誕生日プレゼント
コミカライズ6巻が好評発売中です!
こちらはその記念短編となっています。
私はルドルフ。
エナンセア公爵家の当主である。
妻は昔に亡くしてしまったが、彼女が残してくれた娘──ノーラのおかげで、楽しい日々を送れている。
彼女は可愛い。目に入れても痛くないほどだ。
私はこれからの人生を費やして、ノーラを一人前の令嬢にしなければならない。
そう思うだけで、妻を亡くした寂しさがマシになった。
そして──ノーラの八歳の誕生日が近づこうとしていた。
私は例年通り、ノーラに誕生日プレゼントを贈るために、彼女に希望を聞くことにした。
「ノーラ、そろそろ君の八歳の誕生日だね。誕生日プレゼントはなにがいいかな?」
ノーラは目をクリクリさせて「いいんですか?」と、問いを返してきた。
「いいんですか──とは?」
「いつまでも誕生日プレゼントをもらってもいいのかと思いまして。私はもう八歳。いつまでもお父様に甘えてばかりではいけませんわ!」
おお……まだ八歳だというのに、既にノーラはそんなことを考えているのか。
巷には、貴族として贅沢出来るのは当然の権利だと思っている輩もいる。
中にはワガママ放題で、家計を傾かせるほど酷い例も。
しかしノーラはそんなことはない。
今こうして毎日美味しいご飯を食べ、広い館の中でぬくぬくと育っているのも、当たり前のことだと思っていないのだろう。
謙虚で立派な娘を、私は誇りに思った。
「そんなこと、君が気にしなくてもいいんだよ。それに仮に貴族じゃなくても、八歳はまだ誕生日プレゼントをもらう年頃だ。君が欲しいものを言ってみなさい」
「だったら──」
ノーラの欲しいもの……ネックレスだろうか? それとも服とか?
考えながら彼女の答えを待っていると──。
「私、剣が欲しいですわ!」
……と、彼女は言った。
ああ──そうだった。
可愛くて、なんの欠点もない娘。
しかし唯一……私が彼女に不安に覚えていること。
それは娘は音楽や社交界といったものに目もくれず、剣や魔法に興味を向けていることだ!
とはいえ、誕生日プレゼントに剣をねだられるとは考えておらず……私は内心、頭を抱えてしまう。
「け、剣? そんなものでいいのかい?」
「剣が一番いいんです! ダメですか、お父様?」
とノーラは上目遣いになって、可愛らしく首をかしげる。
うっ……こんな顔を見てたら、断れないじゃないか。
「わ、分かった。最大限、君の望みを叶えるため努力しよう」
「お願いします! あっ、一応言っておきますけど、玩具の剣とかはいらないですよ? あっても、私は使いませんので。無駄遣いはいけませんわ!」
「……もちろんだ」
先回りして釘を刺され、私は溜め息を吐くしかないのであった。
ノーラの前から立ち去る。
「剣……か」
「どうされたんですか? ルドルフ様」
途方に暮れて廊下を歩いていると、メイドの一人──リリヤが話しかけてきた。
「いや、なに。ノーラが誕生日プレゼントとして──」
先ほど、ノーラと話したことをリリヤに伝える。
「ノーラ様らしいご希望ですね!」
「私もそう思う。だが、どのようなものを買えばいいんだ? 剣に関して、私は門外漢だぞ」
「ルドルフ様の買うものなら、なんでも喜ぶと思いますが──私も知らないですね。うーん、ノーラ様の欲しい剣……」
私とリリヤはどんな剣がいいのか、頭を悩ますのであった。
おかげさまで、鏡ユーマ先生による当作品のコミカライズ6巻が本日発売となりました!
電子版だけの発売となりますが、お手に取っていただけると幸いです。
よろしくお願いいたします。




