表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/38

仕事辞めたい_1

「はあぁぁぁ、仕事辞めたい」

深夜の誰もいないオフィスにて僕、日向大和(ひゅうがやまと)26歳はため息まじりにつぶやいた。


僕以外に無人のオフィスというのは、もはや珍しくない光景だ。

新卒で入社した同期の中でも僕は仕事が遅かったので、上司が冗談で「大和の定時は23時みたいだから、皆どんどん仕事回せよ」と言っていた。

それがきっかけとなり、本当に多くの人が仕事を回してくるようになったのを覚えている。

仕事を丸投げできる便利屋として扱われ、会社中から仕事を渡されるようになったのだ。

その結果、早くても毎日23時までかかるようになった。

当然、好きでやっているわけではない。

「俺は忙しい。だから重要でない仕事に関わっている暇はない。代わりにお前がやっておけ」

といったように、自称忙しい人から、自称重要でない仕事が回ってくるのだ。


重要でない仕事なんて、そもそもやる意味あるの?


日々思っていたので、勇気を振り絞って上司に話してみたことがあったが、結果は「仕事が無駄だと感じるお前の頭が無駄だ。黙って手を動かせ」という一言だった。ついでに「そんなことを考えられるほど暇なら、もっと仕事を回してやる」とも言われ、その日から僕の仕事量が3倍になった。

早ければ終電で帰れた生活は、早ければ始発で帰れる生活へと変貌したのだ。

金輪際、上司には相談しない。

心を押し殺して黙って手を動かすだけなら簡単だ。

そう考えるようになったのは当然の流れだった。


それでも毎日のように上司に怒られる。

怒っているのではなく指導しているのだと言うが、僕としては同じことだ。

さらに、それを見た同僚や後輩は僕のことを下に見るようになり、上司側に加担し始める。

その結果、あまり時間もかからず、僕は独りになった。

自分のことしか考えない上司、仕事を押し付けるくせにお礼も言わない新人、対岸の火事と言わんばかりに傍観する同僚。

僕の会社は、そんな奴らばっかりだ。


なぜ僕はここで働いているんだっけ?

新卒で入った会社だから、なんとなく恩義を感じていた。

せっかく採用してくれたのだから、できるだけ頑張ってみろ。

社会に行ったらこれくらい当たり前だ。

どこの会社も一緒。若い頃の仕事は我慢だ。

僕が周りから散々聞かされてきた言葉だ。

じゃあ、一体いつまで頑張ればいいんだろう?

頑張るって、何のため? 誰のため? 自分が辛い思いをしてまで頑張る意味って何?


今日もまた、押し付けられた仕事、何をやってるかわからない仕事、どうでも良い仕事、そんなことばかりやっている。

集中力が切れ、モニターの右下にある時計が目に入る。

『AM1:52』

今日も今日とて終電を過ぎてしまった。


今日はせっかくの金曜日だったのにな。

仕方ない、会社に泊まって始発で帰ろう。

そう決意して、家に連絡する。

家と言っても、恋人など甘い関係ではない。

親だ。

僕はまだ実家で暮らししている。

というより、実家に縛られている。

「このまま会社に泊まって、始発で帰ります」

一言だけ連絡するが、帰りたくもないな、という思いが渦巻いていた。

お金があれば、一人暮らしして気楽に過ごしたいな。

まあ、そんなことを思っても、実行するお金も勇気はないんだけどね。

フンっと自虐的に鼻を鳴らし、また仕事に向かうのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ