みんな!春風くんと一緒に帰ろうよ…
「るんらら…るんらら…るんらら〜。」
今日も友人の春風くんは、上機嫌だ。
何の脈絡もない鼻歌のような呪文のような歌を楽しそうに歌いながら歩いている。
「るんらら…るんらら…るんらら〜。」
歌詞は無い。
ただ、るんらら言ってるだけだ。
「るんらら…るんらら…るんらっら〜。」
時々、鼻歌のような…そうじゃないような呪文みたいな言葉をわざとなのか?どうなのか分からないが間違える。でもそんな時は、いつも照れくさそうに笑うので、何となく間違えちゃったんだな…と思うことにする。
ちなみに春風くんは、とても音痴だ。
「春風くん、僕は以前から君のことを常々思っていることがあるんだけど…君は、トイプードルみたいだね。」
トイプードルみたいという形容詞は、僕にとって最高の褒め言葉なのだ。伝わりにくいのが難点なのだが、春風くんは、僕のような健全な男子高校生から見ても、とても愛くるしい程に可愛らしいのだ。
「冬馬くん。君は、シベリアンハスキーみたいだよ。」
シベリアンハスキー?…それは春風くんからの褒め言葉として、受け取ってもいいのかい?
「るんらら…るんらら…るんらら〜。」
いつもの光景で、見慣れてきてはいる事なんだけど、本当は見慣れてきてはいけないような気がするんだけど、見慣れてきている事があるんだ。
「るんらら…るんらら…るんらら〜。」
春風くんが『るんらら』言ってると、色んな人たちが憑いて来るんだ。
僕は『見える人』なんだけど…春風くんは『見える人』なんだかどうなんだか…見える素振りをしている思わせぶりな人なのか?今日はそれを確かめたい。
「冬馬くん、何してんの?」
「今日は、生きてる女子高校生が3人と、そうじゃない女子高校生が5人と、首のない鎧を着た人と、生きてる野良猫2匹だよ…春風くん。」
「へぇ〜。」
丁寧に右手で分かりやすく案内したというのに、関心を持ってもらえなかった…やはり、春風くんは『見えない人』だったのか? ちなみに生きてる女子高校生3人は、真っ赤な顔して走り去ったさ…青春だね。
「るんらら…るんらら…るんらら〜。」
只今の現状報告は、生きてない女子高校生5人と、首のない鎧を着た人と、生きてる野良猫2匹がお行儀よく1列に並んで憑いて来ています。
さて、ここまでが見慣れてきている光景で、問題はこれより先に起こることを確かめたいのだ。
「んじゃっ冬馬くん、また明日ね〜。」
僕たちは、ご近所さんだから一緒に帰ってるんだけど、この郵便ポストのある十字路で左右に別れてしまう。なので、いつもはこれより先の春風くんを僕は知らない。
「うん。また明日ね。」
さぁ…ここから尾行の始まりだ。帰る素振りをして一旦、郵便ポストに身を隠そう。
「るんらら…るんらら…るんらら〜。」
春風くんは、1人になっても『るんらら』するんだね。ゴーイングマイ・ウェイってやつだね。結構ボリューム高いんだけど、そんなことはお構い無しって潔いよね。
「るんらら…るんらら……るんるん。」
るんるん?…初めてのフレーズじゃないか!
おや?電信柱の影に、モジモジしたスレンダーな美女がおる…
「るんらら………チュッ」
ああああああああああ………!!!
投げキッス……投げキッス……投げキッス……?!
しかもウインクつきっ??…この令和の時代に、昭和のスターみたいなベタなやつっ……!
び、美女は?美女は……?
しょ……しょ……しょっ……昇天っっ???
あっ…生きてない方だったのか…
「るんらら…るんらら…るんらら〜。」
それにしても、ああいう美女が春風くんのタイプだったのか?……僕もタイプだ。気をつけよう…将来的に恋の好敵手になるかもしれない。
おや?今の出来事で、生きてない女子高校生たちがザワザワしている。我も我もと投げキッスを要望しているではないか?
春風くん…どうするんだ?
「ふんっっ…らら…るんらら…るんばだ〜。」
鼻息でスルーして、何だか最後はやっつけになってる?タイプではない女子には、容赦のない塩対応だ。いいぞ!
「るんらら…るんらら…るんらら〜。」
いつもの調子に戻ったな…女子高校生たちも観念して大人しく憑いて行ってる。待てよ…今までの流れで分かったことがあるぞ。
先程、春風くんに対して『見える人なんだかどうなんだか、見える素振りをしている思わせぶりな人なのか?』という僕が抱いた疑問の答えだが、恐らく僕と同じように『見える人』だ。
だがしかし…それなら何故に連れて歩くのか…
ミステリアス過ぎるぜ…春風くん。
「るんらら…るんたら…たらいま〜。」
家に着いたようだね。でもね春風くん…まだ、家の外だよ?しかしながら…何だかホッとしたよ、普通の家で。だって君、お菓子の家に住んでそうなんだもん。
「みなさん…道中、おつかれさまでした〜。」
なんてこった!
連れて歩いてきた生きてない人たち全員に、挨拶をしているではないか!まるで、ミュージカルスターのような振る舞いで、優雅に深々と頭を下げている。
春風くんがお辞儀をした瞬間に拍手喝采の嵐だなんて!
音痴なのに…
でも素晴らしいよ!生きてない女子高校生たちが次々に、笑顔で昇天して逝くじゃないか!
塩対応だったくせに…
あっ…首のない鎧を着た人が腕を上げてバタバタしている。どうした、どうした…?
ボフッ
「…痛ってぇ!!」
何か降ってきて当たったぞ?
「ひぃっ…く…首っ!」
首首首首首首首首首首び……………!
「あっ冬馬くん!…早く首、投げて〜。」
くっ!…首首首首首首首首…
「えいっ!」
首首首首首……………………ポフッ
「ナイス…キャッチ!」
あんなに怖い顔の首だったのに…今まで絶対に誰かを末代まで呪ってたでしょ?って顔だったのに…装着した途端、すっごいいい笑顔であっさり昇天って…『人は見かけによらない』の典型じゃないですか!普通に感動しましたよ。
ちなみに野良猫2匹は、僕が首…首、騒いでる間にどっかに行っちゃいました。
「すごいよ!春風くんは…これをいつもしているの?」
「うん。それよりも冬馬くん!尾行してたね?」
僕の感動は完全にそっちのけなのね…スルーなのね?
「尾行してごめんね。どの辺から気がついてた?」
「別に怒ってないけど…郵便ポストに隠れた振りをしてたところから。」
最初からですか……僕、体が大きいから無理があったかな?隠れた振りじゃなくて、隠れてたんだけどね。
それはそうと、この感動を僕だけで終わらせていいものかと、ふと…今さっき思いついたことを是非に、提案したい。
「春風くん!一緒に日本列島…『るんらら』昇天、行脚の旅に出ませんか?」
「嫌です!」
トイプードルみたいなのに…ツンデレ塩対応って、最高かよ!