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心からネコを信じなさい〜眠る前の優しい物語〜  作者: 地野千塩


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神の国は近づいた

 俺は、反ワクチン派の陰謀論者だ。こうして言うと恥ずかしいものが、昔からこの世に疑問があった。


 今は公務員として市役所で働いている。しかし真面目に働いている人ほど出世しない。むしろ、媚びを売ったり、人の足を引っ張り、悪魔的な人間の方が出世する事に疑問だった。


 そのうちコロナがはじまり、風邪ひいた同僚もいじめを受けていたりした。中には思い詰めて鬱になり、休職してしまったものもいる。


 過剰な対策。加熱するメディア。いがみ合うSNS。何かがおかしいと思い、調べていたら陰謀論にいきつき、反ワクチン派になったというわけ。


 表に出ていないだけで、案外俺みたいなヤツはいる。そんな事大っぴらに言えないからな。俺だってSNS以外では、ワクチン打つなとか言えん。仕事が首になるかもしれないし。


 俺の臆病さは本当に嫌になるな……。しかし俺みたいに表では普通の人のフリをしなはら、バリバリの反ワクチン派というのもあり得る話だ。日本人は本音と建前使う。


 みんなワクチン打ってると思ったら、打ってるのは自分だけでしたって事もあるんじゃね? ハシゴ外されるってもんだ。


 そんな折、SNSで繋がっている陰謀論系のフォロワーから、聖書をオススされた。これを読むと終末の事もわかるし、悪魔崇拝者の支配者層の事もわかるらしい。


 宗教には抵抗があるが、そんなにおススメされるなら、読んでもいいかと軽い気持ちだった。フォローから一冊送って貰い、読んでみた。カルトの改竄聖書もあると言うが、送ってもらったのはキリスト教系の出版社で出されている新改訳聖書2017というのだった。これは日本の多くの教会が使っているものらしい。カルトの改竄聖書ではなさそうだ。


「イエスって日本人っぽいな」


 とりあえず福音書から読み始めたが、どうも文字の印象からは、金髪長髪の「何でも包み込むように許す優しいイエス様」という感じがしない。むしろ、頑固で芯が強く、忠実に生きる昔の武士のよう。実際、間違った事には想像以上に怒っている。身内の弟子には厳しい。一方、弱い女性や子供には優しい。聖母マリアも聖書だと影が薄いし、あの女性は特に優しいという描写がない。


 イエスが十字架に向かうところは、国や愛する人のため、特攻に行く軍人のような印象も受けた。特攻隊は支配者から一般人への殺人みたいなものだが、なんだか被って見えてしまった。裏切り者も責めず、一切言い訳もせず、忍耐してるところも昔の日本人っぽいよな……。あんまり外人の宗教本には見えないのだが。福音書を読む限りは、優等生的な優しいイエス様というイメージが消えてくる。


 日ユ同祖論というのも陰謀論界隈では有名だ。もはやアレも陰謀論ではなく、ガチだったりして……!?


 そんな事を考えながら、眠気が襲ってきた。さすがに分厚くカタカナ語も多い聖書を読んでいたら、眠くなるのは当然だろう。


 その日見た夢は、とても変なものだった。数十年後の日本で、なぜか日本がキリスト教国になっていた。


 町の店も、日曜日に休業している所が多い。コンビニも24時間営業ではなくなり、土日はしまっている。この世界ではブラック企業も潰れていた。確かに多くの人が日曜日は礼拝に行くと言う習慣があれば、仕事もブラック化しにくいかもしれない。少なくともブラック企業的な休日出勤はなくなるだろう。


 夢の中の俺は「コンビニが閉まってるのは不便だなぁ」と思いながらも、その分、ブラック企業が無いのは労働者としては利がありそうだった。「お客様は神様」という言葉が死語になったので、クレーマーもいないようだ。


 そして、子供の自殺も減っている事に驚いた。娯楽も暴力や死を肯定したものがなくなり、明るく希望に満ちたもので溢れ、街には讃美歌が流れていた。讃美歌を聴きながら、自然と心も晴れていく。


 それでも違和感しかなかった。夢とはいえ、こんなご都合主義の事あるか?


 ふと、今はコンビニの数より多く建てられているという教会にふらっと入る。今は教会にいるのが当然という雰囲気なので、気軽に入りやすい。


 礼拝堂のすみっこの方に座り、隣にいる男性クリスチャンに色々と話を聞いてみた。


 この夢の世界では、貧困、引きこもりなども少ないらしい。多く稼いだものは、教会の貧しい人に施すので、貧乏人がいないという。


 引きこもりも礼拝に行く為に日曜日だけは外出できるようになり、自然とこの場所が社会復帰の訓練の場所になっているとか。お陰で人手不足問題なども解決しているという。


 まさか、宗教がキリスト教に変わっただけで、そんな変わるものか?


「まあ、人間には罪がありますから、上手くいかない事もありますが……」


 隣の男が、そう言った瞬間だった。目が覚めた。


「ああ、夢だったか……」


 やっぱりそんなご都合主義の事は、夢だったらしい。この世界でもキリスト教国が多いが、日本以上に問題が多いところもある現実も思い出す。


 ただ、あの夢の世界を思い出すと、少し希望も出てきた。陰謀論やワクチンの件もそればかり集中するのも違う気がした。悪ばかりにフォーカスしても、絶望しか無いだろう。確かに最近はずっとそればかり考え、イライラしている時間も多かった事に気づく。


 再び聖書を開く。神の国を思い巡らせながら。


 心に希望が灯り始めていた。


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