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モノトーンの黒猫  作者: もりといぶき
【モノトーン編 下】
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11.不穏(上)





人を泊める予定がなかったひとり暮らしのわたしの部屋には、寝具がひとつしかない。


真夏にふたり密着してベッドで寝るなんて暑くてできないので、敷布団を床に横向けに敷いた。頭から腰にかけてを敷布団に乗せるようにして、足のつく部分にリビングのマットを使う。そうやって、わたしとマヤは並んで眠った。



明朝はゆっくり起床した。

わたしとマヤはすっかり日が昇りきった時間にマンションを出る。


行き先は駅の反対側にあるショッピングモールだ。

目的地は徒歩圏内にあるといっても、真夏の日中だと事情が変わる。あまりの暑さに移動手段にバスを使った。


ショッピングモールへ行く目的は茶碗をはじめとした食器類を購入することにあった。


昨日の夕飯の際に、ひとり分しか揃っていなかった食器セットについてマヤに怒られたのがそもそもの始まりだ。



——なんでも器に入ればいいというわけではないのよ。



どんぶりに小さく盛られたご飯を見て、マヤは頭を抱えていた。


ちぐはぐな食器で食べるのはわたしだからと言ったものの、そういう問題ではないと反撃されてしまった。


ここに来るのはわたしが初めてで、わたし以外の訪問予定はないの? お兄さんがたまに来るの? だったらなおさらダメでしょう。


そんなやりとりがあって、最終的には次の日に必ず来客用のものを購入する、という約束をさせられて今に至る。マヤは屁理屈では諦めてくれなかった。



今日の夕方、凍牙に会ってわたしの答えを報告しようと決めていた。

春樹たちに会いに行く前に打ち明けるのは、いろいろと巻き込んでしまったわたしなりのけじめだ。


今夜、凍牙と別れた後は、電車に乗って実家のある街へ行こうと思う。


春樹と綾音がどこにいるかは見当もつかないが、ひとまずは春樹の家を訪ねようと計画している。


今晩会えなくても、武藤家の人に伝言を頼めば近いうちに顔を合わせられるはずだ。


怖くなって逃げ出す前に、行動を起こそうと覚悟は決めた。





到着したショッピングモールの100円均一ショップで同じデザインのシンプルな食器をひととおりカゴに入れる。あとはみそ汁用のお椀を単品で決めて、一揃いを購入したらわたしの目的は達成する。その後はマヤといろいろな店を見て回った。



「結衣もこういう服を着たら可愛いのに」



マヤがハンガーにかかったベージュのチュニックをわたしにあてて呟いた。



「ガラじゃないよ」



裾にレースをあしらったフェミニンな衣類なんて、似合うはずがない。


それにしても……買い物におけるマヤのはしゃぎかたは、どことなく綾音を彷彿させる。


マヤと綾音。

もしもそろったら恐ろしく長い買い物になりそうだ。



「あ、少し待って」



通り過ぎようとした雑貨店で、棚にディスプレイされた花瓶が目に入った。

乳白色の陶器でできた一輪挿し用で、水色と透明の角ばったガラスの粒が螺旋状にはめ込まれている。



「どうしたの?」


「静さんに、いつもよくしてもらっているお礼にと思って」



花瓶を見た時、なんとなく静さんのイメージと重なった。


値段はまあ、手痛い出費になるが払えない額でもない。

思い立ったときじゃないとそうそう買える物でもないので、すぐさまレジで精算しラッピングしてもらう。


ショッピングモールには12時を少し過ぎたぐらいに入ったが、約一時間見て回っただけでわたしの疲労は極地に達した。


慣れ親しんだ人と出歩くのは楽しいが、どうも人が多いところを歩くのは気力と体力が続かない。


3階にある混み合ったフードコートでなんとか空いている席を見つけ腰を落ち着ける。


そのままテーブルにへばりついてしまったわたしの分まで、マヤはセルフサービスの水を取りに行ってくれた。


ふたりで8個入りのたこ焼きを半分ずつ食べ終えて、早々にフードコートをあとにする。


そろそろ建物を出ようとエスカレーターを下っていると、降り口の近くに2人組の男が立っていた。彼らの視線からして、明らかにこちらを意識している。


嫌な感覚だ。

気にせず流せるレベルのものじゃない。


エスカレーターで2階から1階にわたしたちが乗り継ぐのを待って、男たちは後ろに続いた。


何を企んでいるのか定かでないが、害意の有無もはっきりしないうちにショッピングモールの建物から出るのは危険すぎる。



「1階で少し休んでいいかな?」


「大丈夫? 帰るのにタクシー使ったほうがいいかしら?」


「そこまではしなくていいよ」



エスカレーターを降りてすぐのところにあった、休憩スペースのソファに腰掛ける。

案の定、すぐ後ろにいた男たちがわたしとマヤの前に立った。



「お前、三國の女か?」


「えっ」



いきなりのことに動揺するマヤの手をさりげなく握る。



「あの女がどうかしたんですか?」



言ってやると、男たちは驚いて互いの顔を見合わせた。



「……なんだよ、人違いかよ」



大きく舌打ちした片方の男が忌々しげにわたしとマヤを睨みつける。



「なあおい。こいつ、確かモノトーンの」


「……ああ」



わたしを見て不機嫌な顔をさらにしかめた男たち。小声で話された内容は、ばっちりわたしにも届いていた。



「わたしに何か心当たりでも?」



次第に表情を引きつらせる2人組に目を細めて尋ねる。



「関わんな。行こうぜ」



人をまるで疫病神のように見てきやがって。


そそくさと退散した男たちに多少の怒りは覚えたものの、冷静さが欠けるほどでもない。

隣のベンチや後ろへと視線を向けて、普通に会話して盗み聞きされる距離に人がいないことを確認する。



「アークに行ったほうがいいかしら?」



不安を隠しきれないマヤに否と首を振り、ここにいるよう落ち着かせた。



「下手に外に出るのは危険だよ。店内と違って外は防災警備の人はいないんだから。人目がないところで小路に連れ込まれでもしたら対処できなくなる。マヤはまず彼氏さんに連絡。事情を伝えて迎えに来てもらえるようお願いして」


「わかったわ」


「できたら電話じゃなくてメールで。どこで誰が聞いてるか、わからないからね」



おかしな人間が近寄って来たと同時に電話を切る動作だけでも、怪しまれる可能性がある。

電話をするために人のいないところに行くのも、逆に危険だ。


しばらくたっても三國翔吾から返信が来ないようなら次の手を考えよう。



「ついでにわたしからの伝言で、もし襲撃にあったとしてマヤを守りながら戦いきれる保証がないなら、絶対ひとりで来るなってつけ足しておいて」



釈迦に説法かもしれないが、伝えておけばひとりで焦って飛び出してくることもないだろう。


マヤの彼氏からの返信は早かった。

すぐに行くという短い連絡を受けて、三國翔吾がマヤを迎えに来るのを待つ。



知らないところで、何かが動いている。

他人はわたしの事情なんて知ったことではない、当たり前のことだけど、こうもタイミングが悪いと苛立ちを隠せない。


やつらの目的がなんにせよ、三國翔吾の女としてマヤに話しかけた時点で皇龍の敵は決定だろう。


西の連中の悪あがきか。大人しく春樹たちに叩き潰されていればいいものを。

引きどきを誤った奴らの未来は、決して楽しいものにはならない。







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