第10話:事後報告
第10話:事後報告
事件が終わった後、宰相から呼び出しがあった。
「今回の事件では、博物学者ルーデンドルフ嬢、宮廷魔導士カミ―ラ様、騎士ギースラー殿の功績が大きい。王都の危機を救ったこと王も称賛しておる。それで、報償を与えたい。何が良いか、希望を述べよ」
「金じゃな。くれるだけくれ」
「私も研究費が良いです」
俺が黙っていると、宰相が催促した。
「どうしたギースラー殿、遠慮はいらんのだぞ」
「では、言わせていただきます。王国北部の治安維持は第三騎士団の管轄です。それを全うしただけであり、今回の事件は通常の業務の範囲と考えます。私への特別な報償は必要ないと考えます」
カミーラが驚愕していた。お金がいらんのかと。
マリーベルは尊敬の眼差しを向けていた。まさかこんな男がいたのかと。
「そういう訳にもいかん。では騎士団への待遇改善の費用とするのではどうか」
「それならお受けいたします」
王城から帰る途中、マリーベルが追いかけてきた。
「本当にあれでいいの」
「勿論だ、通常の業務内の仕事さ。俺は今回あんまり仕事していないしな」
「あの歩く山の予備調査。本格調査の準備、調整、兵站の管理。第一騎兵団を含め調査団全体の指揮。これが業務内だというの」
「おお、俺にとっちゃ日常茶飯事さ。今回の調査での一番の功績はルーデンドルフ嬢あなただ。あれを生き物と見抜いて、その生態を探り、解決策を見出している。俺はその補佐をしただけさ」
マリーベルが目に感動をたたえているが見えた。
「あなたのような人たちが、きっとこの国を支えているのね」
「ああ、そうしたいとは思っているよ」
なんか偉い褒められた。俺は恥ずかしさから話を逸らすように別のことを言った。
「しかし、あんな生き物でも子供は可愛いんだろうな。番もいるんだろうな。恋愛なんかもあるんだろうか」
「あら、あいつらだけじゃなく私たちもしてもいいのよ。それにこれからはマリーベルと呼んでちょうだい」
謎めいた視線を俺に向けてきた。大貴族の娘と、平民だ、そんな関係にはまったくなれないな。ま、今なら疑似恋愛くらいはいいかな。
「それは、いいですなあ。それではマリーベル嬢まず食事なんかはどうでしょう」
マリーベルはちょっと複雑な表情を見せた。それから意を決したように言った。
「良いわ。ハインツ・ギースラー。今夜は、私の供を命じます。ついてきなさい」
「仰せのままに。地獄の底まででもついていきますよ」
マリーベルは、目を見開いて、芝居がかって右手を口に当てた。
「まあ、私は天国に行くつもりだったんだけど」
「ああ、その方が良いですな。じゃあ天国にしましょう」
「よし、では参るぞ」
まあ、つかの間の疑似恋愛だろうが、こういうのもちょっと悪くないのかもしれないなあ。




