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心からネコを信じなさい〜眠る前の優しい物語〜  作者: 地野千塩


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世と世の欲は滅び行く

 今日は、友達と飲んでいた。正確には友達の友達のお笑い芸人や料理研究家とだったが。途中から私以外の女子たちも何人も合流し、盛り上がっていた。


 タワーマンションにある料理研究家の家は、酒とご馳走で溢れていた。料理研究家のおすすめの店から注文したピザやグラタン、パスタなどもあっという間に胃の中に落ちていく……。


 こんな煌びやかな飲み会をやってる私は、いわゆる港区女子。見かけはとにかく気を遣い、セレブっぽく振る舞っていた。まあ、実際住んでいるのは千葉県だけどね。格好と人脈だけ繕えば、港区女子になるのなんて簡単だった。


 目指すは玉の輿。


 もう22歳だし、そろそろいい感じにハイスペ男子にツバつけておきたい。お笑い芸人と料理研究家、どっちが金持ってるかな〜?


 二人とも顔は大福みたいで微妙だけどね。


 ただ、こうして賑やかに飲んでいるのに、何だか楽しくなくなってきた。


 連日、こうして飲み会をやっていたが、昨日は、うっかりバリキャリの医者とか見ちゃった。彼女らのしっかりした雰囲気は、コンプレックスを刺激される。どうか若いうちに上手い事ハイスペ男子を手に入れたい。どうせウチは、年収400万のサラリーマンの家庭だし。玉の輿乗るぐらいしか上昇できるチャンスもない。


 そんな事思うと、どんどん虚しくなってきた。まろで、心の中にどんどん空洞ができるみたい。心なしかお笑い芸人や料理研究の視線もキツく見えてきた。


「帰る」


 居てもたってもいられなくなり、帰る事にした。飲みすぎたのか、頭も痛い。


 千葉の田舎に家に帰ったら、余計に頭が痛くなり、ずっと寝てしまった。


 翌朝、まだ頭がガンガンする中、どうにか起きて、身支度を整える。親歯もう仕事に行ってしまい、冷蔵庫の中には何もない。


 仕方がないので、近所に朝食でも食べに行く事にした。


 家を出て、古い民家が立ち並ぶ細い道を歩く。ところどころに田んぼもあり、うかにも田舎って道だ。昨日のキラキラした飲み会を思い出すと、なんだか泣けてくる。かと言っていくら飲み会をたって港区女子をやっていてもたのしくない。ハイスペ男子を捕まえられても、本当に幸せになれるのか、よくわからない。


 そんな事を考えていると、民家の塀に変な看板があるのに気づいた。


「世と世の欲は滅び行く」


 看板には、そんな言葉が書いてある。黒字に白抜き文字で、何だかホラー風だが、妙に迫力はある。


 それに今の私の心を見透かしているみたいで、ドキドキしてきた。何の看板かはよくわからないが、見逃す事ができない何かがある。


 SNSでもキラキラした生活を投稿していた。誰かよりキラキラしていれば、幸せになれるような気がしていたが、何だか違うと気づく。


 例えば100年後。


 私がいくらキラキラしていようが、ハイスペ男子と結婚していようが、どうでも良くなっているだろう。もしかしから、世界そのものが無くなっている可能性もある。


 棺桶の中に、自分がいかに他人より優れているかなんて名誉も持っていけない。確かにこの世にあるものも滅びると言われても、おかしくはない。むしろ、何でこんな単純な事に気づかなかったのか、目が覚める思いだ。


 しかし、お腹が減った。


 昨日食べたピザやパスタも美味しかったけれど。


 近所の古めかしい喫茶店に行き、モーニングセットを頼む。コーヒーを頼んだつもりだったが、ボウルいっぱいにサラダ、カリカリのトースト、それにフルーツヨーグルトもついてきた。


 久々にちゃんと朝ごはんを食べ、何だか元気になってきた。


 港区女子とか、ハイスペ男子とか、飲み会とか、しばらくお休みしても良いかもしれない。どうせ100年後に滅びているものを追いかけても、虚しいだけだ。


 全ての欲を捨てる自信はないけれど。


 とりあえず、今日は一日ゆっくり休み、美味しい朝ごはんを楽しもう。まだまだ100年後まで長い。ゆっくり未来の事を考えても悪くないはずだ。


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