カレンとのプレイ_1
「私にプレイを教えなさい」
カレンが正式にこの家で暮らすことになって早数日。
コーヒーを飲んでいた僕は、突然話しかけられたと思いきや盛大に吹き出してしまった。
「ぷ、プレイを教える……? 本気……!?」
「ええ、もちろんよ。何か問題?」
プレイって、そういうことだよな……?
待て待て待て、落ち着け。問題とかそれ以前の話だ。
なぜ奴はこんなにも落ち着いている……?
エルフはそういうコトに寛容、というか軽いのか?
だとしたらカレンもすでに経験済みということか?
いいや、そんなことはどうでもいい。余計なことを考える暇はないぞ。
珍しく、ひょっとしたら人生で初めて高速で回転する僕の頭は、状況を整理しようと必死だった。
「ねえ、どうしたの? 早く教えてよ」
追撃が来た。鬼かよ。
そもそも何故こんなことになったんだ……?
記憶を遡り、一度状況を整理してみよう。
僕はリビングのソファに腰掛けてゲームをしている。
ゲームの名前はGGG。
ジャンルは一般的なMMORPGだが、とにかく自由度が高いと有名なゲームだ。
見た目やアイテムを自作できるのはもちろん、スキルや職業まで自作できるという、運営泣かせと言えるほど無限の拡張性がある。
僕はいわゆるエンジョイ勢のため、上位ランカーが持つ実戦向けのスキルというよりは、ある程度遊びのある装備やスキルを集めている。
……だめだ、どう考えてもただゲームをしていただけだ。
『プレイを教えろ』だなんて、そんな突拍子もないことにつながらない。
言うしかないのか? 無視することはできる。でも、僕は……
「もしかして、それがもう1つ必要なの?」
僕が自分の性癖を暴露しかけたその時、キョトンとした声が耳に入ってきた。
何かを指差しているが……、僕の持っているゲーム機? もしかして……
「これのこと?」
「そう、それ。それで色々プレイしてるんでしょ?」
どう見ても、カレンは僕のゲーム機を指差している。
確かに本体メモリには見せられないものも入っているが、なんとなくニュアンスが違う気がする。
その瞬間、ハッとする。
もしかして、僕は盛大に勘違いしていた?
「……まさか、ゲームのプレイングのこと?」
「それ以外に何があるっていうの?」
さも当然というように返事が来る。
ちくしょう、ぶっ飛ばしてえ。いや、悪いのは勘違いしてた僕の方なんだけどさ。
「よし、わかった。今やってるゲームの操作方法を教えよう。でもその前に、もっと大事なことを教えておこう」
ゲームについて話すなら、ゲームと言うこと。
プレイという言葉を単体で使うと、それはもはや別の意味であること。
その他諸々を説いたのだった。
説明の途中で、自分が恥ずかしいことを口走ったと理解し赤面するカレンを見て、エルフが痴女の集まりではないことを知り安心したのは言うまでもない。
ネットでゲーム機を注文すると、いつも通り瞬時に足元に届いた。
すぐに開封し、ゲーム機本体の初期設定を済ませ、カレン用のアカウント作りを始める。
カレンにGGGのキャラメイクを教えると、迷わずサクサクと進め始めた。
こういうゲームはキャラメイクで迷って一生ゲームが始められない僕のような初心者が一定数いるが、カレンは違うらしい。
カレンはどんなキャラメイクをするのだろうな。
横から画面を覗くと、そこにいたのはもう一人のカレンそのものだった。
まさか現実の姿をそのまま使うとは!
予想外ではあるものの、同時にとても納得のいくキャラメイクだった。
「せっかくなら自分が遊んでいる感覚を出したいじゃない」
自らゲームにのめり込もうとするカレン。
その姿は現実逃避のためゲームに没頭していた自分と重なり、僕の心には一方的な仲間意識が芽生えていた。
カレンと一緒にゲームを始めてから1時間ほど経過した。
最初のうちは、いわゆる普通の初心者だったカレンだったが、今では初心者のレベルを大きく上回っていた。
エルフという種族、というかカレンは学習能力が高いのかもしれない。
そんなことを考えながらゲームプレイを続けていたが、だんだん眠くなってきた。
26歳の僕は世間的にまだ若い部類に入るだろうが、徹夜でゲームできなくなったというのは、ゲーマー的にはおじさん認定されてしまうかもしれないなあ。
まどろみ始めた頭で他愛のないことを考え始める。
カレンはまだまだ寝ずにプレイするようだ。
ゲーマーデビュー初日から徹夜とは、将来有望だな。
そんな思考を最後に、僕は一足早く寝ることにした。