ライマーの意外な長所?
コミカライズ四巻が好評発売中です!
こちらは、その発売記念短編となっています。ぜひ、お楽しみくださいませ。
「ライマー、なにしてるの?」
ある日。
屋敷の庭でなにかをしているライマーを見つけて、私はそう声をかけた。
彼は冒険者だ。
そして誰よりも努力家である。
少し時間が空けば、庭で剣術の訓練をしているのを見かけるが……今日はどうもそういう様子ではない。
「なにって……」
ライマーがしゃがんだ状態で、顔を私の方へ向ける。
右手には剪定鋏? のようなものが握られている。ますますなにをしているのか謎ね。
「庭の手入れだ」
「どうして、あなたが庭を手入れする必要があるのよ」
「いや……俺はこの屋敷の庭師なんだが……」
「なっ……!」
予想だにしないことを言われ、私は唖然としてしまう。
「あなた……冒険者を辞めて、庭師に転職したの!?」
「バカなことを言うな! そもそも俺は庭師として、この屋敷に雇われている! 庭師が庭の手入れをして、なにが悪い!?」
とライマーが声を荒らげた。
──ああ。
彼の言葉で、私は思い出す。
そういえば、ライマー……そういう設定だったわ。
剪定鋏より、剣を握っているイメージの方が大きいので、つい忘れてしまっていた。
「そうだったわね。でも、あなたが庭師として働いているところは、初めて見た気がするわ」
「お前、この屋敷に来て何日が経ったと思ってるんだ……なにを見ながら、ここで過ごしてたんだ」
「うるさいわね」
正直、ここでの生活に慣れるのが必死で、そういう細かいところにまで目がいってなかったわ。
「それはともかく──そのラベンダー、キレイね。あなたが育ててるの?」
「おっ? 分かるか?」
ライマーは誇らしげに、こう続ける。
「このラベンダーの一角は、俺が一から作ったんだ。アシュトン様にも褒めてもらったんだぞ? 『お前が来てから、庭が一段とキレイになった気がする。本当にお前に来てもらって、よかったよ』……って」
「ふうん、そうだったのね。あなたがそんなことを言ってるなんて、なんだか意外だわ」
「なにを言う。俺は花が好きだぞ。故郷の村でも、家の庭で育てていた。もっとも、こことは規模が全然違うがな」
ますます意外だ。ライマーといったら花を愛ている姿よりも、戦っている姿の方が多く見るからね。
「まあ野山を駆け回っているお前では、花の素晴らしさは分からないだろうがな。お前も俺を見習って、ちょっとは美しいものを鑑賞し……」
なにやら失礼なことを散々言われているような気がするが、私はそれを右から左に聞き流し、こう口を動かす。
「ラベンダーから取れるエッセンシャルオイルって、美容にも良いのよね〜」
「ん?」
「リラックス効果や、睡眠の質の向上にも効果があるわ。それだけじゃなく、甘くフローラルな香りも特徴的ね。観賞用としても優れているし、貴族の館にぴったり」
……あれ?
私は当たり前なことを言っただけのつもりだけど、ライマーが目を白黒させている。
「お、お前、やけにラベンダーについて詳しいんだな?」
「え? これくらい、普通の教養じゃないかしら」
「そうとは思えない。そんな知識、どこで得たんだ?」
「そりゃあ……私、一応貴族だし。これくらいは幼い頃から、ちゃんと教育されているわ」
「貴族──しまった!」
突如、ライマーは大きな声を発し、頭を抱えて愕然とする。
「こ、こいつ! 忘れてしまいそうになるが、これでも公爵令嬢だったんだ! 野山に棲息している、突然変異のオークじゃなかった!」
「ちょっとー! 失礼ね」
こいつは私のことを、女だと思っていない節がある。それだけならまだしも、猪かオークの類だと思っている。
失礼な話ね。
それにちょっと腹が立った私は、ニヤリと笑って、ライマーに詰め寄る。
「じゃあ、庭師であるライマーにラベンダーに関するクイズを出そうかしら」
「クイズ?」
「ええ。ラベンダーは──」
クイズを出題する。
聞き終わったライマーは難しそうな顔をして、両手を挙げて首を左右に振った。
「わ、分からん……」
「あら? 庭師だからと威張ってたわりに、こんなことも分からないのかしら? これではどちらが、野山を駆け回るオークか分かったものじゃないわね。おーほっほっほ……」
ロマンス小説とかで出てくる悪い貴族令嬢をイメージして、口元に手を当てて笑う。
ライマーは「ぐぬぬ」と悔しそうだ。
「じゃあ、第二問──いくわよ。次は──」
「か、勘弁してくれ!」
「ちょ、ちょっと! 待ちなさい!」
脱兎のごとく逃げ出すライマー。
私はその背中を、急いで追いかけるのであった。
鏡ユーマ先生によるコミカライズ四巻が発売されました。
書店などでぜひ、手に取っていただけると幸いです。




