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リバーサル・コラプション  作者: 新渡たかし
第1章 フリード王国編
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5話 シャルとの再会【改訂】

 あれからしばらく冒険者として依頼をこなしていった。

 組織の追手や騎士団の兵士にいつ見つかるかとビクビクしていたが、今のところ杞憂に終わっている。


 逃げ出して以来、組織のアジトとジベールさんの屋敷には近づかず話題にすることも避けた。

 そのため、未だにあの件の詳細はわからない。


「けど……噂だとジベール卿は事故で死んだということになっている」


 おそらくそういう風に処理するのが都合が良かったということだろう。

 どうも政治的なトラブルを抱えていたそうだが、この国の事情に詳しくない俺にはよくわからない。


 つくづく世界というのはどうしようもない。

 一部の権力者が得をするようにできている。

 そいつらにとって都合の悪いことはすべて揉み消されるわけだ。


「救えねえな。奥さんと子供だけでも逃げられていればいいが……」


 ギルドの依頼では魔物討伐などの危険な依頼は避け、薬草採取などの簡単なものしか受けなかった。

 魔物というのは俺はまだ見たことがないが、どうやらこの世界には存在するらしい。よくゲームなんかで語られるアレだ。

 今のところ出会うつもりは全くない。というか出会ったらすぐ逃げるだろうな。

 俺なんかが敵うわけがないし。


 支出を考えると資金は増えこそしなかったが、なんとか生活の基盤は確保できた。

 ようやく少し落ち着いたと言った感じだ。


「レイモンドさんのおかげだな」


 目が覚めてから今までの状況を考えると順調と言っていいだろう。

 そのうち少し難しい依頼も受けていって旅費を貯めれば、安全に別の国に逃れることも可能だろう。

 そのためにも、今はギルドの依頼を頑張るしかない。



 ――ギルドからの帰り道。


 宿と冒険者ギルドの間の細い路地を歩いていると、ふと気配のようなものを感じて振り返る。


「……気のせいか」


 誰に聞かせるでもなく、俺は思わせぶりにそう呟く。

 最近、何者かに視られているようなそんな気配を時折感じることがあった。

 結果はいつも取り越し苦労なわけだが。


「神経質になりすぎかな」


 いつ組織や騎士団から追手がかかるか分からないという不安が、そう感じさせてしまっているのだろう。

 気にしすぎるのも良くないな。


「ただ……今回に限っては気のせいじゃあないな!」


 俺は意を決して走り出し、角を曲がったところで振り返り息を潜める。

 足音が俺を追いかけるように急いで近づいてくる。


 足音の人物が角を曲がった瞬間、角の先で待っていた俺と目が合う。


「……あっ!」

「お前は――」


 屋敷から逃げる時に出会ったあの布袋の少女だ。

 黒髪ショートで凛としているが、まだ幼さは隠せないといった風だ。

 警戒と期待の入り混じった表情で、こちらを見ている。


「無事だったみたいだな。俺になにか用か?」

「えと、あの時はどうも。私はシャル。あの、一応魔法が使えます」

「俺はクロウだ。えーと、つまり……君が言いたいことは?」


 唐突に自己PRをはじめたシャルに面食らう。

 俺は君の面接官ではないのだが。

 だが、シャルは思いがけないことを言い出した。


「私を仲間にして頂けないでしょうか?」


 突然の申し出に言葉が詰まる。

 どうやら冗談などではないようだ。

 なんで俺みたいなやつの所にわざわざ来るんだ。


「なぜ、俺を?」

「実は故郷の村が無くなってしまって、身内はおろか知人と呼べる人もいません。それに、この王都内で戸籍を取ろうにも……」

「追われている身だ、と」


 シャルは一瞬ハッとした表情を浮かべ、無言で頷く。

 

 俺は思案する。

 たしかに仲間がほしいのは事実だ。

 常にパーティを組めれば、より報酬の高い依頼を受けることもできるだろう。

 そのぶん魔物や野盗と出会うリスクは上がるが。


 身の上に関しても同情できる話だ。

 できれば助けてやりたい気持ちはある。


 だが、俺はいつ組織や王都の兵士から追手がかかるかわからない身だ。

 シャルも似たような事情かもしれないが、だからと言って俺の事情に他人を巻き込みたくはない。

 誰かとつるむと俺の無能さが浮き彫りになるしな。

 負い目を感じて嫌な思いをしたくない。


 少し悩んだ末、俺は結論を下した。


「……悪いが期待には応えられないな。俺と一緒にいるのは危険だ」

「で、でも」


 その瞬間、『ぐぅ』という比較的大きな音が鳴り響いた。

 俺ではなくシャルの方からだ。

 シャルは顔を赤くして慌てている。


「はははは、とりあえず飯にするか? 俺の奢りでいいから来いよ」


 シャルは少し躊躇ったが、空腹には抗えないようで大人しく付いてきた。




 ◆




「てことは、王都の兵に?」

「……はい。キールの村は焼かれ、もう何も残っていません」


 食事をしながら、シャルの身の上話を聞いていた。

 どうやら彼女の姉は稀代の天才魔道士だったそうだが、魔族との戦いへの出兵を拒み続けていた。

 そのために危険視され、村ごと焼かれてしまったということだった。


「今は消息不明……か」


 彼女には肉親も友人も、もはやこの世にいないのだ。

 同情しないわけにはいかなかった。


 いったいこの国はどうなっているんだ?

 平和に暮らしていただけなのに、ある日突然なにもかもが理不尽に奪われてしまう。


 元の世界でアジトが急襲されたときのことを思い出す。

 俺の心は理不尽な世界へのやり切れぬ怒りに燃えていた。


「ところでその……魔族っていうのは?」

「えっ……魔族がなにか知らないんですか?」


 かなりビックリした様子のシャル。

 多分よほど常識的な事柄なのだろう。

 (いぶか)しみながらも答えてくれた。


「魔族は魔界に住む種族で、人間……特にこのフリード王国の人たちとは敵対関係にあります」


 魔界です、か。

 まーたよくわからないモンが出てきたな。


「魔界っていうのはこことは別の世界なのか?」

「はい。ゲートを通る以外に魔界へたどり着くすべはありません」


 ゲートを通って別の世界へ移動する。

 まるでアニメの世界だ。


「ふーん……魔界。魔族の住む世界か」


 少し脱線したな。

 本題へと戻ることにしよう。


「シャル、君は王都から今すぐ逃げたほうがいい」

「で、でも一体どこへ……?」

「ここからずっと東へ行くと、東国というこの王国とは別の国があるそうだ」


 俺も資金が貯まれば東国へと逃げようと思っていたところだ。

 外から来た流れ者にも割と寛容な国らしい。


 俺は懐から財布を取り出す。


「こいつを持って逃げろ」


 そう言って、有無を言わせず手持ちの資金が入った財布を彼女の方に差し出した。

 目の前の少女は困惑と驚愕の表情を浮かべる。


「え? わ、私……」

「いいか? まず、この金で信用できる冒険者を用心棒として雇うんだ。それで、東国まで連れて行ってもらえ。

 間違っても商会の魔導車や船は使うな。足がついて捕まる可能性が高い」

「え、でもこんな……だめです。頂けません」

「もう渡しちまったからな。返されても困る。それに、そんな大した額じゃない」


 おそらくこのままシャルが王都に残ったところで兵士に捕まるか、俺のように組織に連れて行かれるか、悪い人間に売られるかといったところだろう。

 シャルのような子供にそんな目に遭ってほしくはない。

 こんな国にはいない方がいいだろう。

 俺の方はしばらく金には困るが独り身だ。なんとかなる。


 多少強引だが、人助けってのはこういうもんだ。

 俺だってドームの外で助けられたときはそうだった。

 俺は振り向かずにそそくさとその場を後にした。

 困惑するシャル1人を残して。


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