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モノトーンの黒猫  作者: もりといぶき
【モノトーン編 中】
52/208

8.動けない(下)




      ◇  ◇  ◇






結衣が去ってもなおわめく男たちの耳障りな声に苛立ちが増す。

凍牙はうんざりとした様子で男たちの前に立った。


夏休みに入ってからというもの、予期せぬ事態が立て続けに起こっている。


小野寺の一件にはじまり、皇龍との関係、モノトーンのことも——。


ただでさえうんざりしている状況だ。重ねるように降りかかってきた新たな災難に平和的解決を望めるほど、凍牙は心が広くない。



「お前らはモノトーンなのか?」



苛立ち混じりの声で問いただすと、彼らは黙り込んだ。

目を泳がせながら、気まずそうに小太りの男が口を開く。



「……モノトーンに、入りたいんだ。そのためにはまず、高瀬に許してもらわねえと、武藤も納得してくれねえだろうし」


「どうやって結衣がここにいることを知った?」


「それは……」



小太りがポケットからスマホを取り出して操作する。



「これが俺たちの街にも流れてきたんだ。それで、これ見せながら近隣の街で聞きこんで……。モノトーンが捜してるって言ったら、聞いた連中はかなり真剣に答えてくれたよな」



馬鹿どもが。


凍牙が苦虫を噛み潰す。


武藤に認められていないやつが、勝手に組織の名前を騙ってどうする。


モノトーンの影響力を考えろ。たとえ武藤が同級生であったとしても、こいつらがそこまで馴れ馴れしくしていいはずがない。


まさかこの愚行を武藤が同級生のよしみで許すとでも思っているのか?


いつかのSNSの拡散記事を凍牙に見せて来た小太りに、殺意に近い感情が込み上げた。

一歩、また一方と苛立ちの対象に歩よる。



「この街は皇龍というチームが仕切っていることを知っているのか?」


「……皇龍? 高瀬が取り入ろうとしてるっていうチーム——」



男が言い終わる前に、凍牙は小太りの鳩尾にこぶしを入れた。


小太りの手からスマホが離れ、体が崩れ落ちる。

隣で唖然とする細身の男にも、首の後ろを掴んで膝で腹に一撃をくらわせる。



「なんだっ!」



突然の行動に固まっていた連中が動き出し、凍牙から距離を取って警戒しはずめる。



「もういい。てめえら喋るな」


「ああ!? んなことてめえに言われる筋合いはねえんだよ!」



男たちの怒りが高まるにつれて、凍牙の感情が冷めていく。


同時に春樹が彼らをモノトーンに入れようとしない理由に納得した。


周りを顧みないうえ、出所も定かでない情報を信じる馬鹿どもに、たとえ同じ中学のよしみであっても「モノトーン」を名乗らせたくはないはずだ。


だからといって放置もどうかと思うが……。


あとで文句のひとつぐらいは言ってやろうと、男たちと対峙しながら決意する。

不意打ちをくらってうずくまっているふたりが復活する前に、さっさと終わらせるとしよう。


凍牙は普段見せない獰猛な笑みを彼らに向けた。

怒りを抱きながらも、頭の中は冷静だった。


狭い小路なので、後ろに回られなければこの程度のやつらは問題ない。

ついでに最近溜まっていたストレスもこいつらで解消してもいいだろう。


感情のままにためらわず凍牙は靴の底で強く地面を蹴り、男たちとの距離を詰めた。







      ◇  ◇  ◇








公園の遊歩道へと続く石の階段を上がる。

ざっと20段ほど。段差が均一でないため地味に疲れる。


歩道まで登りきったところで、さらにげっそりしてしまう事態に遭遇した。


遊歩道に、どう見ても不良にしか思えない連中が1、2、3……6人と、ギャル系女子が3人。明らかにわたしを待ち構えていた。

それにしても大所帯だな。


そいつらは、どう見ても好意的とは思えない目でこちらを睨みつけていた。



「……高瀬、てめえやっぱり、モノトーンの手先だったんだな」



そう言ってきた男には見覚えがあった。

一学期にわたしと仲良く顔写真を世間にさらされたひとりだ。



「意味がわからない」


「とぼけんじゃねえ! さっきモノトーンを名乗ってる連中が、お前の名前を読んでいるのを見たやつがいるんだよ!!」



それで知らせを受けて、こうやって待ち構えていたというわけか。


しかもこの人数で。


これはまた、随分と——。



「タイミングのいい話があったものだね」


「はっ、認めたか。まあお前がモノトーンの関係者だってのは前からわかってたんだけどなあ」



得意気な男は置いておいて、他の連中を注意深く観察していく。


3人で固まってこちらを睨んでいる女子はいいとして。


怒りをにじませる男たちにひとり、周囲にまぎれて怒った顔を作りながらも明らかに緊張しているやつがいた。

わたしよりも近くにいる男連中が気になるようで、視線を右に左にとさまよわせている。



——こいつだ。



「わたしを糾弾する前に、そこの灰色Tシャツ着てるやつを取り調べたほうがいいんじゃないの?」


「は……、何言ってやがる」



急に話を振られてそいつは明らかに動揺した。



「自分の身が危ないからって俺たちに疑惑をふっかけてんじゃねえよ」



別の男が詰め寄ってくる。



「この人数からして、水口凍牙もわたしと一緒に来ることを見越した人員か。よくもまあここまで頭のゆるいやつらを集められたものだねえ」


「ああ!?」



いきり立つその他の連中は無視して、灰色Tシャツだけを見据える。


今さらだけど、凍牙とふたりで歩くルートは固定化すべきじゃなかった。

小野寺さんに見つかりやすくするためだったけど、そもそもこんなところで弊害が出るとは思わないでしょ。



「さっき絡んできた連中に身元不明が2人いたんだけど、どっちかあるいは両方、あんたらのお仲間だったりするのかな。これまた頭のゆるい連中をこの街に誘導するのは、さぞかし楽な仕事だったろうね」


「訳わかんねえこと抜かしてんじゃねえ!」


「うるさい。わたしはあんたと話してない」



男がひとり詰め寄ってくる。パンっと耳につく音とともに、頬に強い衝撃がきた。



「女だからって手え出されないとでも思ったのか」


「口で勝てないからって手しか出せない三下は黙ってろ」


「なっ」



絶句する男を置いて、次第に不安を隠しきれなくなっている灰色のTシャツを着たそいつを再び視線で射抜く。



「目的は、皇龍とモノトーンの争いを誘発させる、といったところか。これはまたずいぶんなことに使おうとしてくれたね、わたしを」



春にSNSで拡散された情報は西の街にも広がっていると野田先輩は言っていた。


さっきの中学の同級生がわたしを捜していると、西の連中が知ったとしたら、そこから皇龍とモノトーン——ふたつのチームと関わりのあるわたしを争いの火種にしようと画策することは、十分に考えられる。


どうやら皇龍やモノトーンに反発している集団を警戒する必要が出てきたらしい。

悲しいことに、こいつらはわたしの事情なんて知ったこっちゃない。


面倒なことに巻き込まれたのは理解した。

しかしわたしを使ったところで、皇龍には馬鹿もいるけど上のほうはしっかりしているようだし、春樹もこんな浅はかな手を使うやつに惑わされるとは思えない。



「残念だけど、帰ってお仲間に伝えな。武藤春樹はこの程度で揺らぐような小者じゃないんだって」


「てめえ、やっぱりモノトーンの武藤と繋がってんじゃねえか!」



怒り心頭の男がわたしの胸倉を掴みかかる。

若干うつむき気味で唇を震わせる、灰色Tシャツがこいつらの目に入っていないのが不思議だ。


ああでも、さすがにこの邪魔者はうっとうしいな。



「わたしと武藤に関わりがあったとして、あんたとどういう関係があるの?」


「モノトーンの武藤と繋がっているてめえが、この街の高校に入学している時点で何もかもおかしいじゃねえか。自分は無実だと言いたいなら、この街に来た理由を言ってみろ!」



真剣に言ってくる男に笑いが込み上げた。


馬鹿馬鹿しいにも程がある。



「なに? ひとの込み入った事情に土足で踏み入って口出しする権利があんたにはあるの?」


「——っ、俺は皇龍だぞ!!」



これまた大胆な脅しだ。でもね、使う相手を間違ってるよ。



「だから? それはわたしが事情を話す理由になり得るの? というよりあんた、自分の思いどおりにするために、どれだけそのセリフ使ってきたの?」



皇龍は幹部には結構な人が揃っているけど、末端はたかが知れているようだな。

どうやらわたしは大きな組織のほころびを目の当たりにしてしまったらしい。



「てめえ!」



図星を指されたからかは定かじゃない。

だけど男が逆上したのは事実だ。


胸倉をつかんでいた手で、男はわたしを思いきり後ろへと突き飛ばした。


わたしの後ろは、さっき登った階段しかなくて。

足がつくはずの地面に見放され、体が宙に投げ出された。


とっさに上体をひねってなんとか手から石段に着く。手首に電気みたいな衝撃が走った。

打ちつけた肘から二の腕を今度は体と段差の角で挟みこんだ。


横向きになって階段を転げ落ちる最中、走馬灯のように記憶が蘇った。



中学の校舎。

わたしが見上げたそこで、うすら笑いを浮かべていた、あの男の顔。


思い出した。さっき会った小太りを、わたしは知っている。


でもやっぱり、たいしたやつじゃない。

思い出し損だ。


どうでもいいことだったと考える途中で、意識が暗転していく。


何をやってるんだ、わたしは。


こんなところで立ち止まっているわけにはいかないのに。






もう一度みんなに会おうって、決めたのに——。








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