73・真実
あなたはあのエルフ──リクハルドから、失格王子と聖なる魔女──すなわち、わたしとアーノルドの話を聞きましたね。
そこではアーノルドが国家転覆を謀った罪で、処刑させられたことを聞かされたでしょう。
しかし事実は違います。
アーノルドは悪くなかった。
全て──彼を妬んだ、他の王子の策略だったのです。
彼は自分が他の王子から妬まれ、常にその命を狙われていることを察していました。
このままでは婚約者──すなわち、私にも被害が及ぶかもしれない。
ゆえに彼は王継承権を放棄しようとしました。
そして王継承権を放棄した後は、わたしと辺境の街で一緒に暮らそうと。
もしかしたら、今までのような贅沢な暮らしは出来ないかもしれない。リアーヌ、それでもいいかい……という問いに、わたしはすぐに頷きました。
たとえどんなに貧しくても──後ろ指を指されても、わたしは彼と一緒にいられればそれでよかった。
ですが、そんなささやかな願いも結局叶えられませんでした。アーノルドの意志は他の王子に届かず、彼は処刑されてしまったのです。
わたしは彼が死んでから失意のどん底に落ち、王都から遠く離れた街へと行きました。
そこはかつて、アーノルドと一緒に暮らそうとしていた街です。
だけど、わたしの隣にはもう彼はいない。
わたしは街の中にある崖の上に立ち、そこに身を投げました。
アーノルドと一緒にいられればそれでよかった。
もし、次に生まれ変わることがあれば、聖なる魔女の力なんて持たなくてもいい。アーノルドは王子じゃなくていい。
そんな願いを抱きながら──。
「実現不可能な願いでした。しかし──その願いは思わぬ形で叶えられることになります。わたしとアーノルドは他の人の体を容器にすることによって、転生したのです」
と辛そうな表情で語るリアーヌ。
話はさらに続く……。
どうして、そうなったか分かりません。
それに、わたしとアーノルドでは転生した時代が違っていた。彼はずっと前からですが、わたしはあなたの体が最初だったので──つい最近のことです。
ですが、その間に起こったことは知っています。
わたしは彼と一緒になれるならそれでいい──そう思っていました。
しかしアーノルドは違った。
彼は変わってしまった。
ブノワーズ家のとある男の体に魂が宿ったアーノルドは、世界の全てを憎むようになっていたのです。
どうして僕がリアーヌと一緒になれないんだ。
それならいっそ──こんな世界ごとなくなってしまえ──と。
きっと彼が王族の血を求めていたのは、かつて自分を貶めた他の王子に殺意があったからでしょう。
そしてアーノルドは魔神となり、世界を恐怖一色に染めました。
最終的にはブノワーズ家の子どもに封印され、その子どもが死んでも次の子どもに……と受け継がれていたようですが。
そんな彼の憎悪、そして悲しみを、わたしはあなたの中から見ていました。
わたしはこう思います。
──彼をもう楽にさせてあげたい。
あなたの大切な人に魔神が乗り移った時、わたしにあったのは彼に対する怒り──そして憐れみでした。
そこでわたしは自分の力を、外に放出させることに成功しました。
わたしの力はアーノルド──魔神を捉え、見事彼を消滅させることが出来たわけですね。
そして同時に──彼ともう一度、一緒になりたいというわたしの夢が潰えたことも意味します。
「──これがことの真相です。あなたからしたら、信じられないことでしょう。彼──魔神がやったことを許してくれと言うつもりもありません。実際、彼は許されざることを世界に対して行った。だからあなたがわたしとアーノルドを許してくれるはずもなく……?」
そこでリアーヌの言葉が止まる。
私の顔を見て、困惑している様子だった。
「あなたたち……そんなことがあったのね。うぅ……不憫だわ。まさか冤罪だったなんて……」
そう──私は泣いていた。
だってこんな話、聞かされると思ってなかったじゃない!
リアーヌは生まれ変わっても彼と一緒になりたかった。
だけど……彼はもう変わってしまった。
二人は──生まれ変わっても、一緒になれない運命だったのだ。
儚い二人の恋物語に、私の感情は強く揺さぶられていた。
「ノーラ、さん……わたしの話を信じてくれるんですか?」
「え、嘘なの?」
と首をかしげる。
「い、いえ、嘘ではありません。しかしノーラさんからしたら、あまりに都合のよすぎる話といいますか……彼──魔神に酷いことをされたというのに」
「うーん、言われてみればそうかもしれないわね」
お人好しと呼ばれるかもしれない。
だけど。
「だって、あなたは私の相棒だもの。相棒の話を信じないわけないじゃない」
「ノーラさん……」
「ああ、そうそう。さん付けなんてしなくていいわ。ノーラって気軽に呼んでちょうだい!」
そう言うと、リアーヌはより一層驚いた顔になった。
それに──リクハルドさんから二人の話を聞いて、少し違和感があったのも事実。
だって、いくら自分の思うように政治を動かしたいからといって、国家転覆だなんていうリスクを取る? 考えにくいわ。
あの時は違和感の正体が分からなかったけど、ようやく解明出来てすっきりした気分。
「ますますあなたに興味が出てきたわ。私ともっとお喋りしましょうよ」
「わたしが……あなたと、ですか? 戻りたくないんですか? アシュトンさんたちのところへ」
「戻りたいわ。でも戻し方も分かんないんでしょ? だったら無駄にジタバタしてもダメ。もっとゆっくり構えましょ」
それにリクハルドさんから話を聞いてから、ずっと彼女とは腹を割って話したかったのだ。
私は両手で頬杖をついて、猫背気味なリアーヌと目線を合わせる。
「じゃあ次は私の話をしてもいいかしら? あなたの恋人であるアーノルドは、他の王子にハメられた。でもアシュトンも似たようなことがあって──」
当作品のコミカライズ二巻が明日(11月30日)発売となります。
よろしくお願いいたします。
 





