第2話:開拓都市グランツ
第2話:開拓都市グランツ
「今、なんと言った」
「繰り返します。山が動いているとの報告がありました」
「それは、がけ崩れとか、噴火とか、そういう意味で言っているのか。何かの比喩か」
「いえ、純粋に約300メートルの岩山が平地を移動しているそうです。グランツ西方12キロ付近で、まっすぐ南下しているとのことです」
「酔っぱらいのたわ言を報告するな」
俺は、副官のパウルを見てそう言った。もう少しできる奴だと思っていたんだがな。
「いえ、報告者はハンター商会のキャラバンで、商会員10名、護衛の騎兵10名が全く同じことを申しております」
「ハンター商会か」俺は右手で顎をつまんだ。俺が考えるときの癖である。ハンター商会はこの王国有数の商会だ、あまりいい加減なことは言わないと思うが。山が動いているだって。そんなわけないから、何かの幻覚か。全員が同じ幻覚をみているのかな。幻覚をもたらす毒草でもあるのか。
ここは王国北方にある開拓都市グランツである。20年前に銀鉱山が発見され、鉱山と鉱山都市が開発されたのだ。最近では金鉱山もみつかり、発展の一途をたどっている。人口は急増し、怪しげな店も増えていて、治安がいいとは決して言えなかった。
そのため、王国の北部を管轄する第三騎士団の大部分が派遣され、治安維持にあたっている。もちろん騎士団だけでは手が足りないので、歩兵部隊と現地採用の警備隊も働いている。
ここはグランツの騎士団本部で、俺は第三騎士団副団長ハインツ・ギースラ―という、ここの騎士団の副団長だ。ただ団長は欠員でいない、本当は俺が団長になるべきなんだろうが平民出身なので団長にはなれないので、副団長のままこの騎士団を指揮している。
俺は年は34才、灰色の眼、灰色の髪をもつがっしりとした体格の騎士である。そこそこ男前だと思っているが、他の人の意見は違うかもしれない。剣の腕は騎士団の中で5本の指には入ると思っている。
で、目の前にいるパウル・フォン・リンデマンは俺の副官である。金髪碧眼の良く整った顔をもっている。その上貴族の子弟でもある。しかし、貴族の割には性格がよく、しかも良く働く。
「面倒だが、調査団を出さんといかんな。よし、俺が第二小隊を率いて現地に向かう。留守は第一小隊長に任せる。すぐ準備にかかってくれ。さらに何らかの幻覚作用のある毒草の可能性がある、それに対する用意をするように。こんなくだらない事に時間を取られたくない。すぐ解決する。明朝には出発する、いいか」
「了解しました、第二小隊と副団長、小官、軍医一人の騎兵部隊を編成します。現場は近くですが、念のため3日分の食料、水、秣を用意します。毒消し、薬草、薬もできるだけ用意します」
パウルは敬礼を返すと、準備のため部屋を出ていった。なんだよ、やっぱり優秀じゃないか。
キンバリー王国は、中央大陸東方にある中規模の王国である。王国ほぼ中央に王都キンバリエがあり、東は海であり漁業が盛んだ。西は山脈を挟んで西方諸国とつながっているため交易が盛んになっている。南方は、豊かな穀倉地帯となっているが蛮族が盤踞する密林地帯と接している。北方は、広大な荒れ地となっているが、鉱山が開発され、さらに最近荒れ地でも栽培できるイモ類や穀類が開発され、現在入植が進んでいる。いま一番騒がしい地域である。
総じてこの王国は色んな産業が盛んで、豊かな国となっている。
騎士団は、第一騎士団が王都の治安維持を担当している。また第二騎士団が東方を守備している。この二地区は治安が非常によく、騎士団にあまり活躍の場がない。そのためあまり強いという話を聞かない。むしろ弱いんじゃないかと言われている、気の毒に。
第四騎士団は、西方を担当している。王国は西方諸国とは仲がいいので、ほぼキャラバン相手の野盗退治が主な仕事になっている。そのためそこそこ強いと言われているようだ。
第五騎士団は、南方担当となっている。王国の国境を越えた南方は密林地帯になっており多数の蛮族がいて、隙あれば襲ってくる。それを迎え撃つこの騎士団は王国最強と言われている。その団長のヘルマン・フォン・デフィンガーは狂暴といわれるほど強いらしく、敵からは野蛮人と呼ばれ恐れられているそうだ。蛮族から野蛮人と呼ばれるって、どんだけだよ。
で、我々の第三騎士団だが、荒くれ者が多い北部開拓都市を担当しているため、第五の次に精強と言われているようだ。光栄なことだ。
さて、明日から忙しくなりそうだ、今夜は早く寝ることにしよう。




