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ネコへの態度を悔い改めよ

「猫にチョコはあげちゃダメなのよ。酷い場合は死ぬかも。ネギ、タマネギ、スパイス、生の肉や卵、イカとかもダメ。柑橘系のアロマオイルなんかもダメだったはず」

「へー、猫って案外デリケートなんだな」

「許せないわ。猫をいじめている奴がいるなんて」


 ある日、放課後教室に残ってプリント作りをやらされていた。教室に押し付けれたわけだ。僕のようなスクールカースト底辺生徒は、こういう時損だった。その証拠にギャルやヤンキーは、こういう役割はやっていない。


 鈍臭くプリントを散らかしている僕を見かね、委員長が手伝ってくれた。


 委員長はクラスでも高嶺の花の美人だ。ミッションスクールの進学も決まっているお嬢様でもある。こんな時でも無いとスクールカースト最下位層の僕と会話する機会は無いだろう。


 何かの流れで、この学校のヤンキーが猫をいじめているという噂の話題になった。


 委員長は正義感が強いのかプンプンと怒っていた。そんな姿もなかなかレアで、内心ちょっと笑っていたが。


「本当、ヤンキーって最低よ。っていうかもうこんな時間。佐藤くん、一緒に帰らない?」

「いいの?」


 僕のようなスクールカースト底辺の人間にも優しい。ちょっと期待しそうだった。


「ええ。今日は英語の辞書、国語辞典、植物図鑑を家に持って帰らないといけないの。半分持ってくれると助かるわ」


 そういう事ですか……。


 ちょっとガッカリしつつ、重い本が入ったエコバッグを持ちながら、委員長と一緒に帰った。


 学校の近くにある商店街に入る。こっちの道を通った方が近道だ。重い本で息が切れかけている僕は、この道を通る事を提案した。委員長は死んだ目をしていたが仕方ない。


 商店街はほとんど老人が営業している為か、活気がなく、シャッターが降りている店舗も多い。電柱には「神と和解せよ」「死後さばきにあう」などというキリスト看板もはってあり、いかにも田舎くさい。


「キリスト看板、ダサいよな。というか怖いよ」

「あれは万引き防止効果もあるのよ。わざと強い文言のものをリクエストする人もいるらしいわ。神様に見られていると思うと万引きなんて怖くて出来ないでしょう。ちなみに私が通ってる教会で献金箱盗んだやつは事故ってたよ」

「へー、一体誰があんなホラーな看板作ってるわけ? 黒に白抜き文字とか超怖いんですけど。フォントも昭和ホラーみたいで怖いよぉー」


 ちょうどその時、学校のヤンキー数人が猫をいじめているのが見えた。蹴ったり、殴っているものもいたが、チョコレートを食わせている黒猫もいた。さっきの委員長の話が本当だとしたら、あの黒猫は死ぬかもしれない。


 ヘタレな僕は、逃げたくなった。他の住人も見て見ぬフリして逃げている。


 横にいる委員長は期待するように僕を見ていた。キリスト看板も目には入ってくる。


「お、お前ら! ネコへの態度を悔い改めろ!」


 なぜかそんな事を叫んでいた。キリスト看板には「神への態度を悔い改めろ」とあったのに、なぜかネコと言い間違えてしまった。


 想像通りヤンキーに返り討ちをあい、ボコボコにされたが、その隙に猫達は、委員長の手によって逃げられた。チョコを食べさせられた黒猫も吐き出させ、動物病院に連れて行ったが無事だった。


 顔は殴られれ血だらけ。もう二度とヤンキーに逆らわないと誓ったものだ。キリスト看板の文言をパクった上、ネコと言い間違えるのもダサすぎた。


 委員長はこの僕の行動に腹を抱えて大笑いしていた。その後、バレンタインデーにチョコまでもらってしまい、10年以上付き合った末、結婚までしてしまった。あの一件から猫にも興味を持ってしまい、今は獣医として働いている。


 それが僕と妻の少々笑える馴れ初めだった。


 妻と眠っているベッドの側にある目覚まし時計がなっていた。


 毎朝、5時に起きて朝ごはんと弁当を作るためだ。一方妻はベッドでスヤスヤ眠っている。


 一言でいえば尻に敷かれている状況だったが、目覚まし時計の音を聞きながら、それも悪くない気もしてきた。それに今日は僕たち夫婦のちょっとした記念日だ。今日だけはこの目覚まし時計の音がちょっと楽しく聞こえてしまう。


「今日はバレンタインだ。あー、今日こそは早く帰ってくるぞ」


 欠伸をしながら背伸びし、僕は目覚まし時計の音を止めた。

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