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モノトーンの黒猫  作者: もりといぶき
【皇龍編 上】
16/208

after4.そこでは





      ◇  ◇  ◇






春成木市の繁華街の片隅。

カウンター席しかない小さな喫茶店は、日が落ちたのと同時に営業が終わった。この店に決まった営業時間はなく、経営に関わるすべてが気まぐれな店主の気分次第となっている。


結衣の担任である吉澤がその喫茶店を訪ねたのは、閉店後しばらくしてからのことだった。


昔馴染みの店主と吉澤の遠慮のない会話は、酒が入ると次第に人前では言えないような愚痴に変わり、やがて彼らにとって共通の話題へ行き着いた。


吉澤の現在の最たる悩みといっていい、自信が担任をしているひとりの生徒についてである。


授業態度は真面目。

校則に従った制服の着こなし、化粧や頭髪といった点においても特別に注意する点は見当たらない。

教員に対しては人を選ばず低姿勢で敬語を使う。ゆえに各教科の担当者にも受けはよい。


主張は少なく影が薄い。

学校側からしてみればさほど気にかける必要もない、普通の生徒——、それが高瀬結衣の教員たちからの評価でなのだ。



そう、高瀬結衣。


彼らが話しているのは、彼女のことである。



「ずいぶんとまあ分厚い猫の皮をかぶったもんだなあ」



高瀬結衣の担任教師、吉澤を前にして喫茶店の店主はつまらなそうに肩をすくめた。



「楽しくねえだろそんなやつ」


「楽しくなくて結構だ。できればこのまま大人しく過ごしてもらいたいものだが……」


「ま、周りがあいつを刺激しない限りはなんとかなるんじゃねえの」



他人事のように気軽に言ってのける男に軽く殺意にも似た感情を抱きながら、吉澤は大ジョッキのビールをあおる。


荒々しくカウンターテーブルに置かれたジョッキが鈍い音を立てた。



「その様子だと、火種は既にくすぶってる、か」



吉澤の苦労を、店主の男は嬉しそうに笑う。



「俺は一回、起爆させて全部まったいらにしてしまうってのもありだと思うぞ。皇龍含めて、この街もろとも。あいつにはそれだけの破壊力は十分に備わっていることだし」


「しゃれになんねえこと言ってんじゃねえ」


「残念。俺はいつでも大真面目なんだなーこれが」



吉澤の前に酒のつまみを出して、男は空のジョッキに自らのビールを注いだ。



「始めてしまったものは、責任もって終わらせるのが筋だ。いつまでもそのままにしておくわけにはいかないって、本当は分かってんだろ」


「それとこれとは話が別だ。それこそ何も関係のない高瀬を巻き込むわけにはいかねえだろ」


「ははは、相変わらず真面目だねえヨッシーは」



普段生徒たちに見せることはあり得ない、吉澤の苦悩と憤りがせめぎ合う表情に男は苦笑する。


高瀬結衣が無関係な傍観者でいられるかどうかは、結局のところ皇龍が彼女に対してどう動くかにかかっている。


残念なことに街を守ろうとする皇龍が、あいつの存在を無視できるはずがないんだよなー。

当代の皇龍が有能ならば、なおさらに。


押し付け気ごめんな、ヨッシー。まあがんばれ。


いち教師として受け持つ生徒を心配する吉澤へ、店主は心の中で一応の謝罪はしておく。




材料は揃った。


じきに街を巻き込む大きな嵐が起こるだろう。







      ◇  ◇  ◇






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