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モノトーンの黒猫  作者: もりといぶき
【モノトーン編 上】
43/208

5.予測不可(下)





こうしてわたしと凍牙の表面上の交際は始まろうとしたのだが、ひとつ重要なことを忘れていた。



「はたから見てこのふたりは付き合っているとわかる行動って、手軽にいくならどんなものがあるんですか?」



小野寺さんを騙そうにも、これがはっきりしないと失敗に終わってしまいかねない。


真剣に聞いたはずなのに、テーブルに座る男3人からとんでもないものを見るような目をされてしまった。


……凍牙まで。


ちょっと傷ついたよ。



これまで男友達はそれなりにいた。

というよりも、わたしの友達のほとんどは男だった。

同性で友達と言える人なんて、生まれてこのかた片手の指の数ほどしかいない。


そんなわたしが中学校の下校時に男子とふたりで帰ったりするのはよくあることだった。

自転車に二人乗りをしているところを先生に見つかって、仲良く怒られたりもした。


だから——。



「水口君と結衣ちゃんが並んで街を歩くだけで、それなりのうわさは立つと思うよー」



わたしにそう言ったのは櫻庭先輩。


たったそれだけのことで周りの人たちがわたしたちの関係を「友達」ではなく「恋人」と判断するとは、少なからず驚きがあった。


そもそも付き合うというのは当事者同士の意識の問題だから、第三者に見た目で判断させるのは難しいのではないか……という持論が粉々に砕け散る。


それと同時にちょっと待て、と自分の行動を思い返す。


小中学校と合わせて、わたしと春樹がふたりだけで行動する機会はどれだけあった?


校内や街中と場所に関係なく、綾音と春樹が付き合う前から、わたしは春樹と結構な頻度で遊んでいた。


わたしたちが付き合ってるなんてうわさを耳にしたことはなかったけど、知らないだけでそんな目で見ていた人が少なからずいたとしたら——。


そんなところも、綾音を傷つける要因になっていた……?



「結衣ちゃんどうしたの?」


「自己嫌悪に陥っているだけです。貴重なアドバイスありがとうございます」



投げやりに答えて、さらに沈む。


ほんとうに。まったくもって、たったそれだけのことだ。

視点を少し変えれば、気っけていたはずのこと。


今の今まで考えようともしなかった、わたしは馬鹿だ。



「あとは距離感かなー。手を握ったり腕を組んでイチャイチャしたり」


「……今の季節は夏ですよ。こんな暑いのにそんな苦行をしろと?」


「そういう発想になっちゃうからちぃくんに甘さがないって言われちゃうんだよー。精進しようねー」



甘さはいらない。でも、櫻庭先輩に言い返す余力は残ってなかった。



ファミリーレストランを出たのは、昼時の混雑が落ち着きだした頃合いだった。

会計の際、道の向こうのカフェに彼女の姿を探したが、見つけることはできなかった。



「じゃ、結衣ちゃんは宿題で小野寺明梨がどういう人間なのかわかったら俺に報告ねー。水口君も、このおもしろい事態がどう収拾付いたのか、結果はちゃんと教えてねー。……ああ、他にも言うことがあるなら、いつでもアークにきていいからね」



そう言い残して櫻庭先輩と千里先輩はバイクに乗って去っていった。


別れ際の千里先輩の物言いたげな顔には思わず苦笑した。

なんとか抑え込もうとしているようだが、クールを装って表情に出やすい傾向が多々ある。そんな人だった。


日中で最も暑い時間帯に外へ出てしまったため、照りつける太陽に溶けてしまいそうだ。


昼食がまだなので空腹は感じているのだが、もう一度ファミリーレストランに入り直すのはためらわれたので、わたしと凍牙はここからそう遠くないファストフード店へ向かった。

かつてわたしが働いていたところとは別の店である。


暑さに喋る気力もなく、ファストフード店までわたしたちは無言で歩いた。

この状態も、周りには恋人同士に見えるのだろうか。


店に着いて、注文に行った凍牙と離れる。混み合うところかろうじて空いていた二人掛けのテーブル席に腰を下ろした。


ほどなくして凍牙がトレーを持って来た。



「凍牙はさ、わたしと春樹のことはたから見ててどう思ってたの?」


「まったく興味がなかった」



ばっさり切り捨てられた。そりゃそうだ。

くそう、一般的な見方が出来るやつはわたしの周りにいないのか。



「だが、お前と武藤のうわさなら興味のない俺でも耳にしたことがある。お前らは有名だったからな」


「有名だったのは春樹だよ」



小学校でも中学でも、目立つ行動をとるのはいつも春樹だった。

わたしはそれに手を貸していただけ。


春樹を裏から支えるのが楽しかった。

無理難題を押し付けられることに文句は言っても、やりがいは感じていた。


仲間の中で一番気が合ったのは、春樹だった。


この気持ちが恋かといえば、おそらく違うと思う。

だけど恋を知らない人の「違う」はあてにならないと言った綾音の言葉もうなずけるし……。



「落ち込んでないでまず食べろ。シェークが溶けてまずくなるぞ」



うなだれるわたしを置いて凍牙はさっさと食事を済ませてしまう。ひと口が大きいだけに食べ終えるのも早い。


もっともな意見なので反論はせず、ひとまず腹を満たすことにした。



食事が終わった後は春樹たちのことを一度頭から取っ払い、これからどうするのかを話しあった。


まず小野寺さんがどう出てくるかが謎なので、向こうがアクションを起こすまでは適当にふたりで街をぶらつくことにする。

時間はカプリスのバイトが終わった、夕方から夜にかけて。


たまにどこかで夕食もとる。


彼女が出てきたら臨機応変に対応する。その後は反省込みの作戦会議。

もしも小野寺さんがわたしたちの理解の範疇を超えて手がつけられなくなったら、すぐに櫻庭先輩に相談する。


とりあえずはこれを基本として、先の読めない作戦が始まった。






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