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探偵がとある企業のとある事件を担当した。
そして、事件が決着して、探偵はとある企業のオーナーが暮らす屋敷に招待された。オーナーの屋敷は、この企業の本社と同じ敷地内にあった。
たいてい事件というものは、いくつかの要素というのは、まったく解決されない闇として、結局は解決されることなく、手つかずのまま放置されてしまうことが多くある。事件とはそういうものである。
探偵は、そういう事件のさまざまな闇の部分の景色を多く見てきた。
だから、事件が解決したからといって、事件に関係した人の心が晴れるというわけではない。
探偵のこれまでの経験から言っても、たいてい、事件に関わる人の心は決まって、傷つき 、モヤモヤとして気分が晴れないままなのである。
そういうことであるので、探偵は、この度の探偵調査について、事件の解決について説明するように求められて、今度の一件の依頼主の、このとある企業のオーナーを訪ねることになったということである。これは、探偵が行うべき探偵のアフターサービスということである。
そして、今回犯人と思われた男が死んでいる。そして、この犯人と思われる男の死については、まだ何も解明されてはいない。
それなのに、とある企業のオーナーは、この度の事件の解決に関して、大いによろこんだ。探偵の仕事ぶりには大変満足しているようであった。オーナーは、今度の事件について探偵から直接報告を受けるその日をたしかに楽しみに待っていた。
結局、このオーナーは、今回の事件について、表向きにはケリをつけたかったのだ。ケリをつけられたその部分では、オーナーは満足したのだろう。
この企業の株価は、この事件の解決が広く世の中に知られたのをきっかけとして、なんとなく存在していたこの企業について、悪い噂が消え、毎日、毎日、急上昇の状態であった。高値更新の日々がつづいているので、オーナーは、とある企業の信頼の回復が、日々実感できていた。オーナーにとってそれは自信となった。
オーナーは、工場の敷地内の邸宅の応接室にいた。オーナーは、探偵を応接室に迎え入れると、喜色満面の面持ちで探偵の報告を聞いていた。
オーナーは、探偵の報告にだいたいは満足した。
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しかし、オーナーにとっても晴れがましい報告の席ではあったのだが、結局、オーナーは、最後に晴れがましさをぶち壊しにしかねない気の進まない話題について、結局はここに至っても解決していない問題点について、ここで一度、探偵に報告する必要があった。
それは、そっと、オーナーの心の中にしまっておくこともできたかもしれない。100の問題があったとしても、99は解決したと言えるからであった。本当のきもちとしては、避けることができなかった。
オーナーの気にかかっていたのは、問題というのは、取るに足らないひとつの脅迫状であった。オーナーは、この脅迫状が心にひっかかっていた。
事件というものは、この事件が解決しても、これはオーナーにとっていちばん大事なこと、見逃せないことであるが、完全には解決されないない大事なことがまだ残っているものである。この、今回の事件について、オーナーはひっかかることであるが、それはどこかで見当違いの方向に舵を切ってしまい、そのせいで、肝心な何かがいまだに解決されてはいないように思えた。
どういうことかというと、事件の始まりに合わせ、この企業に対して、とある内容の脅迫状が送られて来ていたのだが、この事件のきっかけとなる事件が始まってからその脅迫状はずっと頻繁に送られてくるようになっていた。
その事件を探偵は解決してくれた。
事件が解決して、オーナーはホッとした気持ちになったのだが……
脅迫状が、実は、事件が解決したはずの今日においても、その頻度は激減していた。しかし、脅迫状は完全になくなったわけでは無かった。おそらく、一人の、そして、同一人物が、今なおこの企業に対して誰かが脅迫状を送り続けていたのである。
事件の前、事件の最中、そして、事件のあとも送られて来るその人物から送られてきている脅迫状、それは暗号めいた脅迫状であった。そのメッセージには、次のような何か子供っぽい、同じ意味不明の内容の文が決まって書かれていた。
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「ひとつの事件解決は、それそのものが、新たな事件の警告メッセージの内容というか、そういう意味を持つ」
「事件は、事件そのものが、さらに、次の事件とそれにともなう新たな死者の到来を、予告し、新しい不幸を象徴するメッセージともなるのだ。つまり、事件は事件を呼び、事件の解決は、次に来る新しい事件の予言の予告となる」
「世界が続く限り、人の世がある限り、本当に事件が解決するということは起こり得ない。草原を焼き尽くそうとする野火のように世界に広がっていく」
「だから、あるべきものをあるべきところへ」