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モノトーンの黒猫  作者: もりといぶき
【モノトーン編 下】
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7.狐に摘まれる(下)






あの冬の失敗を伝えるには、前提としてさらに過去をさかのぼらなければいけない。


自分の恥をさらすのは勇気がいる。



「先に言っておく。わたしと凍牙は、中学が同じだ」



言いながら、わたしはこれすらもマヤに伝えてなかったのだと思い知らされた。



「中学2年は同じクラスだった。わたしたちは、そのときから面識があった」


「……そう」



マヤに驚いた様子はなかった。

ひょっとすると皇龍の誰かから聞いていたのかもしれない。



「マヤがアークで会った鈴宮綾音と、モノトーンの武藤春樹たちとわたしは、小学校からの付き合いがある」



モノトーンというチームについて、マヤも名前を知っていたらしい。

わたしの顔を見て驚くマヤに、苦笑して肩をすくめる。



「春樹と綾音は恋人同士。わたしと綾音は友達で、春樹とわたしは……、友人の中でも、なんていうか……相棒とか、親友? ってのが近いのかな……。とにかくそんなふうに言える仲だった」



改めて考えると、ものの見事な三角関係だったわけだ。



「補足しておくと、鈴宮と武藤が付き合う前から、結衣と武藤の関係性は出来上がっていた。だからここまでことが拗れてしまったんだろうな」



口を挟んだ凍牙はわたしへと告げる。



「時系列の説明をはしょると後々混乱するぞ」


「そこからいくと終わらないよ」



1から100まで話していると、とても1日では話しきれない。



「なにも真夏のブリザード以後の、お前らがやらかしたことすべてを話す必要はないだろ。三國さんと津月のような、出来上がった関係の中にお前が入り込んだものとは事情が違うと言ってんだ」


「……何かものすごく矛盾した言葉を水口君が言った気がするのだけど」



そこに食いつくか。



「真夏のブリザードは、まあ、小学3年の時にあったわたしと武藤春樹の大喧嘩のこと」



マヤが無言で凍牙に詳しい補足を求める。

わたしの説明は端的すぎるらしい。



「武藤と結衣の個人的な諍いが引き金となった大騒動だ。小学校を分断する勢いで周囲を巻き込んで争っていたにも関わらず、中心にいたこいつらがある日突然、なんの前触れもなく仲良くなってタッグを組んだものだから、周りの混乱は計り知れなかった。最終的にはPTAと教育委員会が出てきて保護者説明会が開かれる規模の問題になったんだったか」


「……昔からそんなことしてたの?」


「詳しいことは割愛させて。話が進まない。とにかくあの喧嘩以来、春樹とわたしはよくつるむようになった」



そこから、幼馴染の菜月。菜月にくっついてきた成見。洋人に有希、そして綾音と、わたしたちの輪は自然に広がっていった。



「中学に入った後しばらくして、春樹と綾音が付き合いだした。付き合う寸前のふたりは傍から見ていてものすごくじれったくって、早期解決のためわたしも綾音の背中を押した」



春樹と綾音が恋人同士になったからといって、わたしたちの中で大きく何かが変わったわけではない。


春樹とは相変わらず馬鹿なことをやらかしていたし、綾音のスキンシップも前と同じで激しいままだった。


菜月と綾音、それぞれの惚気話に付き合うことも度々あった。


今から思えばひょっとすると、この時すでに小さな亀裂は出来ていたのかもしれないけど。



「中学2年になって、親しかった仲間はみんな同じクラスに編成された。凍牙もその時のクラスメイトで、担任は柳さん……カプリスの店主、静さんの旦那さんだった」


「何が起こればそんなクラスが出来上がるのかしら……」


「さあね。柳さんを失脚させたい誰かが権力を使ったんじゃないの?」



適当に言ってみたけど、これは十分ありえることだな。


思えば2年のあのクラスは、訳ありといえる生徒が過半数を占めていた。

教職1年目の柳さんに任せるのはいささか無理があった気がしないでもない。


結果として柳さんという鬼に、問題児という金棒を与えただけに終わってしまったようだが。



「2年の10月には春樹が生徒会長に就任して、綾音とわたしも生徒会のメンバーに組み込まれた」



わたしが生徒会入りしたのは、柳さんと春樹が手を組んで裏でいろいろとしてくれたせいだ。


もともとうちの中学の生徒会に「庶務」なんて役職はなかった。

生徒会長の指名で生徒会庶務は採用されるように校則を急遽改正され、知らぬうちにそんな役を押し付けられていたわたしはそりゃあ怒った。


実験的な試みでひとまず庶務の役職は今期限りに止める、という決まりまで作ったのだから始末に負えない。

これは表に立つことを嫌がって生徒会入りを拒否したわたしに対し、春樹の取った強硬手段だった。


正式な生徒会が発足するまで、仲間内全員がこのことを知りながらもわたしに何も言わなかったと知った時にはさすがにすねた。


文句を言ってごねたりはしたが、いざ入った生徒会は真面目に働いたつもりだ。



「生徒会は活発に動いたよ。校則も昔からのが残っているだけで、現在では意味がなくなったものは撤廃して、規則は大分ゆるくなった。保守的な教師にはあまり良く思われなかったけど、味方になってくれる先生も結構いたからね」



最初は腰が重かったけど、やりがいはあった。


全校集会などで人前に立つ役目は、春樹がしなくていいと言ってくれたのもわたしの気を楽にした一因だ。


雑用やパシリ、生徒指導の教員から何が何でも許諾をもぎ取れという春樹の無理難題も、頭は痛いが楽しかった。



「3年になって、みんなとクラスは別々になった。わたしと春樹は同じクラスだったけど。綾音は、仲間の誰とも一緒のクラスにならなかった」



周囲の変化という意味では、そこから綾音への風当たりは強くなっていったのだろう。


綾音は何も言わなかったし、わたしたちも彼女の周りの異変に気づくことができなかった。


悔やんでも、時間は戻れない。


綾音は中学3年の1年間、どんな思いをしながらあの教室で過ごしたのだろう。


ひとり落ち込んでいると、シンプルな電子音が聞こえた。

凍牙がポケットからスマートフォンを取り出す。

指で画面を操作する凍牙の眉間には次第に皺が寄っていった。



「櫻庭さんからの呼び出しだ。悪いが俺は行くぞ。あとは自分でなんとかしろ」



ここまでくればもう大丈夫だろうと言いたいのだろう。


自分ひとりで話し出すと、主観が目立ってしまってマヤには湾曲した事実しか伝えられなかった。


立ち会ってくれた凍牙には本当に感謝する。



「付き合ってくれてありがとう。だけどね、それとこれとは話が別だから」



さりげなくこの店の鍵を渡そうとしてきたのはいかがなものか。



「いつ戻れるかわからないんだ。お前が持つのが当然だろう」


「いやいや、今ここで受け取ったら最後、柳さんの帰宅まで確実にわたしの管理になるよね」


「俺はここで店を出た時点で必要がなくなる。お前はまだ話が終わっていない。つまりこの場が必要だ。諦めてこれを受け取れ」



余り認めたくはないが、人に聞かれたくないことを話すには、この場所がちょうどいいのは事実だった。

しぶしぶ凍牙の手から鍵を貰い受ける。



「明日、街を回るぞ。18時にここでいいか?」


「雨の場合は?」


「その時の降り具合で考えればいいだろ」


「了解」



打ち合わせは手短に終わり、凍牙は店の出口に足を進めた。


去り際に凍牙がマヤに目を向ける。マヤは心得たように微笑みながらうなずいた。



「あとは頼む」



凍牙はそれだけ言って、店から出て行った。



「本当に、水口君と結衣は息ぴったりね」


「何が?」


「わからないならいいわ」



つまらなそうにマヤは話を切り替える。



「続き、聞かせて。そこから結衣たちに、何があったの?」


「……うん」



中学3年の9月を最後に、生徒会は引退となった。

わたしたちはそこから受験勉強や家の事情で、みんなで集まる機会は次第に少なくなっていく。


とはいえ同じクラスの春樹とわたしは、毎日顔を合わせた。

綾音と春樹も休日には時間を作って、ふたりで過ごしていたことも知っている。


しかし、少しずつ、少しずつ……。


わたしたちの関係は確実に崩壊へと突き進んだ。



ここから先は、凍牙も知らない。


流されて、一緒になって皆が冷静さを失ったあの日。


わたしは安直で利己的な、どうしようもない子供だったんだ。







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