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話が違うと言われても、今更もう知りませんよ 〜婚約破棄された公爵令嬢は第七王子に溺愛される〜【書籍化】  作者: 鬱沢色素
本編

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68・緊急事態

 ──カンカンカン──。



 鐘の音が聞こえる。


「ん……これは……」


 眠気まなこを擦り、ゆっくりと上半身を起こす。

 ここは……宿屋のベッド。そうだ──決起会が終わってから、ここで一夜を過ごしたのよね。ようやく頭がはっきりしてくる。


 昨日は楽しかったわ。

 みんなと楽しくお喋りしたり、イノチ団子を振る舞ったり、アシュトンと踊ったり──。


「あああああ!」


 恥ずかしくなって、叫びながら顔を枕に埋める。

 あの時は周囲の楽しそうな空気に釣られて、思わずアシュトンの手を取ってしまったが……よくよく考えると、かなり恥ずかしい。

 しかも口づけをしそうになったり──って、これ以上考えると恥ずかしさで顔が爆発しそうだわ。切り替えましょ。


「それにしても……この鐘の音は?」


 外から聞こえてくるけたたましい鐘の音は、まだ鳴り響いている。

 それはなにか、緊急事態を知らせるかのような音だった。


「とにかく、ここにいても仕方がないわね」


 私はすぐに部屋の外に出ると──。



「ノーラ!」



 丁度、アシュトンがこちらに駆け寄ってくるところだった。


「アシュトン、なにが起こったの? それにライマーは……」

「あいつだったら、先にギルドに向かっている。そんなことより緊急事態だ」

「緊急事態?」

「詳しい話は後だ。今はすぐにギルドに向かうぞ!」


 戸惑いはさらに強くなっていく。


 アシュトンは私の右手を握って、強引に走り出した。

 なにがなんだか分からないけど……この様子なら、やっぱり緊急事態みたい。


 走っていると、何故だか──首からかけているネックレスが目に入った。

 エルフの村の長である、リクハルドさんから貰ったものだ。

 ネックレスはいつもより濁った青色だった──。




 ギルドに着くと、既に冒険者の人たちが集まっていた。

 みんな、昨日はお酒が入ったりで楽しそうだったけど──今は誰しもが、顔を硬らせている。

 ここにいるだけでも、その緊張が伝わってくる。


「あっ、アシュトンさん! ノーラさん!」


 人混みを掻き分けて、ライマーがこちらに駆け寄ってくる。


「ライマー、なにが起こっているの? どうしてみんな、こんな……」

「話はギルドマスターから聞いてくれ。もう説明を始めている」


 そう言って、ライマーがギルドの奥の方へ視線を移した。

 そこではギルドマスターが、大きな声でみんなにこう説明していた。



「魔物がこの街を目指して移動している」



 その声を聞き、さらに周囲の空気がピリッと引き締まったように感じた。


「どういうことだ?」


 冒険者の一人が手を挙げて、そう質問する。


「魔物はここから少し離れた場所で、巣を作っていると言ってたじゃないか。そして、しばらくはそこから移動する気配もないと……」

「分からないんだ……」


 そう言うギルドマスターも困惑しているよう。


 彼はさらに話を続ける。


「しかし……魔物が移動していることは確かだ。しかもかなりの速度でな。このままなにごともなければ、二時間もすれば街に着くだろう」

「なんてこと……」


 そんな呟きが口から漏れてしまった。


 街に魔物が雪崩れ込んでくれば、ここにいる冒険者たちだけで全ての住民を守りきることは困難だろう。

 住民の中には非力な女性や子ども、お年寄りもいるからだ。そんな人たちの避難も誘導しながら、魔物と戦うのは骨が折れる。

 そうなったら、地獄のような光景が街中で繰り広げられることになる。


「作戦を少し変更する」


 ギルドマスターは冷静にこう口を動かす。

「もう何人かの冒険者は先行して、街を出ている。なんとしてでも、魔物の移動を食い止め、そいつらが街に入り込まないようにしてくれ! 詳しい説明はこれ以上してられない。作戦決行だ!」


 彼が最後にそう号令をかけると、冒険者たちが慌ただしくギルドを後にした。


「一体、なにが起こっているんだ……」


 アシュトンは思案顔で、ぶつぶつと呟く。


「急に魔物が移動を始めただと? どうして、今になっていきなり? もしやこの街に冒険者が集結しているのを察した? そして自分たちが狩られる前に、勝負をつけようとしたってことか。だが、魔物がそこまで考えるとは思いにくいし……」 

「アシュトンさん、考えるのは後ですよ! オレたちもすぐに行かないと! そうしないと街の住民が……」

「ああ、すまん。お前の言う通りだな」


 ライマーの言葉に、アシュトンはそう頷いた。


 そして走り出そうとした時──アシュトンは私の顔をチラッと見る。


「ノーラ──」

「……こんな状況だけど、私はやっぱり街にいた方がいいのかしら?」


 アシュトンが言葉を続けるよりも早く、私は彼にそう問いかける。


「かなりの緊急事態よね。魔物の大移動は集まった冒険者たちだけで、対処出来るかどうかも分からない。猫の手も借りたいくらい──こんな状況でも、私はお留守番を?」

「いや……」


 最初アシュトンは言いにくそうにしていたが、覚悟を決めた顔つきになってこう口を動かす。


「ここにいても安全かどうか分からない。今はそれほどの事態だと思う。そして人手が欲しいというのも事実だ。だから……」

「ええ、分かってるわ。私も行く」


 と私は自分の胸を力強く叩く。


「助かる」


 それを聞いて、アシュトンの真剣な眼差しをしたまま短くそう言葉にした。


 今回はおとなしくしておくつもりだった。

 でも──こんなことになって、「はい、そうですか」と、さすがに私も言ってられない。


「ア、アシュトンさん、いいんですか!? ノーラは今回、留守番だって言ってたじゃないか。それなのに……」

「いいんだ。それにこうなった以上は、俺の近くにいてくれた方がまだ安心出来る。それとも……お前はノーラが足手纏いだと思っているのか?」

「……思いません」


 まだ納得していないみたいだけど、ライマーは声を低くして答えた。


 ライマーも色々言うけど、私の腕っ節の強さは認めているってことよね。

 ここで私が付いてくることを拒否するのは、それこそワガママである──とも彼は理解しているんだろう。


「ここで話をしている暇もない。今すぐ街を出て、魔物どもを片付けてにいくぞ!」

「もちろんよ!」


 そして私たちも先に行った冒険者たちに続いて、急いでギルドを出た。

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