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話が違うと言われても、今更もう知りませんよ 〜婚約破棄された公爵令嬢は第七王子に溺愛される〜【書籍化】  作者: 鬱沢色素
本編

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53/86

53・エルフの長を怒らせたら怖い

本日書籍版発売です!

「──ようこそ、楽しんでいただけているようでなによりです」



 という声と共に──目の前のなにもない空間に突如として光が出現。

 その光は人型の輪郭を形取っていき──やがて一人の男性が私たちの前に現れたのだ。


「あなたは?」


 私はそう問いを投げかける。


 エイノと同じ金色の髪。長さは地面に付きそうなくらい。

 エルフ耳の特徴もあるし……どうやら、彼のエルフのようね。

 冷たさを感じるほどの美形。でもそれでいて、穏やかな雰囲気も身に纏っている。なにを言っても受け入れてくれそうな優しいエルフだ。


「初めまして、私はリクハルド。この村の長をしています」


 彼──リクハルドさんは落ち着いた声音でそう言った。

 そういえば森の中で聞いた声と同じだった。


 アシュトンが即座に片膝を地面に突き、こう口を開く。


「俺はアシュトン。この国の第七王子だ。この度は急な申し出にも関わらず、俺たちを招き入れてくれて──」

「ああ、そういうのはいいですよ。普段通りにしてください」


 とリクハルドさんが優しく微笑む。


 そんな何気ない仕草も美しくて、つい目で追ってしまっていた。


「そもそも不可侵条約なんて、くだらないものですからね」

「リ、リクハルド様!」


 リクハルドの言葉に、エイノが慌てる。


「以前から申し上げていましたが──即刻その考えはやめるべきです! 人間というのは恐ろしい人物ですよ? あなたも見ていたでしょう? あの女の身のこなし──」


 とエイノが私を指差す。


 普段の私なら一言物申すところだったけど、場の厳かな雰囲気もあいまって、口を閉じるしかなかった。


「エイノ、失礼なことを言うんじゃありません」


 一方、リクハルドさんはエイノの言ったことを、優しい口調でそう嗜めた。


「し、しかし……」

「不可侵条約はまだ、争いが多かった時代のものです。しかし今は平和な世の中です。必要ありません。それに私がいつかこの条約を撤廃するために、この国の国王陛下と何度も話し合いを重ねていることは、あなたも知っているでしょう?」

「…………」


 エイノは納得いかなそうな顔をしていたが、なにも反論出来ないのか、閉口していた。


 リクハルドさんは再度、私たちに顔を向け、


「すみません。エイノが失礼をいたしまして」


 と謝罪した。


 しかしアシュトンは一切意に介した様子はなく、こう返す。


「いや、エルフの中でも色々と反発はあるだろう。こういう風な意見が出るのも仕方のないことだ。しかし──俺としても、両者がまた手を取り合うような──そんな世の中が来ればいいと考えている」

「同感です」


 アシュトンとリクハルドさんの間に穏やかな空気が流れる。

 話を聞く限り、リクハルドさんは人間との間で結んだ不可侵条約に、否定的な意見を持っているらしい。

 少なくとも、彼からは敵意が感じられない。

 無論──敵意を隠している可能性はある。しかし私はこのエルフのことを、信頼してもいい気はしていた。


「あっ、もしかして……」

「どうした、ノーラ?」


 ことの成り行きをライマーと黙って見守っていると、私の中で一つの推論が生まれる。

 不可侵条約がありながらも、なんだかんだでアシュトンがこの森を通過すると決めた理由。

 それはリクハルドさんが、こういう考えの持ち主だと知っていたからじゃないだろうか?


 国王陛下とエルフの間で、そういう話がされていることは、アシュトンだって知っていた可能性が高い。

 となると、私たちのせいでエルフとの全面戦争になる──なんて最悪の事態は避けられる。そこまでアシュトンは計算していたのではないだろうか。


「さすがね……」


 彼の計算高い考えに、ただただ脱帽した。


 そうしている間にも、アシュトンとリクハルドさんは言葉を交わしていたが、


「なるほど──近くの街で魔物の一斉討伐が行われると。それは由々しき事態です。どうぞご自由に通過してください。でもその前に──」


 と彼は今度、私に視線を向ける。


「彼女と少し喋らせてもらっていいでしょうか? もちろん、アシュトンさんも一緒に来ていただいて構いません」

「ノーラが良いというなら大丈夫だ。もっとも……」

「ええ。もちろんよ」


 と私は返事をする。


「ありがとうございます」

「そういえば先ほど、私の魔力が気に掛かるとおっしゃられていましたよね? それはどういう意味ですか?」


 さすがに相手はエルフの長なんだし、アシュトンみたいに普段の喋り方は出来ない。なので丁寧な口調で喋る。


「ここで話すのもなんですね。それに……見せたいものもあります」

「見せたいもの……?」

「はい、どうか私の家まで来てください。そちらの方が説明がしやすいですから」

「わ、分かりました」


 一体、なんなのかしら……気になるわね。


 アシュトンと視線を合わせると、彼も首を縦に振った。問題なしということだろう。


「ライマーは……どうする? そこらへんで遊んどく?」

「こ、こんなところに一人でいられるか! オレはお前みたいな無神経女とは違うんだ」

「ふうん、まだそんなことを言うのね……教育が必要かしら?」

「え、遠慮する!」


 ライマーは顔を青くして、そう拒否する。


「ふふふ」


 その様子がおかしかったのか──リクハルドさんの口から小さな笑いが零れた。


「失礼しました。あなたたちを見ていると、こちらまで楽しくなってきます。やはり、この村にあなたたちを招き入れたことは正解だったみたいです」

「は、はあ……?」


 彼がなにをそんなに愉快そうにしているのか分からず、私はそう首をひねった。


「ああ、そうそう。あなたも私にそう謙る必要はありませんよ。彼──ライマー君といいましたか? ──に接しているように喋りかけてください」

「いえいえ、そんな……」

「これはお願いです。私たちエルフに、人間社会での礼儀など必要ない。私のこの喋り方は元からなので別ですが──あなたは違うでしょう? 私はあなたの素が見たい」

「……分かったわ。じゃあいつも通りにするわね」


 ふう……やっぱり敬語って、妙に疲れるのよね。多分私の性分に合ってないんでしょ。

 だからリクハルドさんがそう言ってくれて、素直に助かった気持ちになった。


「やはり、そちらの方があなたらしい」


 とリクハルドさんは頬を綻ばせ、こう続ける。


「では行きましょうか」

「リクハルド様、僕も付いてきますよ! こいつらがなにを企んでいるか分かりません!」


 ゴミを見るような視線で私たちを見るエイノ。


「ええ、好きにしてください。ですが、彼女らと話す時は席を外してくださいね」

「そ、それは……」

「扉の前で待機してくれていいですから」

「……分かりました」


 とエイノは不満そうに頷いた。

 責任感の強いエルフね。


 まあ、彼がどういう役目のエルフか知らないけど、部外者を警戒するのは当然だ。だから特に不快には感じなかった。



 そして──リクハルドさんが村の奥に向かって歩き出す。



 私とアシュトン、ライマーもその後に付いていく。


「そういえば、ノーラさんが興味深いことを言っていたのを耳にしたのですが」

「興味深いこと? 特に変なことを言ったつもりじゃないけど……」

「村の外でのことです。なんでも私に言いたいことがあるのだとか? どうぞ言ってください」



 ──それに──リクハルドさんっていうエルフに、ちょっと言いたいことがあるの。



 あっ、そういえば言ってたわ。


「え、いや、その……あれはつい言ってしまったというか……本意じゃなかったというか……」

「ふふふ、別にそう誤魔化す必要はありませんよ」


 とリクハルドさんは微笑む。


 この様子なら、ちょっとくらい言っても大丈夫かしら……?

 そう悩んでいたが、私が口にするよりも早く、リクハルドさんがこう言ってくれた。


「あなたたちを危険な目に遭わせてしまいましたからね。私たちにも事情があるとはいえ、矢を放ってしまいすみませんでした」

「あっ、そうそう。当たったら危ないじゃない──では、ないかしら? 一体なにを考え──」

「まあ、ノーラ。そう言うな。そもそもこの男は、俺たちを傷つけるつもりなんて、微塵もなかったはずだ」

「え……?」


 私はきょとんとなる。


「さすがですね。やはり分かっていましたか」

「ああ──とはいえ、矢を掴んでみて初めて分かった。これでも幻術を見破るのは得意のはずなんだがな。超一級品の幻術だ」

「幻術……あっ」


 アシュトンの言葉を聞いて合点する。

 そうそう……アシュトンは矢尻に炎を纏った矢を、素手で掴んでいた。それなのに傷を負った様子が一切なかった。


「あの時は腹が立っていて、そこまで考えが及ばなかったけど……もしかしてあれは、ただの木の棒だったりしたのかしら?」

「ご名答です。直撃したらさすがに痛いとは思いますが、死ぬなんてことはあり得ないでしょう」


 飄々とリクハルドさんは、さらにこう続ける。


「今まで、森に迷い込んできた人間はたくさんいます。しかし大体は私の幻術で惑わせてあげれば、すぐに逃げていきます。ましてやあなたのような女性が立ち向かってくるなど──一度もありません」

「私の? ってことは離れた位置から、幻術を使っていたってこと?」

「ええ。私はここ──村にいました。この森は私の庭同然。森の中なら、どこにだって魔法を発動させることが出来ます」

「そ、そうだったのね」


 ……ここまで配慮してくれていたなら、文句を言う気もなくしちゃうわ。


 しかし一つ、気になることがある。


「もしあのまま、私が本気で戦おうとしたら、どうするつもりだったの? 戦闘になったら、さすがに幻術だということには私も気が付くけど……」

「ああ、その場合は──」


 リクハルドさんはこう続ける。


「こちらも本気で自分たちの身を守ることになったでしょうね。そうなったら幻術など使っている暇はありません。だとすると……ねえ?」


 とニッコリと笑って、ウィンクをした。



 ……こ、怖っ!



 ねえ? ──の後に続く言葉を想像すると、身震いするわ!

 それにこれだけ高度な幻術が使えるのだ。本気で戦えば、かなり強いことが予想される。

 それにリクハルドさんは笑っているけど、私はちゃんと気付いたわよ! 目が! 笑ってないのよ!


 リクハルドさんを怒らせないようにしよう──そう強く心に誓う私であった。

みなさまのおかげで本日、Kラノベブックス様より書籍一巻が発売されました。

どうぞよろしくお願いいたします。

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