0.Prologue
どうにもならない事態は、わりと頻繁に起こりうる。
天才イコール、全知全能。そんな方程式は成り立たない。
どんなに頭脳明晰で、容姿に優れて、由緒ある家柄の人間であったとしても……ときとして望んでいない結末はやってくる。
ましてや学業の成績は人並みで、容姿は普通。突出した出自もない一般家庭の人間。
——つまりわたしにとって、「こんなはずじゃなかった」という結果はもはや日常茶飯事だ。
だからこの失敗も見方を変えれば、いつもの、ただわたしに降りかかっただけの、予期せぬ結果のひとつだった。
中学生の時にやんちゃした。
いや、別に煙草を吸ったわけでも、学校の窓ガラスを割って暴れ回っていたわけでもないのだけれど。
授業は多少さぼったりもしたが、それも内申に若干響く程度の回数だ。
それでもわたしは中学時代、問題児だった。
正確に、さらに詳しく言えば、問題児として主に教職員から目を付けられていたのはわたしと、そして当時仲が良かった友人たちである。
中学校で何をやらかしたかは、思い出したくない黒歴史なので今のところは割愛しよう。
ここで問題にしなきゃいけないことは、高校受験の願書を提出する締め切り日に、わたしと仲間が大喧嘩をしたという——その一点のみである。
忘れもしない、12月20日のことだった。
喧嘩については誰が悪いわけでもない。
長年にわたって少しずつ溜まっていったマイナスの感情が、タイミング悪くその日に爆発しただけのことだ。
その喧嘩の結果、わたしは当初みんなと行くはずだった志望校を変えた。
先生に口止めしたうえで、住んでいる街とは違う地域の高校を受験したのだ。
こんなはずじゃなかったとはいつも思う。
それでも望まぬ結末の先で自ら選択した未来に後悔はない。
みんなと離れることを寂しいと思う気持ちは胸の内にある。
だけどそれと同時にこれでよかったのだと、心のどこかでほっとしている自分がいた。
中学卒業後。
あの喧嘩以降、気まずくなった仲間とは離れた。
長年居づらさを感じていた家も出た。
そうしてこれからわたしは、わたしを知る人が誰もいないこの街でいちからのスタートを切る。