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題名 黄金のレシピ
序
遠い過去、いくつかの民の運命が大きく変わった、とある戦争があった。
確かに、どんな戦争だって、それに関わった民の運命というものは多少とも変わるものだ。
ひとりの男がいた。その男は、この戦争で負け軍の運命を背負うことになった。
……
……
その男は、村に帰ってきた。村は、男の知っている戦争以前の村とは、すっかり変わってしまっていた。男は、王国を守ることができなかった。
男の国の軍隊は名も無い辺境の国の軍隊との戦いで破れ、王国は滅んでしまった。本来は、男の国は豊かな国で、この戦争で敗れることがあるとは誰も考えていなかった。
男の故郷の、この村人たちは、戦争の中の戦いでだいたい死んでしまっていた。
生き残っているものは、皆、敵兵が攻めてくる前に村を捨ててしまっていたものたちだった。自分たちの命を守るために。
兵隊になったものは、たいていは死に、敵方の兵は負け軍を生き延びた者たちを追っていた。
戦争から逃れ、戦を拒み、村に残った村人がいたのだが、そんな村人たちは、全員殺されてしまった。敵兵たちはこの上なく冷酷な連中であった。
しかし、これは仕方のないことである。貧しい由来が多い勝者たちは、敗者に対して横暴な御主人様となっていた。
村は焼き尽くされ、破壊されつくされつつあった。
男は、村に帰ってきた日の、その日1日中、村のあちこちを気の向くまま、脚の向くままなんのあてどもないままさまよい歩き続けていた。男は、その日一日、故郷の瓦礫の中を進むうちに何度も迷子になった。人生のこれまでのほとんどの時間を過ごしてきた土地なのに、しかし、男にとって、慣れ親しんでいた昔の村の面影は、すっかり失われてしまっていたからだ。
……
……
男の死体は、男の死のしばらくあと、この完全なる廃墟の村を訪れた敵の兵士によって発見された。
男の死体とともにあった鞄の中を敵兵たちは調べてみた。男の鞄の中には、自分の死に際しての、自分の人生を鑑みての、いくつかの教訓と、この世界と自分達のささやかな、しかし何者にも代えがたい幸福を奪った者たちに対する復讐の気持ちと、実際に敵に対して血でつづられた、呪いの文句。それは太古の男の祖先の人たちの言葉で書かれた呪いのフレーズであふれていた。
それは、遺書としては誠に色んな要素を含み、普通に遺書と言うには得意なものであった。
考えてみれば、つまり、男が自分の故郷の村に帰ってきたのは、そして、男の死はある意味、覚悟の死と言う訳だったのであった。
そんな感想を、この遺書らしきものを読んだ人は持ったのだった。
そして、ところでの話であるが、男の鞄の中からは、この遺書らしきノートの他に、問題の封印された今日我々が『黄金のレシピ』と呼んでいる王家の美術品のように装飾が施された冊子が発見されたというわけだ。
(迫ってくる悪の正体を見極めることができた。それは、予想とは異なる、よく知る小物の人物であった)