夏輝くんの長くて憂鬱な1日
学校にスマホを忘れた。
俺、何やってんだ…
いつもなら、学校を出る前に気がつくはずなのに…
いつもなら、電車に乗る前に気がつくはずなのに…
いつもなら、最寄り駅の前で気がつくはずなのに…
今日に限って、家に着いてから気がついたなんて…
俺、何やってんだ…
いつもなら、明日でいいじゃん!って言えるのに…
今日は金曜日なんだよ!
しかも、日曜日が祝日だから月曜日が振休なんだよ!
貴重な3連休なんだよぉ!
なので、1時間かけて学校に戻りました。
17時過ぎてるし…
俺、何やってんだ…
「結構、暗いな…」
電気って思ったけど、夕方の学校なんて…部活やる奴しか居ないんだしさ…忘れ物取りに来たくらいで、煌々と電気なんか点けたら、何言われるか分かんねえし…
つまり…怖いんだよ。
俺、何やってんだ…
いつも上がっている階段って、こんなに暗かったっけ?非常灯が不気味に見えるのは俺だけ?
「1-B …は、トイレが近い…と。」
見慣れた場所なのに、人が居ないだけで景色が全然違って見えるのな。教室の場所でさえ、どこだっけ?ってなるのな。早いとこ済ませて帰ろ…
「へえ〜?そうなんだぁ〜。」
こえ?…声が聞こえる…怖ぇ。
「ぷっ…」
こんな時にダジャレを思い浮かんで、笑っている俺って…サムいな、サムすぎな。
いや…マジで寒いかも。教室から冷気が漂ってるかも?
「廊下に居るのだ〜れだ?」
何かこの声、聞いたことあるぞ!
誰だっけ?誰だっけ?誰だっけ?……
─ガラッ
「君は、西舘夏輝くんだね?」
「ひぃっ!」
怖っ!顔…怖っ!こわっ!
「はひっ…に、西舘…です。」
コイツ名前、何だっけ?
ちゃんと話したことないから、気にも留めなかったけど、こうやって目の当たりにすると…デカくて、怖えなコイツ…俺もデカい方だけど、威圧で負けるわ。人が居て良かったけども、違った意味で怖えわ…
「驚かせてごめんね。どうしたの?忘れ物かい?」
「うん。…スマホを忘れた。」
意外だ…怖い顔の割には、声がソフトだ。
案外、いい奴かも?
「春風くん。西舘くんだったよ。スマホを忘れたみたい。中に入れても良いかな?」
「あ〜?なっちゃんかぁ〜、おっけ〜。」
なっちゃん。俺が一番言われたくない呼ばれ方をゆるっと、言いやがった。
ってか誰だっけ?名前が出てこな…
「誰?」
「酷いな〜まだ覚えてくれてないの?南條 春風だよ。春ちゃんでもいいよ!…あと、こっちは冬馬くん。」
「僕、北詰です。君の右斜め後ろの席なんだけどね…あ、冬ちゃんはやめてね?」
「あ…ああ、いや!そうじゃなくて…あれ?もう1人…居るよね?」
春風…だっけ?このゆるキャラの前席に、ボヤっと人が居るように見えるんだけど…気のせいか?
「あら、なっちゃんは『見える人』?」
「え?『見える人』って……このボヤっと見えてんの何?!」
どういうことだ?…どういうことだ?…どういうことだ?……
「トイレの太郎くん。」
「トイレに居るのは、花子だろっ!」
突っこんでみたのはいいが、この会話…怖くね?
ってか、やっぱりボヤっと居るんじゃんか…
「男子校だからね。流石にトイレに花子さんが居たら、セクハラになっちゃうし…太郎くんで良かったよ。」
「そうそう〜。冬馬くんの言う通りだよ。」
あれ?何か論点ズレてるよな?
そもそも、何がどうなんだっけ?
ボヤっと見えるような人?が、居るように見えた。
ボヤっと見えた人は、トイレの太郎だった。
ボヤっと見えた人は、男子校だから太郎なのか?
ボヤっと見えた人は……………
「それって、本当に太郎って名前なの?」
行き着いた先も論点ズレてないか?
『太郎と申します。昭和8年生まれの酉年です。』
「生きてたら90歳超えじゃんっ!結構おじいちゃんなんだねっ」
「卒寿を過ぎているなんて、凄いですよ!」
計算…早すぎだろっ!ソツジュって何?めでたいの?あっ、太郎で合ってんだ…
『生きてないですから…嬉しくないですが、お気遣いありがとうございます。』
へぇ…言葉がちゃんとした人だな…
俺とは大違いだな…
苦労してんのかな…
大家族なのかな…
やばい…泣きそう…
「太郎って、ボヤっとしてるけど…ちゃんとしてんのな。長生きしてるだけのことはあるな!」
『いえ、生きてないですけど…ありがとうございます。』
「ねぇねぇ〜なっちゃんは、ボヤっと見えて『聴こえる人』なのかな?」
「え?」
あれ?俺…普通にしゃべってね?
太郎は、生きてないから死んでるわけで…
死んでるということは、幽霊なわけで…
幽霊が言ってることを理解できてるわけで…
「あわわわわわわわゎゎゎゎ……」
「ん?夏輝くん…どうしました?」
「俺…幽霊としゃべってる?」
「え〜!?なっちゃん…今そこなの?」
『お取り込み中…すみませんが、私はどうしたらいいでしょうか?』
「あ〜そうだったぁ。どうしたらいいか、なっちゃんにも聞いてみよう。」
「え?」
どうやら、太郎には悩み事があるらしい。
『浮遊霊の友人から聞いた話なんですが、私の初恋の人がもう時期、こちら側の世界に来るかもしれないと…』
初恋か…俺の初恋は、幼稚園の先生だったな… 何故か友達のお父さんといい感じになってて、いつの間にか、友達のお母さんになってたってね。はは。苦い思い出になっちゃったな…
『できることなら、一緒に上がりたいと思っているのですが、私の体がこの土地に長く留まり過ぎた為に、出られなくなってしまいました。』
トイレに長く留まってたってこと?
一体、どんな死に方したんだよ………
「くんくんくん…」
『私…臭いますか?ごめんなさい。』
「いや…トイレで死んだって聞いたから。ってかさ、何でそんな所で死んでたん?」
もしかして、いじめられてたのか? ボヤっとしか見えないけど、言葉使いから真面目そうだもんな…小柄で真面目で気弱そうだと、色々とからかわれたりして、トイレでいじめられて、それで……
『いえいえ、以前はこの土地に病院があったんです。当時私は肺病で入院してまして、その場所が現在では、たまたまトイレの場所になったのです。』
「なんだ…トイレの太郎って、春風が言うからさ〜。」
「僕、太郎くんがトイレで死んだなんて、一言も言ってないけど?」
「あの…僕は聴こえないので教えて下さい。今、どの辺の話まで伝わってますか?何故か太郎くんが、加齢臭がするとかしないとか?みたいな話になってますが…」
「え?冬馬って、聴こえないの?…カレイ臭?トイレの臭いがするとかしないとかの話から?……しないよ。」
「そうですか…それは良かった。」
『ははは…はは。』
「…で、話を戻すけど、初恋の人をどうするかってところでしょ?どんな人か覚えてる?あ…春風は冬馬に同時通訳してあげて。」
「は〜い。」
『初恋の人は、幼なじみの悦子さんという女性です。私が肺病で入院してからは、毎日のようにお見舞いに来てくれてました。とても可愛らしく優しい人です。病気が治ったら、結婚の約束もしていました。』
昭和の古き良き時代の映画っぽくていいなあ……あっ死んじゃってるから、いいとか言っちゃいけないんだろうけどさ…でも、純愛って言うの?憧れちゃうな…
「昭和初期の映画にありがちなシチュエーションですね。でも、胸を打たれました。」
「冬馬!俺が感動してるとこ、サクッと言うなよ!」
『ははは…はは。』
「でね、僕たちもここまでが知っている事なんだけど、ここからが問題なんだよ。どうやって、この学校から出られない太郎くんを初恋の人に会わせるか。」
「悦子を探して、連れて来るしかないだろ?」
「夏輝くん。探すとは、具体的にどうやって?それと、ご高齢の女性をここまで連れてくるだけでも大変な上に、病気で入院されていた場合は、更に困難が伴います。まず無理でしょう。」
「んじゃっ、無理じゃね?」
「ん…だからぁ〜そこを一緒に考えて欲しいんだよね。冬馬くんも決めつけないでよね?」
「確かに…ごめんなさい。」
それから俺たちは、それぞれの考えを出し合って共有した。
①悦子を探す。(苗字不明)
②太郎のことを伝える。(苗字不明)
③動けそうなら、背負ってでも連れてくる。
④動けない場合は、手紙を書いてもらう。
⑤その場の雰囲気でどうするか決める。
だがしかし、最初の悦子を探す段階で既に詰んでいる。
「太郎くん、何か思い出すことないかな?せめて、自分の苗字くらい思い出せないかな?」
『それが、色々と頭の中を捻ってみても…出てこないのです。』
「そういえば…浮遊霊の友人は、どうやって悦子のことを知ったんだ?で、今どの辺を浮遊してるか分かるか?」
『私が悦子さんの話をした時に、その特徴から心当たりがあったようでしたが、その後友人は、時期を迎えて上がってしまいました。』
「そ〜なると、本当にえっちゃんの死期が近いかどうかも断定ではないんだね?まあ…逢いたいことに変わりはないんだろうけど。」
『はい。その通りです。しかし…悦子さんとは同い年ですから、死期が近いことは確かかと…』
「タメってことは、90歳超えてんだろ?既に死んでるってことはないのか?」
『それはないです。親戚やそれに近しい人が亡くなったら、上から連絡が入る仕組みになっていますので。』
「へえ〜、便利だね。」
「マジか、すげえな!」
「うーん、困りましたね…全く前進しませんね。」
もうさぁ…答え出てんじゃん?どうするもこうするも、俺たちでどうするかなんて、どうすることもできないんじゃん?全国の悦子ってばあちゃんをネットで探したって、見つかる可能性はどう考えたって低いしさ…
やべ…もう18時過ぎてるし。
腹減ってきたし…
俺、腹が減るとイライラするし…
家まで1時間かかるし…
「ごめんっ!途中で悪いけど俺、スマホを取りに来ただけだから。もう帰るね!」
「え?あ……うん。なっちゃんごめんね〜またね。」
「夏輝くん、ありがとう。…気をつけてね。」
そうそう…俺はスマホを取りに戻って来ただけだから、元々関係ないし…
「お前たちもいい加減、早く帰れよ?もう18時過ぎてるぞ!」
スマホ…スマホ…は、机の中にあるはず…
『皆さん、ありがとうございます。夏輝さんの言うとおり。もう、お帰りになって下さい。』
あっ…あった、あった。
『こうして、一緒に考えてくれる人が居ただけでも幸せに思います。無念を残して留まり続けるよりは、ずっといいです。』
無念?……無念?……………無念?
「太郎さ…やっぱり無念なんだろ?そう思ってなかったら、無念なんて言葉は出てこないんだよっ!いい子ちゃんぶるのも大概にしろよ!」
腹減ってるのもあった…
無念て言葉にやたら引っかかって…イライラして。
そう思った瞬間、俺は…太郎の体を掴んでいた…
あれ?
「太郎?」
何?この感触……誰?この熊みたいな奴……
『はい。太郎です。』
「えええええええぇぇぇぇぇぇ………」
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……………!
「なっちゃんって…触れるんだね!」
「触れた瞬間に、見えるようになったような感じですね?」
「嘘だね!こんな熊みたいな奴が、太郎なわけないだろ?太郎は、小柄で真面目で気弱そうな奴なんだから!」
『ええ?!』
「夏輝くん。君が、勝手にそう思い込んでいただけでしょう?」
「あ?……」
声の感じから、絶対に弱そうな奴だって…思ってしまっていたのは、確かだ。
「太郎…ごめんなさい。」
『いえ…本心を突かれてドキッとしました。本音を言うと、このままでは無念でならない。悦子さんに逢いたいです。』
「できるかも…」
「え?春風、何かいいアイデアあんのか?」
「もしかしたらだけど…太郎くんっ、この場所を出られるかもしれないよん。」
「春風くん、僕も同意見だよ。夏輝くんがキーパーソンだね?」
「俺?な…何で?さっきまで全然、無理っぽかったのに?」
「なっちゃんは、太郎くんに触ることができる。ということは、そのまま連れ出せるはず!」
「え…マジ?」
みんなの目が、やたらキラキラして見えるのは、俺だけか?
「でも、肝心の悦子は何処にいるのか…その問題はどうするよ?」
「あ〜そうだった。連れ出せても、居場所が分からないんじゃ…どうにもこうにも…」
『あの…夏輝さんに触られて、一つ思い出したことがあります。大人になった悦子さんを一度だけ、この学校で見たことがありました。もしかしたらですが、教師だったかもしれません。』
「それが本当なら、かなり現実的になりましたね。過去の教師名簿から、悦子さんを探してみましょう!」
え?おいおいおい…みんなして教室から出ようとしてるけど?もしかして、今から職員室で名簿を借りて、探そうって訳じゃないよね?
「なっちゃん…ごめん!もう少し、付き合ってもらえる?」
ああ…そのまさかか…やな予感的中かよ…
でも、乗り出した船だしな…
「後で、何か食い物おごってくれたら…」
「おっけい!」
はあ………俺、何やってんだ…
スマホを取りに来ただけなのに…
てか…何でスマホを忘れたんだよ?
忘れるか?普通…忘れる物じゃないだろ?
俺、何やってんだ…
いつもなら、この時間は風呂入ってんのに…
観たいテレビの録画予約…しとけばよかったな…
腹減ってきたな…今晩、ハンバーグって言ってたな…母ちゃん。
俺、何やってんだ………はあ。
………………………………………………
「ダメって言われた…」
「個人情報ですからね…ダメ元で聞いてみましたが、やはりダメでした。」
「そりゃそうだろ!」
ツッコミどころ満載かよ!
「じゃあ…休み明けにまた、考えようぜ!」
俺は…帰りたいんだよ。
「そうだね…残念だけど。」
「仕方ないですね。」
よしよしよし!
『皆さん、私のわがままの為に、色々とありがとうございました。友人の話が本当であれば、今日か明日が…彼女の最期のようですが…大丈夫です。』
「え?」
大丈夫じゃないだろ?…それ。
ほらほらほら…みんな沈黙しちゃうじゃんか。
どうしたもんかと、考えちゃうじゃんかあ!
どうすんだよ…どうすんだよ…どうすんだよ?
「とりあえず、教室に戻って仕切り直しましょう。」
『そんなつもりじゃなかったんですが……すみません。』
そうなるよな………はあ。
「んあ?」
……何だあれ?
「お前たち、ちょっと待て!後ろっ!!」
「なっちゃん、どうしたの?」
「奥の部屋のドアが…明るく見えるんだけど、ドアに窓付いてないのに…変じゃね?」
「僕には、そのように見えませんが…春風くんは?」
「僕も見えてないけど、確かめてみよ〜よ。」
俺だけ?
すげ〜明るく見えるのに?
何の部屋だよ…こっちの方は来ないから、わかんね…
「校長室…」
全員…きれいにハモリましたわ。
「鍵が開いてますね…入ってみましょ!」
「冬馬、お前…大胆だな…」
「鍵が開いているってことは〜意味があるってことだよ〜なっちゃん。だから、大丈夫!」
「マジか…」
何か…この流れで行くと、悦子は校長先生だったんかな?って思っちゃうのは…俺だけかな?
『悦子さん…』
あ…そのまさか?
ご丁寧に、壁の上部に歴代の校長の写真があるようですが…
「写真の下に、名前があるね。」
「先代の校長先生でしたか…小松崎 悦子さん。」
「あれ?俺…小松崎って、聞いたことある。」
「この学校の専属校医と同じ苗字ですからね。」
「つまり…何だ?」
「なっちゃん、つまり〜。」
つまり…要約すると、春風が言うにはこうらしい。
この学校に隣接している病院の名前が小松崎といって、学校が建てられてからの専属校医として、お世話になっているんだそうだ。
元々、学校の前は病院だった経緯からと、先代の校長の苗字が小松崎というところから、何らかの繋がりがあるんだろうという考察だが、何の繋がりかはまだ不明。
だが、ここから思い着くことがある。
「つまり、悦子は隣の病院に入院している可能性があるってこと?」
「そう〜そう〜。」
「その可能性が高いですね。行ってみましょう!」
マジか…
「なっちゃん、どんよりしないでぇ〜。何でもご馳走するからね!」
「う…あぁ……そうしてくれ…って、何か重い。」
『あっ、憑いてます。準備万端です!』
「ノリノリかよ!ってか、あんま調子に乗んなよ!」
『は〜い!』
まったく…幽霊がウキウキするって、聞いたことないし…
ってか、幽霊と普通に会話している俺って何?触れるって、どういうこと?
触ったら見えちゃう…って、スキル?
もしかして…俺って、いわゆるチートなの?
「夏輝くん、憑かれて嬉しそうですね?」
「うるせぇよ!」
「うふふ。なっちゃんって、いいキャラしてるよね〜。いつも、他の人と仲良くしてるから…話をする機会が少なかったけど、興味はあったんだ〜僕。」
「いやいやいや…お前らの方こそ、2人の世界を作りすぎでしょっ!男子校だし…変な意味でデキてるって思われてんぞ。」
「ええ?!そうなの?冬馬くん…僕たちデキてるってえ〜。」
「ありえないから、大丈夫ですよ!」
「む〜っ」
『やっほ〜い!出られましたっ!!』
「おおっ!………重いから、浮かれるな!」
何だろう…この感じ。
変な感じだけど…
超〜楽しいじゃんかあ!
…………………………………………………
「えっちゃん、入院してるけど…面会時間外だからダメって言われた…」
「身内ではないですし…悦子さんとは、直接の面識もないですからね。ダメ元で聞いてみましたが、やはりダメでした。」
「そりゃそうだろ!」
デジャブか!
ツッコミどころ満載、パート2かよ!
しかもいつの間にか、えっちゃんになってるし…
「で?どうすんだ?」
また、どこかの部屋が明るく見えたりして…
「んあ?」
何だあれ……?
「なっちゃん?…また何か見つけたの?」
「あのおっさん…光ってる。」
「夏輝くん、いくら何でも禿げてるからって…それは流石に失礼ですよ!」
「いやいやいや…本当に。さっきみたいに光ってんの!」
「僕、聞いてみるね。」
春風って、顔に似合わず行動力あるのな。
でもって、ゆるキャラのせいなのか、何なのかわかんないけど…
「面会おっけ〜だって!」
奇跡を起こすことがあんのな…
まあ…名簿の時とか、ダメな時もあったけど、こいつ…人の心を動かすような、何か持ってんのかな?
「なっちゃん、君のおかげだよ!すごいよ!」
「え?俺、何もやってないし!行動してんのお前らじゃん!」
「いや、夏輝くんが居なかったら、ここまで進みませんでしたよ。凄いです!」
「いやいやいや…褒めすぎ、褒めすぎ!」
「本当だよ。なっちゃんは、僕たちにもできない何か特別な力を持ってるんだよ!」
何だよ…何なんだよ〜
こんなに褒められたことねぇし…
いつもつるんでる奴らとは、バカなことして、バカ話して、バカ笑いして… 褒めるより、貶して笑う方が楽しかったりして…褒めると逆にドン引きされたりするから…こういうの恥ずかしいんだけど…
気持ちいいな…
「あ…ありがと。」
「ところで春風くん。どうやって了承をもらえたんだい?やけにスムーズでしたね?」
「ダディの名前を出したら、すんなりおっけ〜だったよん。」
「なるほど。」
「なるほどじゃねえよ!春風の父ちゃん何者だよ?ってか、あのおっさん誰?知り合い?」
「質問多いなぁ…まずあの人は、えっちゃんの息子さんで、僕たちの学校の3学年の国語の先生なんだって〜。」
「へぇーっ、んで?」
「僕のダディは、秘密。」
「なんだよ!それ!」
「べーっ」
「まあまあ…いいじゃないですか。とりあえず、本人に会えるんだから。」
……………………………………………
なんやかんやしているうちに、悦子の病室に着いたけど、やたらデカくて立派な個室に通されて、変な緊張感が半端ない。
「えーと、南條君。15分くらいしか、時間取れないけどいいかね?」
「は〜い。ありがとうございます!」
そんな中でも緊張感のない奴が、一人いるけどな。
「初めまして、僕は隣の男子校の生徒で、南條 春風といいます。今日は、あなたにどうしても会って話がしたい、という人を連れて来ました。」
お?ゆるキャラなくせに、ちゃんとした話し方ができる時は、できるんじゃん?
「太郎くんです!」
「えっ?」
『えっ?』
「俺っ?」
『私っ?』
どんな状態かって?
俺が太郎として、悦子の前に突き出されてる…
「太郎さん…?」
『悦子さん…』
どんな状態かって?
俺が太郎として、悦子の両手を握ってる…
太郎の声は、悦子にも聴こえているらしい。
『悦子さん…逢いたかった。』
「太郎さん…私…あなたがこの世から旅立った後、辛くて…辛くて…」
『悦子さん!私もです!…結婚の約束をしていながら逝ってしまったことが、無念でならなかった。』
どんな状態かって?
昔、ばあちゃん家で観た、どこか懐かしい映画みたいなドラマみたいな…それを間近で観ている感じだよ…
『悦子さん…私と一緒に上がりませんか?そして、生まれ変わったら今度こそ…共に生きていきませんか?』
「太郎さん…私…」
『ちょっと待った!悦子は僕の家内だぞ!』
どんな状態かって?
悦子の死んだ旦那の登場で、一気に修羅場だよ…
「あ…あなた、あなたなの?見えないけど、声が聴こえたわ!」
『悦子、これなら見えるかい?』
「おわあああぁぁぁーっ!!」
「あなた!」
どんな状態かって?
悦子の旦那と、太郎の体が、俺の体の上に左右に乗っかってる?感じ…体が思うように動けなくて、俺の見えない場所にいるから、想像で言ってるけど…くそ重い。
「お前ら…重いんだ…けど…早く…何とか…しろ。」
『悦子…迎えに来たよ。』
『待って下さい!悦子さん。私と約束したじゃないですか!一緒になろうねって…』
めんどくさいから、3人で仲良く成仏してくれよ!
「太郎さん…私のことを忘れないでいてくれて、ありがとうございます。その気持ちがとても嬉しいです。」
『悦子さん、私と一緒に上がってくれますね?』
そうだ!太郎はずっと、悦子のことを想っていたんだぞ!
「いいえ…ごめんなさい。太郎さん…本当に申し訳ないんですけど、主人と築いた時間は、とても他に変えられない尊い時間だったの。だから、主人と一緒に上がりたいです。」
『悦子…僕もだよ、ありがとう。』
まあ…確かに、家族の絆の方が大事だな…
『悦子さん。嘘をついたの?私のことを好きだって…結婚したいって、言ってくれたじゃないですか?あれは、嘘だったの?信じていたのに…』
「太郎さん、あの当時の私の気持ちは、嘘ではなかったのよ。誤解があったようで本当にごめんなさい。」
『そんな…随分と勝手じゃないか!あなたへの想いに焦がれて、一緒に上がれる日を待ち詫びて、私は…あの場所から動けないでいたのに…ずっと…』
『勝手なのは君の方だろ?僕は、悦子と結婚していたんだ!息子もいる。君は、元々僕たちの土俵にさえ、上がってもいない。諦めてくれ!』
『それなら…旦那だろうが、何だろうがどうでもいい…私のものにならないなら、私が無理にでも連れて逝くしかない…』
ん?随分と拗れてきたな…てか、太郎の様子がおかしくなってないか?
「ゔ………」
「え?」
左手に変な感触…まさか…まさか…まさか…
「うあっ!」
どんな状態かって?
太郎が俺の左手を使って、悦子の首を絞めていて、悦子の旦那が俺の右手で阻止してる…って、解説している場合じゃねえよ!
「やめろ…おまえ…ら…」
くそっ、 思うように声が出ない。
春風と冬馬は何してんだ!止めてくれ!
「てやっ!」
てやっ?
何が起きたのか…分かんないけど……首が痛え。
…けど、手の力が抜けた?
眠い……腹減った…
……………………………………………………………
………………………………………
「なっちゃん、おはよう〜。」
「お…はよ?」
全然、見覚えのない部屋…
「ここどこ?」
「なっちゃん、ごめんね。まだ病院なんだ。」
「病院?」
あれ?…俺、何で病院にいるんだっけ?
確か…………あっ
「どうなったんだっ!」
「だよね?そうなるよね?…ごめんね。」
「いやいや、答えになってないから!…太郎はどうなった?」
『ここに居ます。』
春風の隣から声が聞こえた…ああ、あのモヤッとした奴か。
「一発、殴らせろ!」
答えなんか聞くまでもない。
一発どころか、十発、百発殴ってやる!
そう意気込んで突っ込んでったのに…
「太郎…何だよお前…」
なんて顔して泣いてんだよ?
熊みたいなデカい図体で…情けねえ。
「俺まで泣きたくなるだろ…」
俺、何やってんだ?
そもそも、スマホを忘れただけなのに…
取りに戻っただけなのに…
幽霊と話ができちゃったり、見えちゃったり、触れちゃったり?
俺、何やってんだ…
ってか、今何時だよ?…夜なのか、朝なのか?
母ちゃんに怒られる。
あっ、俺のハンバーグ…弟に食われてんだろうな。
腹減ったなぁ…
「あ……あ。」
『ごめんなさい。』
今更、謝られても…と思ったが、取り敢えず一発殴ってやった。
「で?…悦子はどうなった?」
「あ…そうだよね?…そうなるよね?」
「春風、回りくどいのやめろ…ブチギレる前にちゃんと説明しろ!」
「言葉よりも、見た方が早いから…隣の部屋まで来てくれる?」
という訳で、隣の部屋の前まで来ているのだが…
もしも、悦子が死んでいたら…なんてことを考えちゃって、ドアを開けられないでいる。
死体を見るの初めてなんだよ…
手が震えるの当たり前だろ?
しかも、俺の手で首を絞めてただろ?
それが原因で死んじゃってたとしたら…
俺が殺したも同然だろ?
俺…高1にして、殺人者になって、年少に入って…お先真っ暗じゃん!
「なっちゃん入らないの?開けるねっ」
「あーっ」
あれ?……あれあれ?
「悦子…生きてんじゃん!」
「ご心配、おかけ致しました。」
「え?…何で生きてんの?」
しかも…顔色が良くなってるし、すこぶる元気そうに見えるんだけど?
「なっちゃん!言い方!」
「あ…ごめんなさい。」
「では夏輝くん、状況説明は僕がしますね。」
冬馬の説明によると、悦子は病気を患っていた訳ではないらしい。90歳を迎えた時、それまで以上に『死』を意識するようになったことから、これからの短い人生に対しての『虚しさ』を無性に感じたのだとか。自分は『老人』だから、何も出来ないから価値がない。認知症になって、迷惑をかける前に死んでしまいたい。そんな『負』の感情が大きくなって、寝込んでしまった。と、ここまでが経緯ということだ。
「で?何でこんなに急に、元気になったんだ?」
「亡くなった旦那と、初恋の人との再会がきっかけだろうと…あとは、僕からは言い難いな。」
「何だよ、それ!」
「あのね?つまり〜、刺激的だったんだって!」
「刺激?!…あ、もしかしてあの時のあの…首〜絞めちゃった〜時の、あれ?みたいな…」
太郎が俺の手を使って悦子の首を絞めて、一緒に連れて逝こうとした時の事だよな?俺が危うく犯罪者になったかもしれなかった、あの時だよな?
「お恥ずかしいんですけど、この歳になって殿方にチヤホヤされるなんて、夢にも思わないことが起きたものですから、こうしちゃいられないって、なりましたの。」
一瞬、悦子が俺たちくらいの女子に見えたわ。
にしても、あの修羅場はチヤホヤになるんだな…
「所謂、セロトニン効果ですね。」
「セロ?何それ?」
「幸福ホルモン〜、えっちゃんは刺激を受けてウキウキして、元気になったんだよね?」
「おほほ…お陰様で、残りの人生を楽しく過ごす方法を見つけましたから…主人には、お迎えをもう少し先延ばしにしてもらいましたし。」
「え〜、えっちゃんこれから何するの?気になる〜。」
「それは、まだ秘密です。」
「む〜。」
死んだ旦那と初恋の太郎にチヤホヤ(修羅場)されてウキウキして、憑かれた俺に首絞められて元気になって、生きようと思った?女って分かんねぇ…
あ…そういえば、韓国ドラマを観終わった後の母ちゃんが、今の悦子みたいな顔してたわ。
「まあ…元気になって、良かったな!」
なんだかんだ、悦子は旦那を選んだってことだ。太郎があんな顔して泣いていた理由が分かって納得。しかし、俺が気絶している間に全てが解決していたのは、なんか納得いかねぇ。気絶といえば…
「そういえば、誰が俺にチョップした?首んとこ。」
「あっそれ?冬馬くんだよ〜。僕は気合いの発声だけ。てやっ!てね。」
「なるほど…チョップで気絶させるって、それなりのレベルじゃないと無理だからな。春風じゃないとは思ってた。」
「コツが要りますからね。」
「冬馬お前…コツって問題じゃねえんだ、殺す気か!」
「殺す気で、一気にキメないと死にますからね。それが、コツです。」
「死んだら、僕が成仏させてあげるつもりだったから、安心してね。」
「アホか!一生恨むわ!」
…こんなに笑ったの久しぶりかも。
むちゃくちゃな事ばっかだったけど、楽しすぎる。
「さて、とりあえず一件落着したので帰りましょう。」
「一件落着?…って、今何時だ?!」
「もうすぐ21時かな?」
「マジか?!…やばい!母ちゃんに怒られる!」
「あっ、それなら大丈夫だよ!僕の家でご飯食べよっ、今日は冬馬くんと3人でお泊まり会にしたから!なっちゃん家には、連絡したから怒られないよ〜。」
「はっ、用意周到じゃねえか!」
いつもなら絶対に忘れないスマホを忘れたせいで、いつもなら絶対に関わらない奴らと関わった。これが『縁』というものなのか?分からんが…これからは、もっと広く周りを見てもいいのかな?と思った。
「春風ん家って、こっから近いの?電車乗る?」
「近い方だと思う。いつもは歩くんだけど〜、今日は遅いから車で迎えに来てもらった。」
「おっ、それはありがたい!」
何か…長い1日だったな… 楽しかったは楽しかったけど、 予想外の事が起きすぎて、すんげぇ疲れたし。首痛いし。 腹減ってるってのもあるけど、やたら体が重いし。重いし…重いし?
「太郎か?」
『はい。私も連れて行って下さいませんか?傷心なので…今は1人になりたくないんです。』
「何おセンチなこと言ってんだよ!誰のせいでこうなったと思ってんだ!熊みたいな図体しやがって!」
『ひ…ひどい。』
「まあまあ…どの道、太郎くんを病院に置いとく訳にはいかないんだから。それに、元はと言えば首を突っ込んだ僕たちの責任でもある訳だし。」
「それはそうだけどさ…でさ…太郎は結局どうなるんだ?またトイレの太郎に戻るのか?」
「太郎くんはね…やっちゃいけないことをやっちゃったからな〜。もしも、えっちゃんが太郎くんを選んでいたら、僕が責任を持って2人を成仏させるつもりだったんだけど…」
「無理矢理、命を奪おうとした事は重罪ですからね。」
『…弁明の余地もございません。』
「んで?太郎はどうなるのが妥当なんだ?」
「そうだね〜、結果的にえっちゃんが生きる気力を取り戻したから、許容範囲だけど〜。」
え?…何だよ?今、あの冬馬の肩がブルっと震えたぞ?
「今夜は、ママンのおしおきに耐えてもらうしかないかな〜あっ、あの車に乗ってね。」
ママンのおしおき?…って
「おい!リ…リムジン?!」
「しかも、ベンツの最新モデルですね。流石です。」
「そうなの?僕、興味無いから知らなかった。そんなことより、お腹空いたね!乗って、乗って!」
そんなことより?…春風って、どんだけ金持ちなんだ?まぁ…家に行けば分かるか………ん?
ブルブルブル…ブルブルブル…
「あっ、ちょっと待って電話!」
誰だ?こんな時間に…母ちゃんか?……いや。
「秋斗?」
「夏輝…どうしよう俺…ヤバいことになった。」
「どうしたんだよ?お前らしくない。」
「まさか…こんな……うわああぁ…来んな!」
「秋斗?大丈夫か?何処にいるんだ?!」
「R…廃校…ごめん。」
「R廃校?!…秋斗!!…おい!切るなよっ!」
切れた。くそっ、R廃校って…県内でも有名な心霊スポットだよな…
「あいつ…何やってんだよ…」
「なっちゃん?大丈夫?」
「ごめん。いつもバカやってる奴が、またバカやってるから…俺、行かなきゃ。飯は、また今度にしてくれな。じゃっ」
腹減ったな…金ないけど、途中でコンビニ寄っておにぎり買うか?
はあ…俺、何やってんだ…
スマホを忘れただけなのに…
1日って、こんなに長かったか?俺だけ長いのか?
俺だけ歳とるの遅かったりして…はは。
はあ…俺、何やってんだ…
「なっちゃん!乗って、R廃校は危険だから一緒に行くよ。車の方が早いし〜。」
「は〜る〜か〜ぜ〜。」
「夏輝くん、鼻水吹きましょ。僕も同行しますから、安心して下さい。」
「と〜ま〜。ぐずっ」
『私も、憑いて行きますから。』
「たろ〜。秋斗殺すなよ?」
『ひ、ひどい。』
「よ〜し!目的地変更〜。いざR廃校へ!あきちゃん救出作戦の巻!」
「その前に…何か食わせて…春風様。」
俺たちの長い1日は、まだまだ続くらしい。




