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天使の反乱~地上編~  作者: ますっす
目覚めの章
7/12

パトロール 西部

三ヶ里はSOEF本部から北上していた。

神明町の西側は住宅街が広がっている。

大きな商店街もあり、お祭りの中心の一つとなっているのだ。

そのせいで人が多い。

混乱が起きると、後処理が大変そうだ。

迅速に対処する必要がある。

その時、


「こちら天菜!神明川南側中流地域にて反応あり!」


天菜からの報告があった。

一応、一人で大丈夫か聞いてみたが、どうせ必要ないに決まってる。

三ヶ里よりも後に想造力に覚醒したというのに、既に三ヶ里を超えている。

悔しいので、本人には絶対言わないが。


「軍は嫌!とか言ってたから張り切ってるだろうな。」


SOEF以外の軍団に先に見つかってしまえば、今後の人生が決定されてしまう。

SOEFには選択肢がある。

天菜としてはその選択肢を与えたいのだろう。

三ヶ里は命令されたからやる、程度のやる気だが、天菜は違う。

邪魔だけはしてはいけない。


「さて、もう少し北に行ってみようか。」


現在地は広場から見て真西だ。

もう少し行ってみよう。

商店街の人混みを抜け北に行こう、と商店街に入った時だった。

『真理ボックス』が光った。


「こちら、三ヶ里。反応があった。広場から見て西北西方向。SOEF本部から北に行ったところの商店街だ。」


人混みから離れ、商店街の路地裏で報告をした。

そしてなんやかんやあって、岩本さんが応援に来てくれることとなった。

距離があるから時間はかかるだろう。

その前に逃がさないようにしなくては。

報告と連絡を終え、路地裏から出て行こうと顔を上げる。

目の前に一人の少女が立っていた。


「こんにちは。誰とお話していたんだい?」


年齢的は中学生ぐらいだろうか。

きれいな長い髪を後ろで結び、真っ直ぐに垂らしている。

声は低め。

そして、見た目に似合わない喋り方をする。

まるで、ガキに話しかける大人のような喋り方だ。

だが、三ヶ里も大人だ。

この程度で怒ることはない。


「嬢ちゃんこそこんな所でどうしたんだ?俺は電話がしたくてね。あーほら、向こうは人が多くてうるさいだろ?」

「あはは、そうか。じゃあ、SOEFとは無関係なんだね。ごめんごめん。」


そう言って立ち去ろうとする少女。


「…嬢ちゃん。どこでその名を聞いた?」

「ふっ…どこって。君の口からでも聞いたんじゃないか?」


体はそのまま、首だけ振り返り、明らかになめた態度で少女が言う。

その目は見開き、三ヶ里を見上げているはずなのに、見下していた。

報告でも連絡でもSOEFの名は口にしていない。

明らかな噓。

この少女は前からSOEFの存在を知っていたことになる。


他の軍団の人間か?

いや、何であれ味方ではなさそうだ。

そうなれば、どうにか連絡を入れたい。

それと、相手の情報を集める。


「嬢ちゃん、名前は?そして、何者だ?」

「自分から名乗れない男はモテないよ。」

「…悪かったな。三ヶ里 明だ。」

波崎(ナミザキ) (アメ)だ。よろしく。」


何が「よろしく。」だ。

対等な関係など築くつもりなどくせに。

それに、俺はモテる。


「それで、何者か、だったけ?僕は人類進化研究会、高天原(たかまがはら)の一員さ。」

「人類進化研究会?タカマガハラ?聞いたことがないな。どういう組織だ?」

「おっ!興味ある?知りたい?知りたい?ねぇ、知りたい?」


いちいち腹が立つ奴だ。

知りたい、というか曲がりなりにも軍に所属する以上、聞く必要があるんだよ。


「ああ、そうだな。教えてくれ。」

「どうしよっかなぁ~」

「頼む。」

「そこまで言うならしょうがないなぁ、高天原って言うのはね、神様の住む場所のことだよ。あの有名な『天の岩戸』の話も高天原での出来事なんだってさ。」


…違う。

俺が聞きたかったのは日本神話の中での「高天原」の意味ではなく、組織としての「高天原」の説明だったのだが。


「そうなんだな。知らなかった。それで、人類進化研究会というのは何をしているんだ?」

「その名の通りさ。人類の進化について研究してるんだよ。」

「というと、猿人から原人になって…みたいなことか?」

「うーん残念、違うね。それは過去の出来事だろ?過去なんて振り返ってもつまらないさ。」

「だとしたら、何を研究しているんだ?」


こいつ、わざと的外れな回答をしてからかってやがる。


「それはね…」


波崎がきょろきょろと周りを見渡す。

見渡してもこんな路地裏では配管と室外機しかいないだろうに。


「ここじゃ言えないかな。ついてきて。」


罠の可能性もある。

だが、三ヶ里としても狭い場所にいるよりも開けた場所の方が戦闘になった時、戦いやすい。

罠であるリスクよりも、情報を得ることを優先したのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


街外れの廃墟。

人はいない。


「おい、ここはどこだ?」

「ん?別にただの廃病院だよ。人がいない場所で話したくてね。」


波崎は待合室のソファーに座る。


「さて、人類進化研究会についてだったね。進化の研究。それはつまり、想造力についてさ。」


やはりか。


「一つ質問させて欲しい。」

「もうずいぶんとしたくせに。」

「さっき街で想造力を使ったか?」

「うん。君たちは想造者を探していたからね。わざとおびき出したのさ。」


天菜の方もこいつの仲間のせいだろうか。


「なんでそんなことをした。」

「君たちに宣戦布告するためさ。」

「は?」

「『我ら人類進化研究会、”高天原”はこの国の人間を進化させる!!同時に、想造力の存在を隠してきた日本軍に対し、宣戦布告をする!!我らの活動を静観することを約束するのならば、日本軍の解散で手を打とう。邪魔をするというならば、皆殺しだ。』」

「おい、出来ると思うのか?」

「さぁね?それより、ちゃんとお仲間には伝えたかい?」


こいつ…

三ヶ里は廃病院についた時から、トランシーバーの通話を開始していた。

隙をみて行ったが、気付かれていたとは。


「そんなことはどうだっていいさ。それよりお前、随分と楽しそうに喋ってくれたが、ここから逃げられると思ってるのか?ここじゃ想造力も使いたい放題だぜ。」

「知ってるさ。そのために移動したんだから。」


両者がにらみ合う。


「”減速”しろ!!!」


先に仕掛けたのは三ヶ里だ。

波崎の思考の”減速”を試みる。

だが、波崎は平然と動いている。

三ヶ里は想造者の中ではイメージが弱い。

そのため相手を自分のイメージで上書きすることが出来ず、想造者に対して”減速”が成功することは稀なのである。

岩本との戦闘で思考の”減速”が効かないことには慣れていた。

武器は拳銃を携帯している。

だが、流石に弾薬の予備までは用意していない。

オートマチックで弾数は八発。

流石に覚醒したばかりの人間に撃つつもりはなかったが、脅しとして持って来たのだ。

こいつは明らかな敵対意志を示した以上、撃っても問題ない。

だが、殺すのはだめだ。

話を聞く必要がある。


勝利条件としては、岩本さんの到着までこいつをここから逃がさないことか。

結構簡単だな。

岩本さんならすぐに来てくれるだろう。


「君、あんまり想造者同士の戦闘に慣れてないね?イメージが弱い。赤ん坊みたいだ。」


そう言うと、波崎が何かを三ヶ里に投げつけた。


メキミキメキーー


とっさに三ヶ里が回避する。

投げつけたものが当たった壁から木が生えてきた。

と思ったらすぐに小さくなっていった。

後に残るのは…


「種…?」

「よく回避したね。小さいから見逃しやすいのに。」


そう言うと、波崎が更に種を投げつける。

だが、


「”減速”」


種が遅くなる。


この隙に、


ドォンーー


一発。

右足を狙った。


だが、木に守られた。


「危なかったぁ~、今のは予想できなかったよ。」


何が起きたか。

守った木は空中で”減速”させていた種のうちの一つだ。

恐らく、弾が当たった時に急成長をした。

ということは、種に当たらずに撃てば当たるはずだ。


ドォンーー


二発目。

今度は右の二の腕に当たる。


「痛いね。」


波崎の表情は変わらない。


ドドォンーー


今度は左足の甲に当たった。


「あー、これじゃあ、歩けないな」


撃ち抜かれているので、とんでもなく痛いはずであるが痛みを感じさせない表情だ。


「その余裕いつまで続くんだろうな!」


ドォンーー


「”成長”しろ」


”減速”させていた種が全て木となった。

放たれた弾丸を止め、波崎の姿を隠す。

止めていた種が成長したということは、波崎の想造力が三ヶ里を上回ったということだ。

そして、恐らく波崎の想造力は”成長”。

加速と似ているが、違うのは元に戻るという点だろうか。

よりによって、”減速”と相性が悪い。

正確には、反対の能力なので、イメージの強さで勝負が決まってしまうから三ヶ里に不利なのだ。


「やぁ、待たせたね。」


そこにいるのは波崎と思わしき大男。


「自分自身を未来の姿に”成長”させたのか?」

「そうだよ。ただね、これが僕の未来とは限らない。私の想造力、”成長”は僕自身が思い描く成長を対象に与えることができるんだ。木だってそうさ。私が”曲がった成長を遂げる”とイメージすれば、曲げることができる。」

「だからって、女から大男は無理があるだろ。」

「知らないのかい?未来は常に不確定なのさ。鳶が鷹を生むこともあれば、太陽が西から昇ることもある。」

「世界の理としてあり得ない。」

「そうかい?君は想造者のくせに随分と現実に縛られた考え方をするんだね。そんなんだから、すぐにイメージを上書きされるんだよ。」


波崎が邪悪な笑みを浮かべる。


「あっ、そうそう。”成長”に伴って撃たれた傷も完治しちゃったから。仕切り直しだね。」


「そうかよ!!」


ドォンーー

ドォンーー


二発。

左太もも、右腕にめがけて。


「想造力は無限の力。望んだこと全てが現実になる。この力こそ、人類の次の段階なんじゃないのかい?」


キッキンッーー



二発とも()()()()()

木に当たった音ではない。

金属に当たったような音がした。


「さっき君は『世界の理としてあり得ない。』と言ったね?確かに、世界の理の中ではありえない。でもね。その世界の理はもう壊れちゃったんだよ。」

「壊れた?」

「正確には壊れかけ。百年前から徐々に崩れてきてる。ジェンガと一緒だよ。少しずつ穴が開いていき、最後は一気に壊れる。もうかなり進行しているはずさ。だってこんな風に。」


波崎は弾丸をはじいた木を見せる。


「こんな風に、種を”成長”させるだけで金属の木を生やせるんだ。」


木の表面が鈍く美しい光沢を放っている。

確かに金属のようだ。


「お前からは聞きたいことが多すぎるな。」

「でも、もう時間切れかな。」


大男は少女の姿に戻る。


「次に会うときは殺し合いだね。」

「逃がすわけがないだろ!」


ドォンーー


狙いすました一発。

だが、それも金属の木に阻まれる。


「弾切れかい?君では何ら脅威にならなかったね。僕一人の足止めすらできない。」


悔しいがその通りだ。

三ヶ里の想造力は一切通じなかった。

だが、三ヶ里の勝利条件は…


「足止めは成功したようだな。」

「はー、遠かったぁ」


岩本と天菜が到着した。


「最低限の仕事はできたかな。」


そう言って、天菜へ目配せをした。

想像していたよりも沢山の人に見てもらえて嬉しいです。

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