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空虚な輝き

作者: 苗木

現代世界でよく耳にする言葉である「個性」や「多様性」という人間の存在意義を表すために使われる言葉たち。わたしはその言葉のあり方について1度自分なりに追ってみて短編小説にしてみました。拙い文章ですがぜひ考察もしてみてくれたら嬉しいです。




薄明かりの雲の下、街角に一人の男が立っていた。




彼は静かに立ち尽くし、どこか遠くを見つめている。すれ違う人々は彼にほとんど目を向けることなく通り過ぎて行くが、彼の姿はどこか異様であった。




高価なブランド物のスーツに身を包み、顔に浮かべたのはどこか誇らしげな表情であった。それが一瞬、街の景色に溶け込むように見えたが、すぐにそれは不自然であることに気づかされる。




まるで誰かに見られていることを前提に、その姿を作り上げているような印象を与える。




「これで、私は他の誰とも違う」




その思いが男の顔を一層引き締めた。しかし、よくよく見ればその違いはスーツだけであり、単に意図的に目立とうとしているだけのように感じられる。それを見たものが感じるのはただの虚しさと滑稽さだけであっただろう。






人々が彼とすれ違う中、カナは視界にその男が映ったとき、思わず足を止めた。男の顔が、どうしても耳に残った言葉を思い出させたからだ。それは何度も耳にしたことばであった。




「自分を見せつけること。それこそが世界に認められる道だ。」




カナはその言葉に憤りを感じたのを覚えている。それは、まるで周囲の世界が一斉に唱える合言葉のようで、彼女の心を引き裂くようだった。




薄汚れた路地を抜けると、目の前に広がるのは、無機質な建物が立ち並ぶ通りだった。




人々は無表情で歩き、互いに視線を交わすこともなく、自分の行くべき場所へと急いでいる。だが、その目の奥には、何かしらの欲望が見え隠れしていた。




誰もが、他者から認められることを求め、誰もが、その認められる基準に従っている。人と違うこと、目立つこと、それが価値だという社会が、カナには耐えられなかった。






彼女は、これまで数多くの人々を見てきた。みんなが同じように、誰かに認められるために、誰かの目を引くために、必死に努力している。




しかし、彼らの努力が果たして何を生んだのか、カナには見当もつかなかった。すべてが空虚だった。




それはまるで自分を作り上げるために、他人の目を気にし、他人の評価を求める行為が、最終的にはただの虚無に帰していくようなものだった。




そんなことを考えていると、カナはふと駅


前の大きな看板に目が留まった。そこに


は、無機質なフォントでこう書かれてい


た。




「あなたの個性、見せつけてみませんか?」




その言葉を見たとき、カナはぞっとした。誰かが言っていたような気がした。




「個性とは、見せつけるものだ」と。




しかし、カナはその言葉が、まるで指示されているかのように感じられてならなかった。今の世の中では、個性を持たない者がいないように、個性を誇示しなければならないという圧力が、目に見えない形であちこちに漂っていた。




そして、それが無意識のうちに誰もが他人と差別化することを求め、他人の評価に依存させているのだ。




カナは息を呑んだ。その看板に、自分の姿が映ったような気がした。彼女は他の誰かに認められるために生きてきたわけではなかった。




それでも、どこかで他人の目を気にしていた自分がいる。そのことに気づいて、彼女は嫌悪感を覚えた。




「見せつけること、それが個性なんて…」




カナはつぶやいた。言葉が自分の心に響き、次第にその響きが胸の中で反響し始めた。




もし「個性」を見せつけることが本当に大切だとしたら、私の存在は一体何だったのだろう?目立とうとすることが正しいことだと言われる世の中で、何をしているのだろうか? 




すると、先程の男が彼女の呟きを聞いていたようで、男が彼女に話しかけてきた。男が彼女を見つめる視線はただの好奇心や無関心でない、なにか深いものがあった。




「お前も、変わりたいと思わないか。見せつけなきゃいけないんだろ。」




男が不意に言葉を口にした。それは、まるで彼女の心の奥にずっと潜んでいた疑念を引き出すような、鋭い一言だった。




無意識のうちにカナの心はその言葉に反応した。そして、男の顔がどこか虚ろに見え、まるでその言葉が無理に押し付けられているようにも感じた。




彼が言っていることが本当に「正しいこと」なんだろうか?




カナはその問いに答えることなくただ静かに男を見返した。




「本当の個性ってそんなもんじゃない。」




カナは呟くと、男の目が一瞬揺れ動いた。それをみて、カナはようやくその男が、ただ「個性」を押し付けられ、無理に演じているだけの存在であることに気づいた。




彼女は歩き出す。男の視線を感じながらもゆっくりとその場を離れていった。心の中には、以前とは異なる静かな確信が芽生えていた。




「らしさとは、他人に見せつけるために存在するものではない。」




カナは、今やそのことを確信をもって言えた。


彼女は歩きながら、空虚な街の景色を見つめた。


それはただの「空白」のように見えた。誰もが他人の目を気にして、他の人の評価を求めるその姿は無意味であるかのように映った。




しかし、ふと振り返ると、男はまだその場に立ち尽くしていた───


ここから作品で伝えたかったことを話します。自分でも何を言いたいのかわからず言葉がまとまらなかったのですが、ぜひ見ていってください…!


─────────────────────


現代社会でよく耳にする「個性」という言葉。個性とはいわゆる「みんな違ってみんないい」を意味する言葉であると私は考える。




しかし現代では、目立つこと、人と違うことが素晴らしいと考える風潮にあると思う。つまり、コミュニケーション能力が有無を言わす時代に変遷してきている。




承認欲求を満たすため、人々は少しでも人と違う自分を作り上げる。本当の自分は違くても、他人に認められるために嘘の仮面を被る。




個性とは作るものなのだろうか?




⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺




個性や多様性を主張し続けることで行き着く末路は無関心なのではないか。無関心は、個性を見せつける人を素通りするというシーンで表現した。




今は多様性の時代であるため、配慮をしなければならない、差別は良くないという世の中になってきている。だから、そういう発言を少しするだけで、SNSでは大きなバッシングを受けてしまう。




だからそれを経験した人は多様性や個性についての話を自己防衛のためにしなくなる。




だが、多様性を受け入れないこともまた多様性と捉えることはできないだろうか?結局は負のループに陥り多様性という言葉も意味をなさない。




つまり、「多様性の時代なんだからこれは認めろ」という主張自体が多様性に反しているのである。




そのため、過度な主張の行き着く先は無関心であるのだ。誰もが仮面をかぶりながら、誰もが他人に触れようとしない。表面だけの薄っぺらい会話しかできなくなるだろう。




今私達がするべきことは、個性や多様性を主張しすぎるのではなく、それが当たり前に受け入れられる世界にするべきではないか。人より目立つことばかりが個性ではない。いろいろな人がいるから世界が成り立っている。それが「当たり前」であることを理解しなければならないと私は考える。そのためには、人々が安定して生活していけるような社会が必要であり、心の余裕というものも重要になってくるだろう。




人によって考え方が違うのが世界の普通だ。それを統制しすぎるのではなく、主張するのが当たり前という風潮に流されるのではなく、あなたはあなたのまま生きていけばいいのだ。




さあ、あの男はどの道を選ぶのだろうか。仮面を脱ぎ捨てありのままで生きるか、個性を作りあげ世界に流されていくのか…。





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