第26話:問題判明
第26話:問題判明
俺達は、最後に湖が目撃された地点に到着した。
そこには本当に何もなかった。見渡す限り荒野が広がっており、一木一草もない石と砂のみの大地があるだけだった。
「本当に何もないな」
俺は周囲を見回してつぶやいた。
マリーベルが意味深に俺を見つめた。
「お父様とお話はしたの」
「しました。そして、俺はそれを全て受け入れます。しかし、それもこの事件を解決した後です」
マリーベルは安心したように頷いた。
「そうね、ならこの事件を早く解決しましましょう。それから私と特別に親しい人は私のことをマリーと呼ぶわ。今からそうしてくださいますか」
そういや、公爵もマリーって呼びかけてたもんな。
「わかった、ではマリー。何かいい案はあるか」
「本当は、魔導士に飛んでもらい、上空から捜索してもらうのが安全で良いと思いますが、どうでしょうか」
すぐ横でニヤニヤして俺たちの会話を聞いていたカミーラが初めて口を開いた。
「無理じゃな、今回は空を飛べる魔導士が儂しかおらん。そこまで働く気はないなあ。騎兵で捜索するしかないじゃろう」
「仕方ないか。魔導士は貴重だからな。よし、捜索隊を八隊形成する。45度ずつ八方向に偵察を行う。一隊四騎で形成し、二騎を先行させ、残る二騎は後方1キロを走行させろ。先行する騎士に何かあったら、確認せずに何があっても報告に戻るように。これは厳命である。そして3時間走行し、何もなかったら戻ってくるように」
「何人もの商人が、原因、方法ともに不明のままさらわれている。その生死は今でも分かっていない。このように、今回は命に係わる可能性がある。心してかかるように」
心苦しいか、騎士は命を懸けて民を守ると誓ってい居る。もとより命は捨ててかかる職業なのだ。
「湖に見える脅威ってなんでしょう。今回は見当もつかないわ。いったい何でしょう」
「マリーに分からないのが、俺に分かるわけがない。カミーラ様はどうですか」
「儂もさっぱりじゃ。こんな話は聞いたこともない。いったいなんじゃろう」
「偵察隊の報告を待ちましょう」
4時間後西に向かった第七隊が戻って来た。二騎のみであった。
「西に2時間ほど行ったところで、先行する二騎が突然馬ごと消えました。状況は全く不明ですが、命令もあり、報告しに戻っってまいりました」
その騎士は仲間を見捨てたのをよほど悔いているようにみえた。歯を食いしばって報告していた。が、ここはこれで正しいのだ。この二人が報告に戻らなければ、何かがあったことが、いつまでも分からないことになる。
「君たちが仲間を助けられず、苦しんでいるのは分かっている。だが、私はそう命令した。そのとおり帰還した君たちが正しいのだ。こののち何があっても全ての責任は私にある。君たちが苦しむ必要はない。そして私を恨んでもらっても結構だ」
これが俺の任務だ、恨まれることは慣れてるよ。
「これで異変の元は西にあるのが分かりました。カミーラ様西に飛んでください」
「いいじゃろう、そのくらいはしてやる。儂の箒は3人くらいはのれる、ギースラーとマリーベル位は乗せてやるがどうする」
「勿論行きます」俺たちは異口同音に叫んだ。
「パウル、後のことは君に任せる、異変の元は、ここより西、騎兵で2時間の距離にあるようだ。偵察隊が全員帰還したら、総員西に向かうように、が、偵察を厳にして、行き過ぎないように。これ以上の被害はこうむりたくない」
「了解しました。総員揃いましたら、警戒を厳にし、西にゆっくり向かいます」
俺とマリーベルは、カミーラの箒にのって、空中にあがった。
もう夕方だった。周辺に小さなむら雲がある以外は、空は澄み切っていた。夕日がいま地平線に沈もうとしていた。荒野も空も全てが茜色にそまっていた。
「なんて美しいの。こんな事件じゃなく。何もない時にこれをみたかったわ」
マリーベルが感極まったように言った。
「ああ、俺もそう思うよ。本当にきれいだ」
「まあ、きれいじゃの。しかしそろそろ異変が起こった所に着くぞ、周囲を見張るのを忘れるな」
俺は周囲を見回した。さらに西に何かチカっと光る物があった。
「あれじゃないですか」
俺はそれを指さした。
「なるほど、何か光っておるな。速度を上げるぞ、落ちんようにつかまっとくんじゃぞ」
その上空に達した。
そこには、それこそ湖にみえる、巨大な光る透明な物体があった。
「あれはいったいなんだ、湖とも思えんが」
「何と、あれはいったいなんじゃ」
「あれはスライムです、それも途轍もなく巨大な」
マリーベルが断言した。
俺は息をのんだ。
「推定30メートルはあるぞ」
「あの光る物の中央を見てください。核があるのが見えます。大きいだけであれはスライムです。普通スライムがあそこまで大きくなる事はありません。非常に珍しい特異な個体なんだと思います」
その巨大で透明な物体は、確かに中央に核のような物があった。そしてよく見ると、周辺がアメーバのようにウネウネと動いていた。
「あれが、湖にみえたのか。そしてそれに興味を持って近づくものを食べていたんだな。これは脅威だ。退治しなくては」
「が、いったん帰ろう。対策を取らねば」
その時ヒュッと音がして何かが飛んできた。
俺はとっさに剣でそれを切った。何かが切れ、ねばねばした物が剣についていた。
「これはスライムの触手よ。これで獲物を絡めとっていたんだわ」
「ここまで届くんじゃな。これは脅威じゃ。ギースラー助かったぞ」
流石にカミーラと言えども肝を冷やしたようだった。
「今は逃げましょう。そして巨大なスライムがいることを報告しましょう」
マリーベルが断固として言った。




