仕事辞めたい_1
「はあぁぁぁ、仕事辞めたい」
深夜の誰もいないオフィスにて僕、日向大和26歳はため息まじりにつぶやいた。
僕以外に無人のオフィスというのは、もはや珍しくない光景だ。
新卒で入社した同期の中でも僕は仕事が遅かったので、上司が冗談で「大和の定時は23時みたいだから、皆どんどん仕事回せよ」と言っていた。
それがきっかけとなり、本当に多くの人が仕事を回してくるようになったのを覚えている。
仕事を丸投げできる便利屋として扱われ、会社中から仕事を渡されるようになったのだ。
その結果、早くても毎日23時までかかるようになった。
当然、好きでやっているわけではない。
「俺は忙しい。だから重要でない仕事に関わっている暇はない。代わりにお前がやっておけ」
といったように、自称忙しい人から、自称重要でない仕事が回ってくるのだ。
重要でない仕事なんて、そもそもやる意味あるの?
日々思っていたので、勇気を振り絞って上司に話してみたことがあったが、結果は「仕事が無駄だと感じるお前の頭が無駄だ。黙って手を動かせ」という一言だった。ついでに「そんなことを考えられるほど暇なら、もっと仕事を回してやる」とも言われ、その日から僕の仕事量が3倍になった。
早ければ終電で帰れた生活は、早ければ始発で帰れる生活へと変貌したのだ。
金輪際、上司には相談しない。
心を押し殺して黙って手を動かすだけなら簡単だ。
そう考えるようになったのは当然の流れだった。
それでも毎日のように上司に怒られる。
怒っているのではなく指導しているのだと言うが、僕としては同じことだ。
さらに、それを見た同僚や後輩は僕のことを下に見るようになり、上司側に加担し始める。
その結果、あまり時間もかからず、僕は独りになった。
自分のことしか考えない上司、仕事を押し付けるくせにお礼も言わない新人、対岸の火事と言わんばかりに傍観する同僚。
僕の会社は、そんな奴らばっかりだ。
なぜ僕はここで働いているんだっけ?
新卒で入った会社だから、なんとなく恩義を感じていた。
せっかく採用してくれたのだから、できるだけ頑張ってみろ。
社会に行ったらこれくらい当たり前だ。
どこの会社も一緒。若い頃の仕事は我慢だ。
僕が周りから散々聞かされてきた言葉だ。
じゃあ、一体いつまで頑張ればいいんだろう?
頑張るって、何のため? 誰のため? 自分が辛い思いをしてまで頑張る意味って何?
今日もまた、押し付けられた仕事、何をやってるかわからない仕事、どうでも良い仕事、そんなことばかりやっている。
集中力が切れ、モニターの右下にある時計が目に入る。
『AM1:52』
今日も今日とて終電を過ぎてしまった。
今日はせっかくの金曜日だったのにな。
仕方ない、会社に泊まって始発で帰ろう。
そう決意して、家に連絡する。
家と言っても、恋人など甘い関係ではない。
親だ。
僕はまだ実家で暮らししている。
というより、実家に縛られている。
「このまま会社に泊まって、始発で帰ります」
一言だけ連絡するが、帰りたくもないな、という思いが渦巻いていた。
お金があれば、一人暮らしして気楽に過ごしたいな。
まあ、そんなことを思っても、実行するお金も勇気はないんだけどね。
フンっと自虐的に鼻を鳴らし、また仕事に向かうのだった。