第1話:歩く山
第1話:歩く山
「おい、あれはなんだ」
キャラバンの先頭にいた護衛の騎馬の男が叫んだ。
その指さすところには、大きな岩山があった。
キャラバンは停止し、みなその岩山をみつめた。
「こんなところに山なんかあったかなあ」その中の一人が不思議そうにつぶやいた。
「いや、よく見ろ。あの山はこの道を塞いでいるぞ、最近できたんだ」
その男の言う通り、彼らが進んでいる道の先に、その山はあった。道は完全に塞がれていた。そこはごくわずかな灌木を除けば、真っ平らな荒れ地だった。それが見渡す限り続いていた。
彼らは、ここキンバリー王国の商人たちであった。5台の馬車に、10人の騎兵の護衛が付いていた。この国のキャラバンとしては大きい方だろう。
このキャラバンは、王国の西にある国から大量の物資を買い付け、王国北部の開拓都市に向かう途中だった。食料、日用品がほとんどで全て開拓都市で必要とされるものだった。急ぐ必要はなかったが、あまり遅れるわけにもいかなかった。
「とにかくあの山まで行ってみよう」護衛している騎馬の隊長が言った。
「そうだな、ただここにいても仕方がない、行こう」
キャラバンが前進を再開し、ゆっくりと山に近づいていった。
「ただの岩山だな」
護衛の一人が、岩を叩きながらいった。それは本当にただの岩山だった。灰色の硬そうな石でできており、全体がゴツゴツしていた。草一本、苔一つ付いていなかった。
「高さ100メートルてとこか」
「前後も300メートルほどだ。迂回できないこともないな」
「でも、いったいこの山はどこから出てきたんだろう」
「地中から盛り上がったかな」
「そういや、そんな話を聞いたことがあるぞ。突然火山が噴火して、岩山がせり出してきたなんてことがあったような」
「その話は俺も聞いたことがある。でも噴火に伴ってできたんで、地震、噴火がひっきりなしにおこっていたというぞ」
「ここは地震も噴火もなく、いたって平穏だな」
「うーむ」
その時、山の先端を見に行っていた一人が悲鳴をあげた。
「なんだ」
全員がそこに駆け付けた。
「どうした」その男はひっくり返って後ろ手に手をつき、喘いでいた。
「よ、よく見ろ。この山は動いているぞ」
「何だって」
全員がその男の指さすところをみた。
とっ、その岩山は、ズズッ、ズズッと音を立てながら、少しづつ進んでいるではないか。
それを見て全員が声もなく立ち尽くしていた。
「この山が動くのか」
「こいつはとてつもない異常事態だ。とにかく開拓都市に早く知らせよう」
「そのとおりだ、急ごう」
全員が馬車と馬にのり、岩山を迂回し、開拓都市に急ぐため馬に鞭をあてた。




