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モノトーンの黒猫  作者: もりといぶき
【モノトーン編 中】
59/208

15.大好きの伝え方(下)





翌日はふたり仲良く寝坊した。

時刻は朝の10時を回ったところ。アルバイトという時間の制約がなかったとはいえさすがに寝過ぎた。


手洗い場にて片手で難儀しながらも顔を洗い、使用したシーツとタオルケットを畳んで凍牙の寝ていたソファの上に置く。


階段をずり落ちた服のままベッドにいたことに、朝になって気づいた。

砂ぼこりに汚れた寝具のクリーニング代は後日柳さんに渡そう。受け取ってもらえるかはわからないけど。


店のドアに鍵を閉めて、わたしと凍牙は雨知らずを後にした。


途中、マンションへの帰り道にあったパン屋に立ち寄った。

凍牙に少しだけ待っててもらい、朝食兼昼食を購入する。


昨日の昼から飲まず食わずでお腹がぺこぺこだった。

レジで袋を2つに分けてもらい、片方をパン屋の前にいる凍牙に渡す。



「あげる」


「金は払うぞ」


「いいよ。ついでだったし、このぐらいでケチなことは言わないよ」



この程度、凍牙がしてくれたことへのお礼にもならない。

空腹だったのは凍牙も同じようで、ふたりでパンを食べ歩きながらのんびりマンションを目指す。



「味あるのか、それ?」



クロワッサンをほおばるわたしに凍牙が聞いた。


怪訝な顔をされたのは、わたしが食べているパンが1つ目も2つ目もクロワッサンだったからだろう。


凍牙にはベーコンとチーズ入りのクロワッサンと、クリームディニッシュパンに、紙パックのコーヒーが入った袋を渡してある。

サクサクとした食感のパンが多いのは、たんなるわたしの好みだ。



「塩加減がちょうどいいよ」



スーパーに置かれるクロワッサンとは違い、パン屋で買うものは香ばしくておいしい。

ほんのりとした塩味の中に甘さが感じられるから、追加の味付けは必要ない。



「お前の作ったあの弁当といい、薄い味が好きなのか?」



これは誤解だ。

凍牙と同じおかずをわたしも食べたけど、あの味付けは失敗だったと断言できる。



「こういうシンプルな味も好きってだけで、濃い味付けも食べられるし好きだから」



納得したのかしていないのか、凍牙はへえと呟いてパンをぺろりと完食してしまった。


商店街の表通りを避けて、裏道を使ってマンションへと帰る。


午前中とはいえ日差しはきつかったが、道の左右に植えられた並木のおかげで日陰を歩き続けることができた。



「そういえば、わたしと春樹たちの繋がりがどこから発覚したのか、凍牙は知ってる?」



ずっと疑問に思っていたことを、凍牙なら櫻庭先輩から何かを聞いているかと尋ねてみる。


吉澤先生や柳さんが現役に教えたとは考えにくい。最初は高校が持っているわたしの出身中学のデータを見られたのかと思ったけれど、そこから春樹とわたしの結び付きを確定するのは浅慮すぎる。中学が同じという条件なら凍牙だって当てはまるわけだし、その場合だと、少なくともわたしに直接皇龍の誰かが確認にくるだろう。



「発覚の情報元となったのは、俺たちの卒業アルバムだ」


「ああ、生徒会の集合写真でも見られたか」



3年の10月まで務めていた生徒会は、会長に春樹、副会長に有希が就任していた。


各2名ずつ選出される書記と会計には、それぞれ綾音と菜月もいたし、わたしも庶務として役員に名を連ねていた。


生徒会のメンバーでの集合写真を撮った覚えはある。


あれには春樹と一緒に写ってたな。モノトーンに名を連ねる者たちとは面識がないなんて言い逃れは、確かにできそうにない。



「だけどあの写真だけでわたしが春樹の仲間だなんて勘ぐるのは、ちょっと安直すぎるんじゃないかな」



現に残りの書記と会計のふたりは生徒会の繋がりしかない、仲間内とは無関係の生徒だった。



「……お前」


「何さ?」


「卒業アルバム見てないだろ」



そのとおりだけど……。

あきれ果てる凍牙の口ぶりに、嫌な予感がこみ上げた。



「……あいつら、また何かやらかしてるとか?」



言ったものの、卒業アルバムはプロのカメラマンと業者が制作するものだ。春樹たちが出来る細工など限られてくる。



「それは自分の目で確かめろ。いいか、帰ったら絶対開けて見ろ。わかったな」



念押ししたあとで凍牙がぼそりとこぼす。



「俺のクラスは担任が柳さんだったから理解があってよかったが、他のクラスはいい迷惑だっただろうな」



何を指してそれを言ったのか、わたしには見当もつかなかった。






      *






マンションに帰ると真っ先にシャワーを浴びて部屋着に着替えた。


一息付いたあと、意を決してクローゼットを開け、棚の奥にひっそりと立てかけてあったそれを手にする。


涼君が置いて帰った、未開封のまま放置していた中学校の卒業アルバムだ。


カッターでガムテープを切り、平たい段ボールの箱を開ける。

アルバムを包む緩衝材を引きちぎり、中身を取り出した。


厚紙のカバーから本体を抜き取り、表紙を開く。


表紙の裏側には校歌が印字され、次のページには桜の木と校名、そして「卒業記念」と記してあった。

もう1ページめくれば校舎と教職員の集合写真、次からは見開きでクラスごとの集合写真となっている。


この集合写真は卒業式当日に撮ったものだ。


生徒たちはみな名札の上にピンクの花飾りをつけ、中央にいる先生は袴姿で写っていた。


式に出ていないわたしが、その中にいないのは当然だ。

卒業式が終わった日の夜、卒業証書を取りに学校へ行った際、クラス担任に集合写真をどうするかと訊かれた。


今の技術なら、別撮りしたわたしの写真をクラスの中に合成することができると伝えられたが、断ったのも覚えている。

写真なんて事前に撮ってある個人のものだけで十分だ。


すでにあるものを使ってどうにでもしてくれと言ってあったので、わたしが集合写真の右上に配置されているのは特別おかしいことではない。



「…………」



1組から5組まで全てのページをめくって、凍牙の言おうとしていたことがわかった。


3年2組の集合写真。


右上に丸く張り付けられたわたしの隣には、同じく春樹の丸い写真があった。


3組には洋人と有希が。


4組に成見と菜月、5組には、綾音。


みんなクラスの列に並ぶことなく、右上部分に丸い写真となって配置されている。



「……何やってんの馬鹿」



クラスの集合写真をすっぽかすとか、そりゃあ先生も生徒たちも慌てただろう。しかも卒業式の当日だ。

人権面での考慮がなされ、欠席者の写真配置は本人の意思がなければ出来ないと担任は言っていた。


あんたたちは自ら進んでそこに載ることを望んだのか。

不自然なまでに多い、集合写真の欠席者たち。

生徒会の写真だけでなく、こんなところでもわたしと春樹が並んでいたら。


さらにはモノトーンに関連する人物がアルバムの中でこぞって同じところに載っていたら、それは皇龍も何かあると勘ぐるだろうね。おかげでとんだ災難だよ。


本当に何やってくれてんだ、あんたたちは……。



責めればいい。


こんなことをされたおかげで、わたしとの関係が皇龍にばれた。

下っ端におかしな疑いをかけられた。


災難に見舞われて、全身青あざだらけだ。手首も痛い。


勝手なことを。余計なことをしてんじゃないよ——って。


文句はいくらでも出てくるのに、「迷惑だ」とだけはどうしても言いきれなかった。


このアルバムができたのは、西の連中が荒れるずっと前のことだ。


3月中旬の卒業式。


わたしがまだ、春樹たちから逃げ続けていたそのころには。みんなはわたしに、この繋がりを示してくれていた。



「……あんたが馬鹿なら、わたしは大馬鹿者だね」



不機嫌なしかめっ面をしているわたしの隣、堂々とした表情で写る春樹の写真を指先で撫でた。



もっと早くにこれを見ていればとか、そんな後悔はしていない。

これまでの時間は、決して無駄ではなかったはずだと信じているから。


この街に来て、この高校に入ったから、凍牙と再会できた。

マヤにも会えた。

だからこそ、わたしはまた前を向くことができたのだ。



——もうこれ以上、邪魔はさせない。



西の連中が手を出してくるなら、容赦なく叩き潰そう。


皇龍だって例外じゃない。



早く、早く、早く——。


みんなとまた向かい合えるように。




わたしも答えを見つけないと。








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