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余命七十年

 

「ねえ、もしも人の余命が見えるって言ったらどうする?」

「えっ……見えるの?」

「冗談。もしもの話だよ」

「そっか。んー、じゃあ自分の余命と大切な人の余命が知りたいかな。もし余命が近かったら病院に行って検査とか出来るでしょ」

「悟は現実的だね。私だったらどうしようかな」

「雪だったら知りたい?」

「えっ、微妙かな。だって知らない方が良いことも沢山あるし、知るのは怖い気がする」

「そうだね」

「でも悟は大丈夫。長生きするよ!もちろん、私もね」

「……雪」

「ん?」

「ごめん、もう、一緒に居られない」

「悟……?」

「……っ」

「ちょっと、悟」


 私は立ち去る悟を止められなかった。

 そしてそのことをずっと後悔し続けた。




『もう一緒に居られない』

 自分の発した言葉が鎖のように縛りつける。

 自分の余命が見えるようになってから決めていたこと。そのはずなのに、今更ながらに苦しんでいる。

 自分の余命はあと七日。

 それに対して雪は七十年。

 あまりにも離れすぎている。

 正確に言えば雪はあと25,583。自分は7という数学だけが見えているがその単位が『日』で余命だと気がついたのはだいぶ前だ。

 自分が死んで七十年も雪を一人にさせるなんてことは出来ない。

 優しい雪のことだからしばらくは泣き続けることが目に見える。

 雪を泣かせるくらいなら目の前から立ち去り、忘れてくれた方がマシだ。

 雪には余命が少ない自分よりも相応しい人がいるはず……



「雪、君に別れを告げてからもう二ヶ月が経つ。余命があと一日になった今日、初めて君の今後の幸せより、もう一度会いたいと思ってしまったよ。勝手に別れを告げたのにまた会いたいだなんて思ってごめん。自分勝手でごめん。そして君の誕生日当日に永遠の別れを告げること、本当に申し訳なく思ってる。もう君の誕生日を直接祝うことが出来ない。だからせめて今、言わせて欲しい。

 来年以降のあと六十九回の誕生日は他の人と祝って良いから。今年だけは自分だけに祝わせて欲しい。わがままでごめん。雪、本当におめでとう。君が幸せな人生を歩んでいくことを心から祈っているよ」






「嘘でしょ……ねえ、嘘だと言ってよ」

 悟はまだ死ぬはずがない。

 だって私には余命が見える。

 悟の余命はあと七十年。私と同じ七十年だ。

 だから誕生日にと花束と手紙が届いていて、その手紙に今日、命が尽きると書いてあっても信じられない。

 信じられるはずがない。

 今日は私の誕生日で、もしかしたら悟と会えるかもしれないと、出かけようとした矢先のことだった。

「ねえ、お願い、嘘だと言ってよ。普段はサプライズとか下手なくせに……本当に別れるつもりなら指輪を隠さないでよ。バラの花束の中に指輪を隠すなんてこと悟には似合わないよ……」

 もしも悟の話が本当の事だとして、このままお別れは出来ない。

 せめて最後に話しくらいはしたい。

 いや、最後だなんて言わせない。

 私は余命が見えるようになり、悟の余命が『七十年』と表示されていることを知ってからは残りの人生は悟と過ごすことを決めていた。



「悟!」

「雪!?……どうしてここに」

「ばか……悟が今日死ぬとか言うからでしょ」

「もう届いたんだ」

「今さっきね」

「そっか。最後に直接言えて良かった。雪、お誕生日おめでとう」

「ありがとう。でも最後とか言わないでよ」

「事実だから」

「……っ」

「別れた日に雪が余命が見えたらって話しをしたのを覚えてる?実はさ、俺には余命が見えるんだ。雪はあと七十年程。俺はあと一日。だからさ、雪は俺を忘れて幸せになってよ。雪の人生まで邪魔したくないんだよ」

「幸せになんかなれる訳ないじゃん。悟が居なくて……それに言って無かったけど、実は私も余命が見えるの。私は七十年。そして悟も七十年。だから安心して。悟はまだ生きられる」

「でもそんなはずは」

「あるの。悟にはどう見えてるのかは分からないけど、私にはちゃんと『七十年』って親切に単位まで見えてるから正しいと思うの。もし、悟の方が正しくて私のが間違えていても私は悟以外の人と幸せになんかなれない」

「雪……」

「悟。私と結婚してくれる?」

「でも俺はもう……」

「悟の余命がどうだろうと関係ない。私が悟と居たいと思ったの。あと一日だろうが七十年だろうが一緒に居るのは悟が良い……それじゃだめかな」

「雪がそこまで言ってくれるなら……雪、君の七十年をください」

「もちろん。私にも悟の七十年をください。そしてありがとう、悟。本当にありがとう」

「こちらこそありがとう」

「もう泣かないから。これから七十年、泣かないから今だけは泣かせて……もう泣かないから」

「……っ!!」

「悟?」

「どうしたの?悟」

「雪の余命があと一になった」

「えっ、でも私の方はまだ『七十年』って表示されてるよ?もちろん、悟のも」

「えっ、でも……」

「そんなことは良いよ。もう死んでも良い……もう絶対泣かないし、これからはずっと笑ってるから」

「雪……身体は大丈夫?」

「うん、何とも無いけど。どうしたの?急に」

「雪の余命が0になった」

「でも私の方は七十年のまま」

「「……」」

「悟……悟に見えてるのは余命じゃないんじゃない?」

「余命じゃない?」

「そう、例えば……その人が人生で最後に泣くまでの時間とか……」




最後まで読んでいただきありがとうございます。

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