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モノトーンの黒猫  作者: もりといぶき
【皇龍編 上】
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8.魔女の片鱗(下)






原田さんから見たわたしは、入学してからというもの未だクラスに馴染めていない、ひとりぼっちの女。


孤立するのが嫌で、津月マヤと一緒にいる。

性格はおとなしく、強くは出られない。

争いを怖がる八方美人。——といったところか。


格下と思われているうちに、さっさと終わらせるとしよう。



5限目終了後の10分休憩。

トイレの水場で手を洗っていると、隣に原田さんが並んだ。



「高瀬さんて、昼休み津月さんといたんだよね」


「そうだけど、何かあった?」



言いながら、出口を横目で確認する。原田さんのお供はついてきていないようだ。



「んー、津月さん、三國さんのことなんて言ってたの? やっぱり未練とかありまくりだよね?」


「気にはしてるみたいだけど。何かあるの?」


「ほら、今学校中がこの話題ばっかだし、みんなも何かと三國さんのこと心配してるから」


「ああ、そう」



蛇口を閉めて、ポケットからハンカチを取り出す。

手洗い場から廊下に出ようとしたわたしを原田さんが止めた。



「津月さんが今どう思ってるのかとか、ちょっとだけ教えてくれないかな? みんなすっごく知りたがってるしさぁ」


「もう6限目始まるよ?」


「………今日、バイトは?」


「休み、だけど……」



すがるような上目遣いから、ぱっと目が輝いた。



「じゃあ、放課後いいよね。高瀬さんと遊べるってすっごく楽しみ!」



なんて簡単な釣りなんだ。



「あー……、いいけど。わたし夕方から用事あるし、話すのは学校でも大丈夫?」


「大丈夫大丈夫! 全然オッケー!」


「それと、わたし大勢とか苦手で、いろんな人が一緒だと緊張して上手く喋れないから、原田さんだけでもいいかな? ほかの人ってあんまり話したことないし」


「まったく問題ないよ! 放課後楽しみにしてるね!」



彼女にとって、人の別れ話は楽しく聞くものであるらしい。

嬉しさを全開にした原田さんに続いて教室に戻り、6限目を受ける。


授業が終わった後、ショートホームルームがあった。

吉澤先生が連絡事項を伝えて、すぐに解散となる。



「たーかせさんっ」



最後の授業だった国語の教科書を机にしまっていると、原田さんがやって来た。



「どこで話す? 教室は人が多いし、どこかふたりっきりになれるところってないのかなぁ」



声が大きい。そんなに張り上げなくても聞こえている。

原田さんの声でこちらに興味を示すクラスメイトが増えた。



「ごめん、その前に少しだけ待っててもらえないかな。科学の授業の課題、先生に提出してくる。すぐ戻るから」



机から5限目のプリントを出して立ち上がった。

教科書の重要語句の穴埋め問題だ。時間中に出来なかった生徒は今日中に終わらせて提出と言われていた。



「じゃあさ、職員室まで一緒に行こうよ! そっからどこか場所探せばいいじゃない」


「そうだね」



ひとまずマヤにいつもの別れの挨拶を言いに行こうとしたが、原田さんに腕をからめとられた。



「ほら! 時間なくなっちゃうよ!」


「う、うん」



原田さんに引きずられるように、後ろのドアから教室をあとにする。



「バイバイ、マユユー!」


「報告よろしくねー!」



大声で原田さんに手を振るグループの女子たち。


……マユユ?

ああ、原田さんの名前は確か「繭」だったか。



「うん! あとで連絡するね!!」



彼女のほうも負けじと手を振っていた。


廊下に出ると、原田さんは腕を放してくれた。

1階まで階段を下り、昇降口を前に左へ曲がる。

突き当りをさらに左に曲がれば、正面に職員室のドアが見えた。



「失礼します。村上先生はいらっしゃいますか」



職員室は基本生徒の立ち入りを禁止している。

なのでこうして入口から先生を呼ばなければならない。



「村上先生ー、呼ばれてますよー」



室内でも奥のほうに座る先生に声が届かないのは当然で、そういう場合は聞こえた先生がちゃんと伝言してくれる。


ほどなくして、村上先生が職員室から顔を出した。

眼鏡をかけた30代後半の男の先生だ。



「遅くなりました」



先生にプリントを差し出す。



「ああ、お疲れさん」


「お願いします。失礼しました」



お辞儀をして、職員室に背を向けた。



「人のいない場所だったら、2階の第二科学室でどうかな? 危険物は置いてないから施錠はされてないんだって」


「よく知ってるわね」


「知り合いの先輩に聞いた」



正確には協力者に知り合いの先輩を頼って教えてもらった、だけどね。


用意周到に場所を確保しているとなると、多少は警戒されても仕方がないかと想定していたが。



「じゃ、そこ行こ!」



無邪気さを前面に出してくる原田さんに心配は無用だった。


来た道を戻って、階段を上る。



「てゆうか高瀬さんってさぁ、先生にすごく丁寧な話し方するんだ」


「ああ、まぁ」


「いい子ちゃんだね」



感心ではなく嫌みがこもった言い方だ。



「そうでもないよ」



本当に。



「だって今時みんなため口じゃない。ムラティーのこと村上先生って呼んでる人初めて見たよ」



ムラティー……村上ティーチャーの略か。



「そうかな?」


「そうだよ!」



間違ってもわたしは「いい子」だから先生に敬語で話しているわけではない。自分を「いい子」に見せるための手段として、敬語を使っているだけだ。


原田さんが言うところの、今時みんながため口というのはわたしにとって好都合な環境だ。

教師に敬語で話す生徒が少なければ少ないほど、その少数の生徒は教師からの評価が上がる。


そこを利用しているにすぎない。


ちなみに凍牙も同じ手を使っていたりする。

奴の場合見た目も不良で中身も不良だから、わたし以上に教師からの評価の振り幅が大きい。

真似をして不良になろうとは思わないが、うらやましい限りだ。





2階の特別教室が並ぶ廊下の端から2番目が第二科学室である。


本来は科学部の活動場所だったらしいが、昨年で廃部になったため今年からは使用されていない。

この部屋の鍵は壊れていて閉まらない。

薬品類は撤去され、ガスも通っていないため、安全と判断されてそのまま放置されている。——というのは、マヤが知り合いの先輩から聞いてくれた情報だった。


聞いていた通り、第二科学室には鍵が掛っていなかった。

カーテンは開いているのに薄暗く、さびれた雰囲気の教室だ。

床に固定された大机が6台。前に3台、後ろに3台と並んでいる。

その上には丸椅子がひっくり返された状態で置かれていた。


教室の奥の隅、黒板の横には「準備室」というプレートのかかったドアがあり、扉はわずかに開いた状態になっていた。

黒板には昨年度最後の科学部員達が残したであろう「サラバダ!」の文字が白いチョークで大きく書かれていた。


前列の真ん中にある机にもたれかかる。



「ええっと……、なんだったっけ」


「だーかーらっ、津月さんのこと! 高瀬さんボケすぎ!」


「……ごめん」



わざとだよ。


後から教室に入った原田さんはドアを閉めてわたしの前に向かい合う。

腕を組んだ彼女は首をかしげてわたしを睨む。眉のつり上がり具合から、怒っているように見せたいのだと思われた。



「津月さんって、三國さんにまだ未練があったりするの?」



天井に視線をやり、しばし考え込む。



「うーん。話を聞いていると、マヤは今でも三國翔吾さんのこと好きみたいだけど」


「やっぱり! 別れてもまだ好きとか、ちょっとうざいよね」


「……そうかな」


「そうだよ! ていうか、高瀬さんってホントいい子ちゃんすぎ! 思ってることはもっとはっきり言わないと」



わたしが遠慮をやめて言う言葉が、あんたの都合のいいものとは限らないけどね。



「あー……、うん」


「なに考えてるのかわからないから近寄りがたいって、みんな言ってるよ。あたしでよかったらいつでも話聞くから」


「……うん」



目を伏せて、軽く一息つく。



「わたし、正直みんなの話について行けてないんだよね。最近この街に来たばかりだから、以前から当然のようにあるものとかが、よくわかっていないというか……」


「そうなの?」


「うん」



原田さんはなるほどと大きくうなずいた。


わたしは嘘は言っていない。



「だから津月さんとも普通に一緒にいられるんだ。なぁんだ、知らなかっただけなんだね」


「あ、知らないついでにひとつ教えてほしいんだけど」


「なーに?」



優しげな猫撫で声。こてんと首をかしげて彼女がわたしを懐柔しにかかる。


——さて。



「原田さんって、マヤのこと嫉妬してるの?」


「えー。それはないよ。周りにはそういう子もいるみたいだけど、わたしはそんなんじゃないわ」


「そうだったんだ」


「だって、あんな子に嫉妬するって、おかしいと思わない?」


「ごめん。はたから見てて、てっきりみんなマヤのことがうらやましいのかと思ってた」


「たしかにそういう友達もいるけどね。津月さんってそんなにおしゃれじゃないし、メイクも下手だし、そんな子うらやましいなんて思わないわよ」



自分より格下の女があんなすごい人と一緒にいるのが理解できない——って気持ちを言葉で表すと「嫉妬」になるんだよ。言わないけど。



「そういうものなんだ」


「そうよ。で、津月さんってよりを戻したい系な感じ?」


「そこらへんはよくわからない。でも、悩んではいるみたいだった」


「なにそれ! 悩んでるってだけで腹が立つ。終わったこと蒸し返して三國さんに迷惑かけてんじゃないわよ」


「ずいぶん心配してるみたいだけど、三國翔吾って人のこと、原田さんは好きなの?」


「恋愛感情じゃなくって、あこがれっていうの? みんなもそうだと思うよ。すごくかっこいいし、喧嘩の腕も皇龍でナンバー2だし」



自分の気持ちを伝えるたびに「みんな」と付け足すのは、原田さんの口癖か。


この言葉を使うたび、責任を他者に分散して押し付けた気になっていることを、きっと彼女は自覚していない。

無意識で得ている安心感というのは、とてもタチが悪い。


それ、あんたの周りにいる女子が気づいて意識しはじめたら、友情なんて面白いぐらい簡単に崩れていくだろうね。



「へぇ、そうなんだ。初めて知ったかも」


「もー、高瀬さん知らなさすぎ! そんなのだからみんなから置いてけぼりにされるんだよ」



わたしのことはお構いなく。



「じゃあ、原田さんは三國翔吾さんと付き合いたいとか、そんなんじゃないんだね」


「そこらへんは考えたことないかな。でもほら、恋愛って流れみたいなところがあったりしない? これから先、どんなきっかけがあるかわからないから、はっきりとは言えないわね」


「そういうものか」


「そういうものよ。だから、次に進もうとしてる人を自分本位に引き留めようとする人って、ホントあり得ない」


「マヤの相談に乗ったわたしのこと?」


「違うわよ。だぁかぁら! わたしがあり得ないって言ってんのは津月さんのこと!」



うん。知ってる。



「全然大したこともないのに、三國さんの幼馴染ってだけで恋人気取って。ずうずうしいにもほどがあると思わない?」


「でも、実際ふたりは付き合ってたんだよね?」


「そこがあり得ないって言ってんの!」



胸を張って言いきってくるけど、そろそろ気づかないかなあ。



「……原田さん、マヤに嫉妬してないんだよね?」


「当たり前じゃない。なんであたしがあんな子に嫉妬しなきゃいけないのよ」


「でも、みんながすごいって言う三國翔吾さんとマヤが付き合っているのは気に入らない」


「あくまで、津月さんがね。大人しすぎるし、三國さんがあんな子の恋人だってことがまず間違いなのよ」



よし。

欲しい言葉は聞けた。


会話を中断して口を閉ざすと、原田さんは怪訝そうに眉を寄せた。



「なによ?」



もう遠慮はしない。猫を被るのも終わりにしよう。



「原田さんはつまり、三國翔吾さんは女を見る目がないって言いたいんだよね?」



何を言われたのか、しばらく理解できなかったのだろう。


原田さんは瞬きも忘れて固まった。

思考に整理がつくのを待ってやれるほど、わたしはお人好しじゃないからね。



「もしくは、三國翔吾さんの女のセンスは大したことがない、とかかな」



先ほど望まれたとおり、思っていることをはっきりと口にすれば、彼女は顔を真っ赤にして焦りだした。



「………っ、そんなこと言ってないでしょ!」



いーや、言ってる。



滑稽な糾弾だとは自覚している。


これだけの物言いができるのは、マヤの話が真実だという前提があってのことだ。


しかし、わたしはこの騒動の影の主役ともいえる三國翔吾と話したこともないし、彼がどんな人間なのかを把握していない。

三國翔吾が本当にマヤを好きなのかどうか、知るすべもない。


客観的な判断材料は、クラスにいるやんちゃ組のマヤを見る心配そうな表情だけ。


約一カ月クラスで過ごしただけのマヤの言い分を一方的に信じるには、あまりにも不確かなことが多すぎる。


それでもマヤと原田さん、どちらを信じるかとなると、わたしは迷わずマヤを選ぶ。

単に自分の中では、原田さんよりマヤのほうが好きだから。


わたしが味方になる理由なんて、それひとつで十分だ。



大声を張り上げた原田さんは、そのまま口を閉ざした。

どちらも言葉を発することなく、沈黙は続く。


互いに相手の出方をうかがって、まるで時が止まったようだ。


便利な内通者と思っていたわたしからの反撃は、さぞ予想外だったのだろう。

時間は巻き戻せないのと同じで、一度言った言葉は消すことができない。


わたしも、原田さんも。



「た、高瀬さんって、三國さんのことそんな風に思ってたの?」



なんでそうなるのか。なんて言わない。

都合のいい考え方でしか回せない彼女の頭には、言ったところで無駄になる。



「わたしは三國翔吾って人について、話でしか聞いてないし。そんな人、どうこう考えるまでもない。はっきり言って、なんとも思ってないよ」



どんな人気者でも、関わらなければ結局は他人だ。

他人に情を寄せられるほど、わたしの心は広くない。



「今わたしが言ったのは、原田さんの話を聞いて、情報を頭で整理した結果。言い換えれば、原田さんがずっと見ないふりをしていたもの、になるんじゃないの?」



まっすぐに見つめると、気まずそうに顔をそらされた。



「そんな……、あたしが三國さんのことを悪く思うはずないじゃない。みんな高瀬さんの妄想でしょ」



彼女の中の三國翔吾は、悪いところのない完全無欠な男らしい。

妄想してるのはどっちだ。



「さっき話したこと、反復してみようか。記憶力はいいほうだから、原田さんの言ったことはちゃんと覚えてるよ」



はっとした原田さんと視線が重なる。

彼女の組んでいた腕は下ろされ、きつくこぶしが握られていた。



「そんなの、どうせ高瀬さんの都合のいい記憶でしょ。本当にちゃんと覚えてるかも怪しいし、だいたいみんな信じないわよ」



今の言葉自体が、自分の後ろめたい発言を証明していると、彼女は気づいていない。指摘するつもりもないが。


思わずこぼれたため息は仕方のないものとしよう。



「たしかに、友達もいなくて発言力もないわたしの話なんて、誰も聞かないだろうね。聞いたとしても、原田さんが否定すれば一発でわたしの言葉は嘘になる」


「なんだ。よくわかってるじゃない」



得意気に原田さんは笑った。本性が出てきたな。



「でもね、わたしも一応喧嘩をふっかけている自覚はあるから」



円満解決なんてはなから諦めてるし、みんな仲良しは現実問題として不可能だ。


わたしは勝率の低い喧嘩はしない。

喧嘩を売る側は用意ができる分、少し有利だったりする。



「わたしは自分の信用のなさを知ってる。——だから、証人はちゃんと呼んでるよ」



準備室のドアに顔を向けると、原田さんもつられて目をやった。


タイミングを見計らったように、微かに開いたドアの隙間から手が出てきた。

ひらりと一度手を振って、すぐに引っ込む。


原田さんが「ひっ」と息をのんだ。

うん。知らない人からしたら軽くホラーだもんね。


かくばった男の手から、マヤのものではないと判断してもらえるだろう。

よほど怖かったのか、原田さんは準備室に誰がいるのか確認に行こうとはしない。



「自覚があるなら、嫌な感情であっても自分のものだと認めたほうがいいよ。矛盾を体に溜め込むと、そのうち腐ってくるから」


「あら、そんなありもしないものが腐って、いったいどうなるというのかしら」


「わたしみたいになる」



挑発的だった表情が一変、口端をひくひくさせて黙り込んでしまった。本っ当に嫌そうな顔するね。



「うらやましいなら、うらやましいでいいんじゃないの。恋愛事で誰かひとりだけを悪者にするのは、結構無理があることだよ。それ以前に、無関係者の口出しほどうっとうしいものはないだろうし」



その点はわたしもこれが終わったら猛省しないといけない。


まあそれはそうと、もしかしたらマヤが三國翔吾の幼馴染じゃなかったとしても、原田さんはクラスでマヤをのけものにしたかもしれない。


原田さんのグループは、共通の否定材料をもって団結している部分があるから。その団結のためのターゲットが、今はたまたまマヤなだけ。

そして明日から、ターゲットはわたしに変わるのだろう。


脅しの材料ともとれる今回の「証人」をカードとして持っているうちは、強くは出てこないとふんでいるけど……。


パンっと、原田さんが両手を胸の前で叩いた。



「わかったぁ。高瀬さんって、皇龍に取り入りたいんでしょ?」


「それはないね」



そう来るとは思っていたが、そんなひらめいたかのように言われてもなぁ。



「だから津月さんに自分だけ味方して、皇龍のみなさんによく思ってもらおうとしてるんだ」


「…………」


「なんかそれって卑怯じゃない?」



そこまで言うのなら、もっと卑怯になってやろうか。



「原田さんがわたしをどうとらえようが自由だよ。だけどわたしをどうこう言ったところで、さっき自分の言った言葉が消えることは絶対ない。証人もいるし」



話をそらして今日のことをうやむやになんてさせないよ。



「本題を忘れて痛い目見るのはどっちなのか、それぐらいはわかるだろうに」



原田さんに、もはやこちらを見下す態度は微塵もない。彼女の目はわたしを敵としてとらえている。


非常に単純で、わかりやすかった。



「ああ、それで、何を話すんだったっけ。わたしとマヤが昼休みになにを話していたかの報告だよね」



余裕のある態度が彼女の気に障ったのだろう。


舌打ちが室内に響いた。



「……あったまきた」



言い捨てて、原田さんは第二科学室から出て行った。

スライド式のドアが勢いよく閉められる。

力いっぱい動かされたドアは鈍い音を立ててバウンドし、半開きの状態で止まった。


廊下の足音が遠ざかる。静寂を取り戻した室内で、ひとまずの目的を達成した充実感から肩の力が自然と抜けた。



「もういいよ、ありがとう」



準備室に向かって言うと、半開きのドアが静かに開く。



中からは、凍牙とマヤが出てきた。







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