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モノトーンの黒猫  作者: もりといぶき
【モノトーン編 下】
80/208

21.再び⑶




      ◇  ◇  ◇






モノトーンが拠点とする倉庫街に到着した皇龍は、その現場を見て思わず言葉を失った。


春樹たちがいる倉庫の中、バスケットコートが余裕で収まる広さの空間は今にも崩壊しそうなほどに空気が張り詰めていた。この原因が奥にたたずむ春樹だというのは、一目瞭然だった。


入口付近にいてもわかる、コンクリートに転がされた連中に春樹が向ける明瞭な殺意に野田の背筋が凍りつく。


彼女を拉致されたことを怒り、「殺してやる」と呟いていた野田の友人、千里の言葉とはわけが違う。

冗談や脅しでもない。春樹は本気で加害者を殺すつもりなのだとその場の空気で思い知った。


それと同時に、何があったのかという疑問が浮かんだ。春樹があれほど怒る理由はどこにある。


手足を縛られている連中は、皇龍所属者の恋人に手を出しただけじゃないのか。

この状況を理解できないのは日暮をはじめとした他の皇龍メンバーも同じだったようで、倉庫の入り口で皇龍は足を止めた。


春樹を止めるべきか。それは皇龍がしていいことなのかと皆が迷っているうちに——、結衣がやらかした。



いや、もうね。水浸しになった武藤の姿に俺は結衣ちゃんの死も予想したよ。



火に油を注がれた春樹が怒りの矛先を向けてきても、結衣はひるまなかった。

そりゃそうか。皇龍にひとりで直談判に来るような子だもんねと、張り詰めた空気の中で野田は現実逃避気味に達観する。


春樹と結衣の会話の流れから、手足を縛られている連中が鈴宮綾音に手を出したことを知った。


怒りをあらわにする春樹には納得した。

そんな春樹を言葉のゴリ押しで止めにかかる結衣にはドン引きした。君って親しい人とか関係なしで容赦しないんだね。


モノトーン側の話がまとまったらしく、春樹がこの場を立ち去るために出口——つまりは日暮たちのほうへと歩いてくる。


写真でなく、本物を見るのは野田も初めてだ。

威圧感がうちの総長と通じるところがある。天性で人の上に立つ気質をそなえたやつなのだと悟った。


あと20メートルほどで野田たちの横を通るという時に、春樹は思い出したかのように後ろを向いた。



「おい馬鹿猫。ここまでやらかしておきながら、また逃亡なんてふざけたまねはするんじゃねえぞ」


「特に何もやらかしてないでしょ、今回は」



何事もなかったかのように言い放つ結衣に、春樹の剣呑さが増す。



「俺にバケツの水ふっかけたのはてめえにとってやらかしたことじゃないのか」



こ、この期に及んでまだ言い合うのかこいつらは。


おののく野田たちに構うことなく、春樹と結衣は次第に白熱していく。



「寒い時期でもあるまいし。用意されたのが雑巾の絞り水じゃなくてよかったね」


「てめえまじで覚悟しやがれ」


「早く行けボケナス!!」



お前らいい加減にしろと思っていたのは野田だけではなかったようだ。

春樹に出口を指差したモノトーンのメンバーが叫ぶ。あの顔は、岩井洋人だったはず。



「結衣もいちいち突っかかるな」



なだめるような口調で言ったのは、蔵元有希か。

結衣は不服そうにしながらも素直に口を閉じた。珍しい光景だ。


数日前にアークに現れ、櫻庭と舌戦を繰り広げた男——市宇成見が結衣の背中にのしかかる。



「まあ、じゃれついて遊ぶのは今度でもできるからね。誰かさんがへそを曲げて逃げなければだけど」


「もう逃げないよ。そして暑い重いさっさとどいて」



拗ねたように呟きながら、結衣は肘で成見を小突く。


成見は結衣の髪をくしゃくしゃにしながら、春樹を見て確信的に笑った。



「逃げない、か」



小さな春樹の声は野田にしっかりと聞こえていた。



出口に向かう春樹に日暮が歩み寄る。



「女たちなら手前の倉庫の2階だ。邪魔だからもって帰ってもらえれば助かる。あとのことは市宇に聞いてくれ」


「……承知した」



端的に告げた春樹が野田たちの横を通り過ぎる。皇龍など全く眼中にない。そんな態度だった。


倉庫の外でひとり事態を傍観していた凍牙と二、三話して、春樹は行ってしまった。



「俺らもそろそろ消えるとする。荷物運びはもういいだろ」


「ええ、ありがとうございました」



ぼろぼろの繋ぎを着て無精ひげを生やした男に、有希が深々と頭を下げる。男は5人ほどの仲間を引き連れて倉庫から出ていった。



「喧嘩するなら心してかかれよ。武藤の周りを固めているやつらは曲者しかいねえぞ」



小汚い男はすれ違いざま面白そうに皇龍に言った。そんなこと言われなくても野田は十分わかっているつもりだ。


結衣しかり。

この前アークを訪ねた綾音、成見の両者にしても、お前らどうやって育てばそんな性格になるんだと聞きたいぐらいにくえないやつだった。


櫻庭と成見の腹黒い舌戦は思い出しただけでげっそりしてしまう。


というかさっき皇龍との繋ぎの代表に、春樹は成見を指名しなかったか?



「さて」



数人いなくなっただけで、倉庫内は息がしやすくなった。

緊迫感がなくなり気が抜けたところに声を出したのは結衣だった。


皇龍の面々に顔を向け、拘束されて座りこむ連中を指し示す。



「加害者です。煮るなり焼くなり切り刻んで海に捨てるなり、どうぞお好きになさってください」



ええええー、今君がそれを言うの?


野田は天を仰ぎたい気持ちを必死に抑えた。


こっちは恋人を攫われてブチギレていた奴らが、ようやく落ち着いてきたころなのに。余計なことは言わないでほしいんだけど、ものすごく。



「結衣ちゃん、さっき武藤を止めたよね」



その口でどうぞやっちゃってくださいとはよく言えたものだ。まあそれが結衣なんだろうけど。



「わたしが止めたのは春樹だからであって、別にあなたたちがこいつらに何をしても口出しするつもりはありませんよ?」



だよね。君は武藤を人殺しにしたくなかっただけで、そこのあほどもを助けようとしたわけじゃないもんね。



「殺すならここでは止めてくださいね。モノトーンが殺人の証人になるのは避けたいですし」



有希の付け足しはフォローでもなんでもなかった。

こいつも殺人推奨者なのか。



「あ、奥にいるサル顔とパグみたいなの、昼間マヤに声かけてきたやつですよ」


「頼むからこっちを煽るようなこと言わないで!」



野田の隣にいた三國の顔がみるみる険しくなる。

こいつの暴走止める役目って、毎回俺なんだぞ。



「ていうかさー、結衣ちゃんがここに来なかったら君ら武藤君をどーしてたの?」



櫻庭の問いかけに、結衣と成見が目を見合わせた。



「最悪は力づくで止めてましたよ。俺たちが結衣と同じことを言ったところで、うちのボスが手を出さずに聞いてくれるとは思えませんし」



成見の話が進むにつれて、壁に立てかけてあった鉄パイプが、野田には凶器に見えてきた。



「ま、その時は怪我人が出るのも覚悟の上ですよ。春樹を俺らで押さえつけてぼこぼこにして、綾音を助けようとしてそこの連中にやられたとでもでっちあげれば美談になるでしょうし」



なんてことのないように言ってくる成見。

洋人と有希からも反対意見が出ないということは、本当にそれを実行するつもりだったらしい。


ずいぶんと吹っ飛んだ友情があったものだな。




皇龍とモノトーンが話し合った結果、捕らえた連中の始末は共同で行うこととなった。


場所は皇龍の治める街に移され、モノトーンからは成見と洋人が同行する。


移動の直前。成見、洋人、有希に頭を小突かれた結衣は、口をへの字に曲げながらもひとこと「ごめんなさい」と呟いた。


それを聞いた3人が更に結衣をもみくちゃにする。


じゃれ合っている彼らの姿に、野田はここが結衣の帰る場所なんだと納得した。


そしてふと気になって、倉庫の外にいる凍牙に顔を向けた。


変わらぬ無表情で結衣たちを見つめるその顔は、どこかほっとしているように感じた。


しかし心なしか、嬉しさに紛れて凍牙が少し寂しそうに見えたのは、野田の思い違いだろうか……。







      ◇  ◇  ◇






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