第11話:泳ぐ島
第11話:泳ぐ島
「あれーあれはなんじゃのう。あんなところに島があったかのう」
ここはキンバリー王国の東部、ルーデンドルフ公爵領の港町ベルゲンだ。
漁民の朝ははやい、朝もやの流れる中、漁に行く準備をしていると、その中の一人が港の中をみていった。
「ここに島なんかないだろう。もうボケたのか」
他の漁民がからかうように言った。
周りから笑い声が起きた。
「ガンツ爺さん、ついにぼけたか」
「まだ全然しっかりしとるわい。じゃあ、あれは何だというんじゃ」
港の霧が晴れてきた。そして、そこには大きな島が横たわっていた。
「島だ」
「あんなの昨日はなかったぞ」
そこに約50メートルほどの円形の平らな島があった。見た感じは、流木や海藻、雑多なゴミが絡みついてできた浮島に見えた。それは特になんの動きもなくただそこに留まっていた。
「浮島が潮の流れで流されてきたんだろう。あそこにいられると邪魔だな。おい、誰か港の役人に報告してこい」
「ああ、俺は昨日の漁で怪我しちゃったんで、今日は休む気だったんだ。俺がお役人様の所に行ってくるよ」その中の一人が言った。
「頼むぜ。じゃあ俺たちは漁に行くぞ」
「おー」
全員が勇ましく船を漕いで沖へ向かった。今日の漁が始まるのだ。
ここベルゲンは、以前は漁港として、さらに交易船の泊地として栄えていた。しかし、北部の王直轄地に同じような港が築かれ、またルーデンドルフ領でも南部に非常に港に適した場所が発見され、そこが大々的に開発されたために、ここは衰退に向かっていた。交易は跡切れ、漁も近海ものだけになりつつあった。つまりただの田舎の漁港になりつつあったのだ。
数日後風向きが良くなったので、ルーデンドルフ家の海上警備隊の帆船が浮島を曳航し、港外に引っ張っていった。
その翌日。
「あれ、あの浮島は昨日港外に運び出されたんじゃないのか」
「ああ、確かに、風の具合がいいから帆船で運び出されたはずだ」
「だが、またここにいる。戻って来たんか」
「どうやって」
「しらんがな」
そこにはいつも間にか、50メートルほどの例の浮島が居た。
さらに何度か、船で港外に運んでいったが、翌日には港の中に戻っていた。
みんな、あまりのことに呆然としていた。
「あの島は泳いで戻ってくるのか」
「泳ぐ島か」
「どうして戻ってこれるんだ。見た目はただの浮島だぞ」
「そんなことは不可能だ」
集まった漁師達ががざわつきだした。
「もしかして呪いなのでは」
「呪いだって」
「何の呪いなんだよ」
「今まで殺生してきた魚の呪いなんじゃあないか」
「そんな馬鹿な。そんな話は聞いたことがないぞ」
「漁師が魚を取っちゃけないならどうすればいいんだ」
港では喧騒が大きくなり、暴動一歩手前となった。
第2騎士団が出動する騒ぎとなった。その報告は、港湾管理の事務所に伝わり、さらに報告が領都にまで伝えられた。
最終的には、その報告はルーデンドルフ公爵その人にまで伝えられた。
公爵は一瞬頭を抱えたが、すぐに最近似たような事件があったことを思い出した。山が歩くんなら、島も泳ぐだろう。
そして、その事件を最終的に解決した人が誰なのかはようく分かっていた。その人に頼めばいいのだ。そしてその人は彼にとって大変頼みやすい人だった。
ルーデンドルフ公爵は、愛娘にあてた手紙を書き始めた。




