after1.そして
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くせ毛の金髪。
いつもは眠たそうな目をしているくせに、マヤといるときだけ気分が高揚する。その姿はまさに飼い主に尻尾を振る大型犬だ。
三國翔吾を紹介する言葉など、これだけで十分にこと足りると、野田は常々思っていた。
結衣が原田繭と愉快でもなんでもないおしゃべりをして、マヤを諭したその日。
野田が結衣と凍牙に精神を消耗させられて、へとへとになりながら皇龍の溜まり場に帰ってきたときにはもう、2人の仲は戻っていた。
少し早すぎはしないか。
そんなんだったら最初から別れるな。
心の中では言ったものの、実際口に出さなかった野田へのいたわりはどこへやら。
ご迷惑をおかけしてすみませんでしたと言って頭を下げるマヤに、「マヤが謝るのは俺だけでいい」などと三國が言ったときにはさすがの野田も手が出かかった。
皇龍の総長——日暮俊也の他、3年の幹部が揃っていなかったら絶対に殴っていただろう。
なにはともあれ、三國とマヤはその日のうちに仲直りをして恋人関係に戻った。
そして次の日。
野田は三國とマヤと共に登校した。
正確には恋人つなぎで手をつないで歩く三國とマヤの後ろを、野田が距離を置いてついて行った。
一連の出来事で三國は完全に開き直ったようだった。
マヤはどうしようもないくらい三國に甘い。
三國が強く出たら断れないのをいいことに、三國は周囲にさんざんマヤとの仲のよさを見せつけている。
これは津月マヤに手を出せば三國が自らが動くと周囲に牽制し、ふたりが別れたという噂を消し去るためのアピールだ。
効果は抜群なのだろうが、マヤは恥ずかしくて顔も上げられない状態だった。
登校中の生徒の目にさらされながらも、彼らは学校に到着した。
昇降口で靴を履き替えたところ以外は、廊下も階段もふたりの恋人繋ぎは続いた。
朝の予鈴5分前。
廊下を通るかなりの生徒が三國とマヤを見て足を止めて固まった。
いつもは2階の階段でマヤと別れるところを、三國は1年の教室がある3階まで付いて行く。
1年の教室前廊下は突然の皇龍幹部の出現に騒然となった。
よほど三國がレアなのか、1年生は2、3年の生徒よりも落ち着きがない。
三國の扱いはまさに珍獣だ。
堂々と三國が歩く廊下の先がモーセの十戒のごとく端までふたつに割れた。
野田はこの扱いに心底呆れ返った。
奥にいる生徒には悪いが、俺らはすぐそこの1年4組で曲がるからな。
「あの、翔吾……」
「うん?」
「もうわたし、ここだから……」
「うん。着いたから入ろっか」
おいおい、お前も行ってどうする。
内心つっこみを入れたものの、野田は三國を止めなかった。このパフォーマンスによって得られる成果を、野田自身も期待しているからだ。
前方のドアから堂々と、三國はマヤの手を引いて教室に入る。
すると時が止まったように、教室の生徒は皆一斉に動かなくなった。
誰もが三國とマヤに注目している。
野田は前方のドアにもたれて成り行きを見守ることにした。
やがて三國とマヤを意識しながらも、教室の生徒たちはぎこちなくそれぞれに動き出す。
皇龍に所属している1年生が挨拶に来ようとしたが、それは片手をあげて押しとどめた。
意図を察した彼らは軽く頭を下げて戻っていく。空気が読める奴らは嫌いじゃない。
「ちょっとマユユ、どういうことよっ」
「別れさせたって言ってたじゃん」
小声だったが野田の耳にも確かに聞こえた。
近くに集まっている女子の声だった。
——こいつらか。
野田は顔を三國たちに向けたまま、目だけを動かし集団を確認する。
その間も、机にカバンを置いても手を離そうとしない三國に、マヤは戸惑っていた。
挙動不審なマヤに、三國がふっと微笑む。
そこから、予兆はなかった。
三國はいきなりマヤの手を引いて、小さな体を抱きしめた。
再び教室の時が止まる。
そんな空気をあえて無視して、三國はマヤの額に唇を寄せた。
クラス中が口をぽかんと開いて唖然としている。
有名になっていてよかったな、翔吾よ。
普通の生徒がやったらドン引きされて終わってたぞ。
友人のアピールを白けた目で傍観していた野田が、そういえばと、誰もが息を止める教室内を見渡した。
あの強敵、ペースクラッシャーがまだ登校していないことに、野田は密かに胸を撫で下ろす。
「——俺の、だから」
三國の低い声が、教室に響く。
視線は、俺の近くの女子集団に向けられていた。
さっきの声は三國の耳にも届いていたらしい。
上目遣いの女子連中が肩をビクつかせてオロオロとうろたえた。
三國がマヤから身体を離す。マヤは顔を真っ赤にして、魚のように口をぱくぱくさせていた。
野田もこれには同情を禁じ得ない。
もういっそ「そういうことをする翔吾は嫌い」ぐらい言ってやれ。
じゃないと調子に乗ってくるぞ。
予鈴の放送が教室に響いた。
「また、昼休み」
マヤの頬を優しく撫でながら囁いて、三國は何事もなかったかのように教室を去っていく。
机に突っ伏したマヤは、顔も上げられないようだ。
耳まで赤いのが、野田のいるところからでもわかる。
ここで放置って、お前は鬼か。
友人の強行に呆れるも、マヤには悪いがパフォーマンスとしては申し分ないものだった。
これでもまだマヤを攻撃する者が出てきたら、遠慮なく皇龍で叩くことになるだろう。
野田も三國に続いて自分の教室に移動する。
1年の教室を離れると、野田から無意識に深いため息が出た。
いつ来て場を乱してくれるかとびくびくしていたが、ペースクラッシャーこと結衣は最後まで現れず、ひとまずこの場は乗り切れたようだ。
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