76・わたしらしく
「見て、リアーヌ! 外も荊が……!」
再び窓から外を眺めていると、荊が次々と千切れていく光景が広がっていた
いや……正しくは見えない剣で、片っ端から斬られているようなのだ。
「一体なにが起こっているのかしら……」
そのことに戸惑いを感じていると、
「──もう心配はいりません」
とリアーヌは優しげな口調で口にした。
「きっとこれはわたしが変わろうとして、心の防衛反応が働いたから。変わってしまうことは怖いこと。わたしの心が無意識にそう訴えかけているのでしょう」
「そうなの……? でも変わった後は──」
「ええ。今よりも、もっと輝いた日々が待っているでしょう」
私が言いたかったことを、リアーヌが先んじて言ってくれる。
「じゃあ……荊が千切れていくのは、あなたが変わろうとしているからってこと?」
「それもあると思いますが──それだけではありません。きっと彼があなたを迎えにきたんですよ」
「彼?」
「アシュトンです。わたしがノーラを独占しすぎて、ちょっと嫉妬しているようですね」
とリアーヌは舌を出して、軽く自分の頭を小突く。
こういう可愛らしい仕草は、今までの彼女からすると驚くべきことのように思えた。
「って──この光は!?」
そこで私の体自体にも変化が起こっていることに気付く。
あの時と同じように──光が私の体から漏れ出ていたのだ。
「安心してください」
私を安心させるように、リアーヌはこう続ける。
「消えるどころか逆。あなたはこのまま元の場所に戻れるでしょう」
「ほ、ほんと!? どうしてそんなことが分かるの?」
「──あなたに言われて、気が付いたから。だから全部わかる」
リアーヌの表情はもう曇っていなかった。
まるで朝日のように晴れやかで、爽やかな表情だ。
「なにに?」
「自分らしく生きるってこと」
そうやって言葉を交わしている間にも、私の体から放たれる輝きはさらに強さを増していく。
リアーヌの姿も朧げに見え出した。
「何度でも言うけど、あなたとアシュトンさんは理想のカップ──いや、夫婦。それはきちんと自信を持ってあげて。じゃないと、アシュトンさんが可哀想だから」
可哀想?
どうして今のこの状況で、そんなことを言うのかしら。
「ノーラは意識していなかったかもしれませんが、彼はこの旅の最中──いえ。今までずっとあなたを見ていた。そして今だって、こうして助けにきてくれる」
「──っ!」
叫ぶ。
でもダメ。
リアーヌがどんどん遠くなっていく感覚がして、どれだけ叫んでもそれは声にならなかった。
「ふふ、安心して。わたしはいつでもここにいる。あなたのことを陰ながら見守っています」
リアーヌはそう言って、ゆっくりと深呼吸をする。
「最後に言わせてください──わたしに対して今まで、『自分の感情を殺してでも、理想の令嬢になりなさい』『そうすれば君は幸せになれる』って、たくさんの人が言ってきた」
だけどリアーヌはそんな私に、さらに言葉を重ねる。
「でもそんな人たちの言葉より──ノーラの言葉の方がしっくりきました。うん。こっちの方が身軽です」
視界がさらに真っ白になり、周囲の景色が見えなくなった。
それでもリアーヌだけは視認出来る。
「──っ!」
それでも必死に声を上げようとする。
──元気でね! また会いにくるわ!
……って。
その声は届かなかったのか、答えは返ってこない。
でも、もう心配はいらない。
だって。
「だからわたしに色々言ってきた人に会えたら、こう言うでしょうね。話が違う! ──って」
と──リアーヌは彼女らしい笑みを浮かべていたのだから。
新作始めました!
「黒滅の剣聖 〜追放されたので、かつての仲間たちと最強パーティーを再結成します〜」
https://ncode.syosetu.com/n4151hz/
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