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死後さばきにあう

 梅雨に入った。毎日湿度が高く、雨も大変だったが、私にとっては、傘が一番悩みの種だった。


 傘立てに置いておくと、必ずパクられた。担任に言ってもスルー。田舎の中学校も民度なんてこんなもんだろうが、傘をパクられる度にイライラしていた。時に濡れて帰る事もあり、風邪も引く。これは、死活問題でもあった。


 今日も下駄箱付近にある傘立てから、パクられていた。二日連続で被害に遭ってる。私の目は涙で滲んでいたはずだ。


「高橋、もしかして傘パクられた?」


 そこに同じクラスの野中翔太に声をかけられた。クラス一のイケメンで、女子達はキャーキャー言ってる。私もその例外ではない。スポーツもできるし、日に焼けた肌も爽やかだ。目もキリッと大きく、イケメンだった。


 傘をパクられた私にも声をかけるのもイケメンすぎる。他の生徒はスルーしているおかげで、翔太はよりイケメンに見える。


「折りたたみ傘貸してやるよ」

「いいの?」

「いいよ、いいよ」


 しかも話の流れで翔太と一緒に帰る事になった。傘をパクられて泣きそうになっていたが、これはラッキーだ。笑ってしまうのを我慢しながら、一緒に帰る。さすがに相合傘はできないが、一緒に帰れるだけで嬉しかった。いつもの野菜畑や梨畑だらけの通学路もキラキラに見える。道端の紫陽花の色もくすんで見えたが、今は綺麗な花に見える。イケメンマジックすごい。


「翔太、なんか傘パクられない良い方法ない?」


 そんな相談もしてみる。ファッション雑誌には女子は男子に頼れって書いてあった。ここぞとばかりの小手先テクニックをつかってみる。


「だったらこれがいいよ」


 翔太は白い歯を見せながら、カバンから何か取り出した。いつの間にか雨はあがり、雲の隙間から薄らと光が滲んでいた。


「なにこれ?」


 翔太から受けとったのは、傘チャームだった。傘の盗難防止用の傘チャームは見た事あるが。妙なデザインだった。


 黒いプレートに白と黄色の文字で「死後さばきにあう」と書かれている。フォントも昭和レトロというか、昭和ホラー風で、何か怖い。


 そう言えば似たような看板を見た事がある。キリスト看板と言われているもので、聖書の言葉が引用して書かれているらしい。ただこの通りホラーなデザインの為、うちの両親なんかは怖がっていた。防犯にもなると聞いた事もあるが。


「神様、イエス・キリストにに見られている思うと、傘泥棒なんて出来ないだろう」

「確かに怖いけど効果あるの? っていうか手作りで作ったんだ?」

「うん」


 翔太はイケメンだが、まさか残念な部分もあるのだろうか。この傘チャームを作っている所を想像すると、シュールだった。


「俺もクリスチャンだけど、こういうセコい泥棒している人は、怪我してたりしてたからね。神様は見てるよ」

「本当?」

「まあ、試しにつけてみな」


 再び翔太は白い歯を見せながら笑った。


 確かに日本人は財布を拾ったりマナーがいい。でも、それは人目がつかない所では違う話だ。赤信号も集団ではみんな無視しているし、コンビニコーヒーの砂糖やホテルの備品をパクる人が多いとネットで問題視されているのを見た事がある。見えないところでは、日本人は本当にマナーが良いのか疑問だった。


 一方、神様に見られていると思えば、そんなセコい事も出来ないのかも。そんなキリスト教的概念は不明だが、「お天道様が見ている」と言われれば、何となく理解できる。


「翔太、ありがとう。ちなみに死後、本当に裁きなんてあるの?」

「あるさ。こういうセコい犯罪も言った事も全部、神様に申し開きをしなきゃいけないのだ」

「いや、それは怖いね」

「だろ? まあ、恐怖で縛るのは良くないけど、こんな事するヤツには予防しないとね」


 一瞬残念イケメンだと思った翔太だが、そう語る彼はやっぱりイケメンに見えた。


 その後、翔太から貰った「死後さばきにあう」チャームの効果は絶大だった。一回も盗まれなくなった。


 まあ、私がカルト信者じゃないかって噂もたってしまったが、もう傘は盗まれなくなったので、それで良いだろう。


 今年は憂鬱な梅雨も何とか乗りこれそうだった。今度翔太にお礼に何かしたい。キリスト看板風のアイシングクッキーでも作っちゃおうかな。


 そんな事を考えると、心はワクワクし、楽しくなってきた。


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