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天使の反乱~地上編~  作者: ますっす
目覚めの章
5/12

対人訓練2

三ヶ里は岩本に銃を向ける。

自身の放つ全ての弾丸は”壁”によって阻まれる。

思考の”減速”も通じない。

弾丸が放たれてから壁を作るのは人間の反応速度では不可能だ。

岩本は自分が引き金を引く前に壁を作っていると考えられる。

三ヶ里の撃つタイミングを完璧に読み切っているのだろう。


「くそっ…」


自身の想造力が通じないことに苛立ちを覚える。

岩本に予測されないよう、他方位からの銃撃を続けるしかない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


実は、全方位に壁を作り攻撃すべてを防ぐこともできる。

だが、それではゲームがつまらなくなってしまう。

流石に、二人では岩本の”壁”を正面から破壊はできないだろうから。

そこで、ゲームを楽しむために自身への縛りを課した。

一度に造れる”壁”の枚数と面積に制限を付けたのだ。

それでも攻撃を防げるよう、仕掛けはあるのだが…

仕掛けに気づいても簡単には対処できないだろう。

それに2人が気づき、対処できるかどうかも、このゲームの面白いポイントなのだ。


三ヶ里は始めから全力で撃って来ている。

天菜は…

何やら瞑想をしている様子。

昨日、想造力に目覚めたばかりなのだ。

発動に苦労してもおかしくない。

むしろ、普通は数か月かけて想造力の自力発動を行えるようになるのだ。

一日であそこまで成長をした者を未だかつて見たことがない。

間違いなく天才。

あまり油断もできない。



それでも、しばらく相手は三ヶ里だけのようだ。

三ヶ里の方に体を向ける。

と、天菜から目を離した時だった。


天菜が動き出した。

速い。

だが、弾丸よりは遅い。

まだ目で追える速度だ。

問題にならぬレベルである。

少なくとも、壁が間に合わないことはないだろう。


天菜が止まる。

何をしているのだろうか。

注意深く観察する。

天菜と目が合ったような気がした。


”壁”を造る。


言葉で考えるより早く。

天菜の眼を見た瞬間、イメージする。

守らなければ危険だと全身で感じた。

自分で”壁”を造らなくとも、仕掛けが発動したはずである。

だが、咄嗟に”壁”を造ってしまった。

悔しいが、これで面白くなってきた。

内心で沸き立つ喜びを表情に出さないように苦労する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


三ヶ里は天菜の行動が見えていたわけではない。

ただ、消えた、と感じたのみである。

それよりも、岩本は天菜に気を取られてこちらを見ていない。

チャンスである。


弾丸を放つ。

”壁”に阻まれる。


またである。

だが、明らかにこちらを視認していなかった。

岩本の”壁”。

タイミングで合わせていると思っていた。

だが、今のはタイミングで防げるはずがない。


なにかありそうだ。


そう思った瞬間、岩本の動きが遅くなる。

天菜が隣にいる。

思考が”加速”したのだ。


「おい、三ヶ里。聞こえるか。」

「嬢ちゃん、さっきのはすごかったな。」

「それで防がれた。もっと考えないと。速さは意味がないかも。」


なんか、天菜の眼が怖い。


「弾丸も全部止められる。」

「岩本さんの反応速度が化け物なのかな。」

「いや、さっきはノールックで弾丸を止められた。」

「ならセンサーかな。空間のどこかにセンサーがあって、その角度、勢いなどから”壁”をはるかを自動で選択しているのかも。」

「なるほどね。」

「ねぇ、”減速”で弾を減速できる?」

「無理。速すぎてイメージが…」


今の三ヶ里は天菜により、思考が”加速”されている。

弾丸程度の速度なら簡単に視認できる。


「いけるね?それで変則的な攻撃をお願い。あと、一つだけ私用の”減速弾”を頂戴。」

「…分かった。」

「私はセンサーの場所を探ってみる。」



三ヶ里に弾の認知が可能な程度の”加速”を残しつつ、天菜は再び”加速”する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


突如、三ヶ里の攻撃が変化した。

天菜が近づいたのは見えたが一瞬であった。

あの一瞬で会話をしたのなら、三ヶ里にも想造力を使ったとしか考えられない。


「流石は真理さんの娘だ。天才だな。」


人に想造力を使うのは自分に使うのとは違った難しさがある。

更に面白くなってきた。

時間はまだまだある。

敗北もあるかもしれない。

気を引き締め、2人の相手をする。

先輩としての威厳を見せてやろうじゃないか。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


岩本の周りを周回する。

空間の歪み、怪しい光などは見当たらない。

三ヶ里の銃弾が通った軌道を調べる。


全ての弾丸は同じ面上で止まっている。

毎回、同じ場所に壁が作られる。

だが、私が触れても壁はできない。

試しに弾丸と同じくらいのスピード、角度で蹴ってみる。

壁はできない。

そのまま、蹴りは岩本に向かっていく。


ぽふぉっ…


一回り内側で”壁”ができた。

痛みはない。

マットのような壁ができていた。

岩本は弾丸用の”壁”と私用の”壁”を常に張っているのだ。


ズジジジ…


三ヶ里の弾丸が一回り内側の壁に当たる。

ちゃんと弾丸も受け止められるようだ。

外側ではもう一つ壁が出来ている。

なぜ、弾丸が内側に侵入できたのか。


「なるほど。」


初めて岩本と会ったとき、球体型で全方位に”壁”が出現していた。

ところが、今は複数枚で守る形になっている。

全方位に”壁”を作られては私たちに勝ち目はない。

ゲームを成り立たせるために、何らかの制限をしているのだろう。

それはおそらく、一度に出せる”壁”の枚数。

二層の”壁”があり、それぞれが一枚しか同時に存在できない。

そして、この二層は壁に物体が触れた瞬間に自動で実体化すると考えられる。

弾丸が同じ面上で止められていたからだ。

人間の反射神経で、弾丸を同じタイミングで何回も止めるのは不可能だ。


ならば、作戦は一つ。


「三つ以上の攻撃を同時に行う。」


三ヶ里に情報を共有する。


「二つ以上の弾を”減速”させて同時に解放して。同時に壁に当たるように。」

「分かったよ。内側の壁は?」

「私が弾丸とタイミングを合わせる。」

「できるのか?」

「やるっきゃないでしょ?」

「了解~」


さぁ、やってやろうじゃないか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


タイミングを見計らう。

まず、一枚目の”壁”の突破。

三ヶ里が全方位から同時に”減速弾”を開放する。

タイミングは完璧だった。

それでも、突破できたのは1発だけ。

だが、それでも上出来だ。

これでダメなら次は対策されてしまう。

三度目はない。

これで決める。


同時攻撃。

三ヶ里には必要最低限の”加速”しか分けていない。

だが、思考に特化して”加速”させている今の私には余裕だ。

弾丸すら止まって見える。

しかし…


「惜しいな。」


自動展開の”壁”ではない。

岩本がマニュアルで私の前に”壁”をはる。

マニュアルの”壁”と自動展開の壁は別物だ。

枚数制限は適用されない。

作戦は…


「想ぉ定ぇぇ内!だぁぁ!!!」


今までのどの攻撃よりも速い一発の弾丸を放つ。

はじめに三ヶ里にもらっていた一発の”減速弾”。

一層目の”壁”の内側に私の手で持ち込んだのだ。

その”減速”を私の”加速”で上書きする。

正真正銘、とっておきの隠し”弾”


同時に二つの攻撃が通る。

岩本の周囲に今までとは違う、オレンジ色の”壁”が出現する。


「お前達の勝ちだ。」


負けたはずの岩本がにっこりと笑って言う。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ああー疲れたぁ!!」

「お疲れ様。二日目であそこまで想造力を使いこなせるなんてすごいじゃない。」

「手加減はしていたが負けるつもりは毛頭なかった。予想を大きく上回っていたな。」

「マジで天菜って天才なんじゃないの?」


いや~それほどでもあるんですけどね。

というか三ヶ里から初めて名前で呼ばれた気がする。

ちょっとキモイと思ったが、「嬢ちゃん」呼びよりはましだと気づく。


それはそうと、実践を通してかなり想造力に馴れることができた。

この調子なら、能力を暴走させることもなさそうだ。


「その調子なら、明日にも学校に行けそうね。」


昼食…いや、夕食か?

とりあえず、料理を準備している母が言う。

昼食か夕飯か、微妙な時間になってしまった。

というのも、あの後、

「他の武器も試してみましょうか。」

とか言って、2試合ぐらいさせられたのだ。

結果は惨敗。

当然だろう。

同じ武器は認められなかったし、同じような手は全部バレちゃってたし…

一勝でもできたのが奇跡のようなものだ。


っと、話がずれた。

学校だったな。

学校は想像祭明けからなので、まだ始まっていない。


「そっか。冬休みももうすぐ終わりかぁ。」


宿題はちゃんと終わっている。

まぁ、優等生ですし?

高校一年生にも関わらず、遊びにも行かず、学校終わりは家に直帰するような模範生徒なのだ。

…ぼっちなわけではない。

あれ?

そういえば、徴兵が嫌なのは友達と離れるのが嫌だから、青春がなくなるから、って言ったっけ?

よく考えれば、元からないのでは...?

いや、考えすぎはよくないな。

今日は思考の”加速”で脳も疲れてるだろうし。

冬休み明けからは友達を作ろう。


「てか、学校行くって言ったって、平日の軍の活動はどうすんだ?」

「あっ、確かに。」


授業時間なら、免除もされるかもしれないが、放課後は対象外だろう。

つまり、友達と遊ぶ時間がない。

捕らぬ狸の...ではない。

大問題である。


「あら、確かにね。」


あんたも思いついてなかったんかい。


「...高校生だしな。青春も大事にしたほうがいい。パトロールとでも銘打っておけば放課後も友達と過ごせるだろう。」


神ですか?

岩本さんに感謝。


「パトロールねぇ。いい案だわ。どうせ軍の連中も新入りの働きなんて興味ないものね。」


母も納得してくれた。

決まりだ。

そういえば、SOEF(ソエフ)の立ち位置はどうなっているのだろうか。

軍と呼ぶには人数が少なすぎる気がする。


「ところで、SOEFとか軍の仕組みってどうなってるの?」

「そうか、確かに説明していなかったな。あんまり詳しいことは言えないが、SOEFは第五軍団という軍団の中の組織の一つだ。」

「ちなみに、私は第五軍団の団長も兼任してるわよ。SOEFは趣味で作った部隊ね。」


待て待て待て。

かなり爆弾発言が飛び出してきた。

第五軍団って…聞いたことはないが、国の軍団で軍団長をしてるなんて相当の実力者なのではないだろうか。


「かs...真理さんは全軍団の中でもトップクラスの戦闘力を持っている。…本来はこんな所でサボってていい人ではないんだがな。」


半ば呆れつつ、岩本さんが説明してくれた。

普段のおしとやかな母からは想像もできない。

というか、仕事は大丈夫なのだろうか。

そんなに位が高いのならば、仕事も多そうな気がするが。


「サボってていいのよ。仕事は部下にやらせるぐらいがちょうどいいんだから。」


うわぁ。嫌な上司の典型だ。


「そろそろ食わねぇ?」


三ヶ里が冷えかかっている夕飯のピザを指差している。


「そうね。食べましょうか。」


夕飯を食べ終わると、三ヶ里と岩本が帰っていった。

三ヶ里はどこで寝泊まりしているのか気にはなるが、別に聞くほどのことでもない。

私はというと、今日もSOEFに泊まることとなった。

一応、今日までは観察してみるとのことらしい。

多分、この感じだと半分は母のわがままな気がする。

あのベットは家のやつよりふかふかだったもんな。

というか、家用にも買えばいいのに。

お金を持っているのを隠していた(?)のは、仕事の内容について聞かれたくなかったからだろうし。

ケチなだけの可能性もあるが。


シャワーを浴び、寝室へ行く。

相変わらずふかふかだ。

今日もすぐに深い眠りへと落ちていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


想造祭二日目終了。

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