか、物をどんどん小さくしていくと、その元にたどり着けるのか。星とは何なのか、月も太陽も丸いのに、地球は丸くないのか。丸いならなぜ我々は滑り落ちず立っていられるのか。それについて古代ロマ学派では 」

「もういい、こいつはこういう奴なんじゃ。いったん疑問が起こるととことんまで調べないとすまないんじゃな。研究のために楽じゃと、いつもこんな格好をしているんじゃ。2回結婚しているが、2回ともすぐ離婚されている。それからは公爵もあきらめて好きに研究させているようじゃ。今回の調査には適格だと思って連れてきたのじゃ」

俺は今回の事件を最初から説明しだした。途中から二人の瞳が爛々と光りだすのが分かった。


「そんな面白い事件が起こっているのか。なんで教えてくれなかったんじゃ」

いや、今教えているだろう。第一報に近いんだけど。


「それはとても興味深いです。ああ世の中はすばらしい驚異に満ちています。私は神に感謝します」

おいおい、こっちはお祈りまでしだしたよ。


その時、総長が立ち上がり、厳かに宣言した。

「ハインツ・ギースラーに命ずる。その動く山の調査を命ずる。宮廷魔導士カミーラ、博物学者マリーベル・フォン・ルーデンドルフにも同道を命じる。そのほか第一騎士団第1大隊と補給部隊を応援として付ける。この件は宰相を通し陛下にも話は通してある、よってこれは王命である」

全員が直立し敬礼した。

「力を尽くします」




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