天使の目覚め2
「はぁ、嫌になっちゃう」
カフェオレを飲みながらそんなことをぼやくのは私、鹿島 天菜だ。
せっかく、祭りを楽しもうと思った日の朝からあんな事件に巻き込まれたのだ。
しかも、自分の能力がバレたら国から徴兵されるという。
「いや、あいつの言うことを真に受けたら、だけどねぇ」
あんな怪しい奴の言うことをそのまま信じるというのは難しい。
大方、私が警察に通報しないようにするための噓だろう。
言われなくても、そんな面倒なことをする気はないのだが。
もしも、あいつの言葉が本当だった時の方が問題である以上、今は信じることにしたのだった。
「ま、今できることもないし、気持ちを切り替えて祭りを楽しみますか!」
そう考え、母と共にカフェを出るのだった。
あいつは時間を止めていたわけではなかった。
当たり前だが、あいつが能力を使っていた間も時間は通常通り流れていたのだ。
しかし、母にしてみればカフェで感覚よりも、かなり長い時間を過ごしているわけで。
「あれ?もうこんな時間?少し食べ過ぎたかしらね?」
先程朝ごはんを終えたというのに、もうお昼の時間だ。
「少しってレベルじゃ…」
「お昼は何にする?」
…まだ食べられるとは驚きだ。
母の細い体のどこに食べ物が入っているのだろうか。
「わ、私はそんなにお腹空いてないから、クレープでいいかなぁ。」
「お昼からクレープ?」
じゃあ、いつ食べればいいのだろうか?
朝に食べられなかった時から、ずっとクレープの口になっているのだ。
「い、いいでしょ?お母さんは何にするの?」
「そうねぇ、先ずはたこ焼きと、焼きそばと…あっ!イカ焼きもいいわね!」
まだまだ食べる気満々のようだ。
てか、お昼からイカ焼きって…
昼から酒を飲む気じゃあるまいな。
「そう、じゃあ私はクレープの屋台にいるから」
「そうね。買い終わったらここで待ち合わせましょう」
そう言って二手に分かれた。
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私のクレープはすぐに買うことができた。
しかし、たこ焼きと焼きそばの屋台はお昼前ということもあり、かなりの行列ができていた。
「お母さんはまだ買えてないだろうし…」
待ち合わせ場所に行ってもいいのだが、かなりの時間待たされるだろう。
その時間がもったいない。
せっかくの祭りなのだ。
私はこの祭りのメインイベントが行われる街の広場へと行くことに決めた。
「すぐそこだしね。」
クレープ片手に広場に着く。
そこには大勢の人が集まっていた。
この広場では毎年ステージが建てられて、国内外から呼んだゲストたちがそこでパフォーマンスをするのだった。
今、そのステージでは有名な海外のバンドがライブをしていた。
あまり興味のない私でも知っているのだ。
相当すごい人達なのだろう。
でも、歌詞が英語でよく分からない。
全体的な成績は悪くないものの、英語だけはずっと苦手だ。
「早く次の出演者にならないかな?」
と思った瞬間、
バゴォォォォーンン!!!
とてつもない音がした。
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その音はステージからだった。
私はとっさにステージを見る。
先程までバンドが演奏をしていたステージには楽器を含め、何もなくなっていた。
すぐに、次の出番の芸人が出てきた。
と思ったらステージを通り過ぎるように舞台袖に帰っていった。
周りの観客は何やら叫んでいたが、私には聞き取れなかった。
そして観客の動きもおかしいことに気付く。
歩くスピードが異常に速いのだ。
「今度は時が進んでいる?いや、それよりは思考の”加速”の方が可能性として高いか。」
あの男は「時を止めるなんて大層なこと」と言っていた。
想造力で時を操ることは出来ないと考察する。
既に確認されたことから答えを導き出すのは考察の基本だ。
また、あの男が起こしているのだろうか。
「おいおい、嬢ちゃん。俺は警告したろ?」
振り向くとあの男が立っていた。
手には…クレープか何かの生地?
「あんた、何をしているの!!」
「はぁ、そのセリフは俺のだぜ?」
何を言っている?
「見ろよ。お前のせいで俺のたこ焼きはこれだ。」
”お前”のせい?まさか…
「これは私が起こしてるとでも言いたいの!?」
「ああそうだ。てか、無意識で起こしてるのか。」
「止め方はあるの!?」
「俺にはな」
「じゃあ止めて!」
「はいよ」
その瞬間、世界が元のスピードで動き出した。
私の体感、つまり正しい時間の流れの中で十秒前後の出来事であった。
しかし、かなり大きな混乱が起きてしまったようだ。
飲食系の屋台では生焼けの食材(ほぼ材料そのまま)に対しての苦情が集まり、ステージでは予定の何倍も早く進んだスケジュールに大幅な調整が入っていた。
この男が持っていた生地はたこ焼きのものだったらしい。
「私がこれを…?」
「まったく…嬢ちゃん。こんなことならいっそ徴兵されて想造力の使い方を学ぶのもありかもだぜ?国も想造力を利用したいんだから、命は保証されるだろうしな。」
「それは…」
否定したい。
自分は母と離れたくない。
花の高校生活をそんなことで無駄にしたくはない。
しかし、このような惨事を起こしてしまったのだ。
この男がいなかったら状況はもっと酷いことになっていたのは、火を見るよりも明らかだ。
このままでは母や友人に被害が及ぶ可能性も十分にある。
少なくとも、能力の制御を学ぶ必要はある。
「ま、どうするかは嬢ちゃんの自由だ。あんま長居すると俺も見つかっちまうからな。それじゃ!」
「待っ…」
私が呼びかけようとした時、周囲に白い壁が出現し、私とこの男、そしてもう一人を囲む。
「お待ちいただきたい、お二方。」
高そうな黒いスーツに身を包んだ男性が声をかけてきた。
「くそっ!早すぎんだろ!」
「ど、どなた?」
ある程度の予想は付いている。私はそこまでバカじゃない。
「日本軍特殊作戦実行部隊”SOEF”所属。岩本准也だ。説明しなくても要件はわかるな?」
「この壁、想造力を封じてるのか!」
「そんなことはしていない。さて、ご同行願えるだろうか。」
その威圧感から、こちらに拒否権がないことを理解する。
私よりも能力に詳しいこの男が封じられた時点で私に勝機はない。
それにこの岩本という男は、軍人といった体格で強そうなのだ。
大人しくついていくしかないだろう。
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岩本に連れてこられた場所はこの街にある普通のビルだった。
私の家からも近い。
移動中も白い壁は常に張られていた。
私たちを逃がさないためだろうか?
「ここですか?」
恐る恐る聞いてみる。
「ああ、そうだ。」
「普通のビルだな。」
確かにこの男の言う通り、日本軍の建物としては普通過ぎる気がした。
受付もなく、誰でも簡単に入れそうな建物だったのだ。
「表向きはな。見ておけ。」
そう言うとエレベーター横の壁の前に岩本が立つ。
「”開け”」
短く唱えたその言葉に反応するように壁に扉が現れ、開いた。
「なるほど、”想造力”に反応する扉か。ここまで研究が進んでるのか」
「ロマンだ…」
まるで映画の秘密基地のような施設なのだ。
こんな状況でなんだが、自分の好みに非常にあっている。
「ほら、早くしろ。すぐ閉まるぞ。」
いつの間にか背後に回っていた岩本が急かしてきた。
目の前には上への階段が広がっている。
それを上ると二階についた。
部屋の中には誰もいない。
不自然にエレベーターがある。
そのほかには、事務的な机と椅子が三つずつ。
そして、来客用と思わしき大きなソファーが二つとと大きい机が一つ。
職員室のような部屋であった。
欲を言えば、もっと大きな長机に椅子が並んでいて、エージェントが座っているような感じの部屋であって欲しかった。
「おい、ここはただの二階じゃねぇのか?」
「外を見てみろ」
言われた通り、窓から外を見る。
「すごい…」
そこに元の街の姿はなく、辺り一面のお花畑が広がっていたのだ。
「これは…空間を…?」
「さて、隊長が来るまでに自己紹介を聞いておこうか。」
確かにまだ名乗っていなかった。
「鹿島天菜、16歳です。」
一瞬、岩本が驚いたような表情を見せた気がした。
思ったよりも若かったからだろうか。
そっかぁ、そんな大人に見えちゃってたかぁ。
そんな感じで勝手な予想で浮かれていると、となりの男が喋り始めた。
「三ヶ里明だ。」
そういえば、この男の名前を初めて聞いた。
「三ヶ里の年齢は?」
「今年で21だな。」
ふーん。イメージ通り。
私達が自己紹介を一通り終えると、岩本が口を開いた。
「さて、こちらからも改めて名乗っておこう。岩本准也だ。SOEFの副隊長をやらせてもらっている。」
「その”そえふ”ってのはなんだ?」
「特殊作戦実行部隊、「Special Operations Executive Force」の略だ。」
「へぇ、かっこいい。」
なんか、中二心をくすぐられるような名前だ。
「この部屋は隊長が作ったもので、部隊の名称も隊長が決めた。」
なるほど。その人とは気が合いそうだ。
「さて、君たちの今後についてだが…」
すっかり忘れていた。私は今ピンチなんだった。
「結論から言うとこの”SOEF”に入ってもらう。」
「あのその前に、この組織が何をしているのか教えてもらってもいいですか?」
恐らく私たちに拒否権はないだろう。
だが、せめて何をするかぐらいは知っておきたい。
悪の組織と戦っていたりするのだろうか。
「君のように想造力を使いこなせない人物の保護及び軍への勧誘。そして、想造力を悪用する者の捕縛。主な業務はこの二つだ。まぁ、戦争でも起きれば話は別だろうがな。」
そうか、今すぐ銃を片手に最前線!なんてことはなさそうだ。
悪の組織というよりは、犯罪者と戦っているようだ。
「三ヶ里は犯罪もしていたようだが、今回は特別に目をつぶろう。なにせ我々は人手不足なのだ。」
「バレてやがったか…ありがとよ。だが、こんな空間を作れる想造者がいるなんてな。」
「そんなにすごいの?」
「ん?ああ、これはこの想造力の仕組みから説明する必要があるんだがな…」
三ヶ里が話始めようとした時、扉があいた。
「岩本!!私の娘が!!」
かなり必死な様子の見覚えのある人物。
その手には生焼けの焼きそばとたこ焼きの生地が握られてた。
「お母さん…???」
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「岩本!!どういうことなの!!」
「どうと言われましても。私は想造力を暴走させていた少女とその場にいた男を保護しただけですが。」
「お母さんこそなんでここにいるの!?」
「親子で想造者か。ありえない話じゃないじゃないか?」
状況がさらに混乱してきた。
とりあえず、落ち着いて話をするためにソファーに座ることになった。
岩本がお茶を入れてくれた。
「えっと、まずお母さんも”SOEF”に所属してるんだね?」
真っ先に確認するべきことだろう。
もし、”SOEF”に所属しているのならば、母も能力持ちであるということである。
「ええ、その通りよ。あなたはなぜここに?あの現象はあなたが?そしてその男は誰?」
矢継ぎ早に質問をされる。
「私は広場のステージを見に行った時に能力?が暴走して…この男の人、三ヶ里さんに助けてもらったの。で、その後に岩本さんが来て、ここに連れて来られたの。」
無銭飲食犯に助けられたのは屈辱ではあるが、事実なのでしょうがない。
母と別れた後のことを話した。
「なるほど、それで岩本が保護したと。」
「はい。」
「そう、朝から想造力使用の痕跡が出たから岩本に捜査させてたけど、私の娘がまさかね…」
「朝の方はこちらの三ヶ里の方の想造力でした。」
そうだ。母も能力を持っているのなら、なんで三ヶ里の能力の中で動けなかったのだろうか。
気にはなるが、母は神妙な面持ちで考え込んでいて、話しかけづらい。
母は少し考えてから、
「いいでしょう。想造力に覚醒してしまったものはしょうがないわ。あなた方のSOEFへの加入を認めます。」
と、私たちに告げた。
こうして、私は日本軍特殊作戦実行部隊”SOEF”に加入することとなったのだった。