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モノトーンの黒猫  作者: もりといぶき
【皇龍編 上】
13/208

after1.そして




      ◇  ◇  ◇







くせ毛の金髪。

いつもは眠たそうな目をしているくせに、マヤといるときだけ気分が高揚する。その姿はまさに飼い主に尻尾を振る大型犬だ。


三國翔吾を紹介する言葉など、これだけで十分にこと足りると、野田は常々思っていた。



結衣が原田繭と愉快でもなんでもないおしゃべりをして、マヤを諭したその日。

野田が結衣と凍牙に精神を消耗させられて、へとへとになりながら皇龍の溜まり場に帰ってきたときにはもう、2人の仲は戻っていた。


少し早すぎはしないか。

そんなんだったら最初から別れるな。


心の中では言ったものの、実際口に出さなかった野田へのいたわりはどこへやら。


ご迷惑をおかけしてすみませんでしたと言って頭を下げるマヤに、「マヤが謝るのは俺だけでいい」などと三國が言ったときにはさすがの野田も手が出かかった。


皇龍の総長——日暮俊也の他、3年の幹部が揃っていなかったら絶対に殴っていただろう。

なにはともあれ、三國とマヤはその日のうちに仲直りをして恋人関係に戻った。





そして次の日。

野田は三國とマヤと共に登校した。


正確には恋人つなぎで手をつないで歩く三國とマヤの後ろを、野田が距離を置いてついて行った。


一連の出来事で三國は完全に開き直ったようだった。

マヤはどうしようもないくらい三國に甘い。

三國が強く出たら断れないのをいいことに、三國は周囲にさんざんマヤとの仲のよさを見せつけている。


これは津月マヤに手を出せば三國が自らが動くと周囲に牽制し、ふたりが別れたという噂を消し去るためのアピールだ。


効果は抜群なのだろうが、マヤは恥ずかしくて顔も上げられない状態だった。


登校中の生徒の目にさらされながらも、彼らは学校に到着した。

昇降口で靴を履き替えたところ以外は、廊下も階段もふたりの恋人繋ぎは続いた。



朝の予鈴5分前。

廊下を通るかなりの生徒が三國とマヤを見て足を止めて固まった。


いつもは2階の階段でマヤと別れるところを、三國は1年の教室がある3階まで付いて行く。


1年の教室前廊下は突然の皇龍幹部の出現に騒然となった。

よほど三國がレアなのか、1年生は2、3年の生徒よりも落ち着きがない。


三國の扱いはまさに珍獣だ。

堂々と三國が歩く廊下の先がモーセの十戒のごとく端までふたつに割れた。


野田はこの扱いに心底呆れ返った。

奥にいる生徒には悪いが、俺らはすぐそこの1年4組で曲がるからな。



「あの、翔吾……」


「うん?」


「もうわたし、ここだから……」


「うん。着いたから入ろっか」



おいおい、お前も行ってどうする。

内心つっこみを入れたものの、野田は三國を止めなかった。このパフォーマンスによって得られる成果を、野田自身も期待しているからだ。


前方のドアから堂々と、三國はマヤの手を引いて教室に入る。

すると時が止まったように、教室の生徒は皆一斉に動かなくなった。


誰もが三國とマヤに注目している。


野田は前方のドアにもたれて成り行きを見守ることにした。


やがて三國とマヤを意識しながらも、教室の生徒たちはぎこちなくそれぞれに動き出す。


皇龍に所属している1年生が挨拶に来ようとしたが、それは片手をあげて押しとどめた。

意図を察した彼らは軽く頭を下げて戻っていく。空気が読める奴らは嫌いじゃない。



「ちょっとマユユ、どういうことよっ」


「別れさせたって言ってたじゃん」



小声だったが野田の耳にも確かに聞こえた。

近くに集まっている女子の声だった。



——こいつらか。



野田は顔を三國たちに向けたまま、目だけを動かし集団を確認する。


その間も、机にカバンを置いても手を離そうとしない三國に、マヤは戸惑っていた。


挙動不審なマヤに、三國がふっと微笑む。


そこから、予兆はなかった。

三國はいきなりマヤの手を引いて、小さな体を抱きしめた。


再び教室の時が止まる。


そんな空気をあえて無視して、三國はマヤの額に唇を寄せた。


クラス中が口をぽかんと開いて唖然としている。


有名になっていてよかったな、翔吾よ。

普通の生徒がやったらドン引きされて終わってたぞ。


友人のアピールを白けた目で傍観していた野田が、そういえばと、誰もが息を止める教室内を見渡した。


あの強敵、ペースクラッシャーがまだ登校していないことに、野田は密かに胸を撫で下ろす。



「——俺の、だから」



三國の低い声が、教室に響く。

視線は、俺の近くの女子集団に向けられていた。


さっきの声は三國の耳にも届いていたらしい。


上目遣いの女子連中が肩をビクつかせてオロオロとうろたえた。


三國がマヤから身体を離す。マヤは顔を真っ赤にして、魚のように口をぱくぱくさせていた。


野田もこれには同情を禁じ得ない。

もういっそ「そういうことをする翔吾は嫌い」ぐらい言ってやれ。

じゃないと調子に乗ってくるぞ。


予鈴の放送が教室に響いた。



「また、昼休み」



マヤの頬を優しく撫でながら囁いて、三國は何事もなかったかのように教室を去っていく。

机に突っ伏したマヤは、顔も上げられないようだ。

耳まで赤いのが、野田のいるところからでもわかる。


ここで放置って、お前は鬼か。


友人の強行に呆れるも、マヤには悪いがパフォーマンスとしては申し分ないものだった。

これでもまだマヤを攻撃する者が出てきたら、遠慮なく皇龍で叩くことになるだろう。


野田も三國に続いて自分の教室に移動する。


1年の教室を離れると、野田から無意識に深いため息が出た。


いつ来て場を乱してくれるかとびくびくしていたが、ペースクラッシャーこと結衣は最後まで現れず、ひとまずこの場は乗り切れたようだ。







      ◇  ◇  ◇








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