王妃「パンがないなら米を食え!」
王の間に通された一人の市民。
市民は王と王妃に懇願する。
「お願いします、陛下、王妃様! 今年は不作で……主食のパンにも事欠く有様なのです! どうかお助けを……!」
すると、王妃マリーは立ち上がった。
「パンがないなら米を食べればいいじゃない」
「へ?」
王が補足する。
「うむ、実はな……。王妃の祖国は米の一大産地なのだが、今年は素晴らしい豊作だったのでな。やたら王宮に届けられて、どうしようか悩んでいたのだ」
「田舎の実家から農作物送られまくって困ってるみたいなことになってたんですか」
マリーが胸を張る。
「そうよぉ! パンがないなら米を食え! 米、米、米ぇ!」
だが、市民はそれを鼻で笑った。
「米……ですか」
「む!?」
「食べたことはないですが、米ってあれですよね? なんかツブツブで、ボソボソしてて、パサパサしてるアレですよね? そんなもん食べるぐらいなら餓死した方がマシっていうか……」
露骨で遠慮のない米ディスりに、マリーは激怒した。
「貴様ッ!!!」
「おや、怒っちゃいました? コメカミに血管が浮いてますよ、米だけに」
市民にあざ笑われ、マリーの体が震える。
「ちょっと待ってなさいッ!」
マリーは玉座を立つと、どこかに行ってしまった。
王と市民は二人きりになり、気まずくなる。
「しょ、少々待っててくれんか」
「は、はい」
天気の話や最近のニュースを話題にするが、なかなか会話が続かない。
「すまんね……市民と話すことなどめったにないもので」
「いえ、私こそ……」
やがて、マリーが戻ってきた。
「お待たせしたわ!」
「おお、どこに行ってたのだ?」
「キッチンよ。さあ、召し上がれ!」
マリーが持ってきたのは一膳の箸と、茶碗に入ったほかほかの白米。キッチンで炊いてきたのだろう。
市民は苦笑いする。
「さっきもいったでしょう。米を食うぐらいなら餓死すると」
「いいから食べなさいッ! 業務命令よッ!」
マリーの迫力に圧倒され、これは業務なのか……などと内心ツッコミながら食べ始める。
「いただきます」
一口食べた瞬間――
「こ、これはッ!?」
マリーが微笑む。
「うまいッ! ホカホカのご飯が、噛むごとにほのかな甘みを醸し出し、それでいてふんわりとしたのど越しィ! うまい! うますぎる!」
「でしょう」
「悔しいですが……おかわりを頂けますか」
「はい、どうぞ」
すかさず二杯目をよそう。
これに気をよくした王妃マリーは決意した。
「よーし、この国にもお米を広めるわよぉ!!!」
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一ヶ月ほど経ったある日、マリーは城勤めの役人に尋ねる。
「どう? お米を食べる習慣は広まった?」
「え、ええ……」
どうも煮え切らない返事だ。
「なんかはっきりしないわね」
「あの……ええと、広まってますよ、ええそれはもう!」
「ちょっと」
「う……」
「私に隠し事をしても無駄よ。はっきり言ってちょうだい! 炊き立てのライスの如き温かさで受け入れてあげるから!」
意味不明な比喩とともに両手を広げるマリーに、役人は語り始めた。
「米を食べる習慣は広がってはいます。感謝している市民も多いです。ですが、まだまだ米というものに戸惑っている者も多く……」
「なるほどね」
この王国に米を食べる習慣はなかった。そうなるのも当然とマリーは頷く。
「分かったわ。だったら私が市井に赴いて、色々アドバイスしてくるわ」
「えっ、王妃様自らが……!? なにもそんなことせずとも……」
「この国にお米を広めようって言ったのは私よ? こういうのは言い出しっぺがやらないとダメでしょ」
美しい金髪と王族用のドレスを翻し、マリーは朗らかに笑った。
「レッツ・城下町!」