51・エルフの少年
書籍版が4月1日に発売されます。
活動報告とこのページ一番下部に表紙画像も公開していますので、ぜひご覧くださいませ。
「あったまきたわ!」
やっぱり──私には話し合いだなんて向いてなかったのよ!
「ノ、ノーラ! やめろ! もしかしたら、こいつらは──」
「大丈夫!」
アシュトンがなにかを察し、私を止めようとする。
しかしここまできたら止まらない。
「ちゃんと手加減するから!」
風魔法を発動──。
エルフたちがいるであろう木に向けて、風の衝撃波を放った。
衝撃波が大木に激突し、左右に揺れる。
「くっ……! 小癪な真似を!」
「体勢を整えろ! あの猿は魔法が使えるみたいだ!」
そんな声が木の上から聞こえてくる。
「……これくらい仕返ししても、バチは当たらないわよね?」
急に不安になってアシュトンとライマーに顔を向けたが、二人は呆れたように溜め息を吐いた。
いくら相手からやってきたとはいえ、反撃するのはやりすぎな気もした。
でもムカついたのだ。仕方がない。
とはいえ──内心はらはらしていると。
「ぬおっ!」
バサッ。
そんな音と共に、誰かが落下してきた。
「いけない!」
私はすぐさま蜘蛛の巣のような網を魔法で作る。
その網の上にその人(エルフ?)は落ちたため、ことなきを得た。
「大丈夫!? ちょっとやりすぎたかもしれないわ。ごめんね」
ネットに駆け寄り、手を差し出すと……。
「触るな! 人間の手を借りるなんて死んでも嫌だぞ!」
と美しい見た目をした少年が、私の手を払い退けたのだ。
「お前たち人間はいつもそうだな!? 気にいらない者がいれば、こうやって捕らえて殺そうとする。そんなんだから、嫌われるんだぞ!」
彼は網の上で、そう叫き続けていた。
実はこれ、粘着力があってそう簡単には抜け出せない仕組みになっているだ。
咄嗟に作ったものなんだけど……結果的に彼を捕らえたという形になるのかしら?
でも……。
「殺すつもりなんてないわ。そもそもあなたたちも、私たちを殺そうとしたじゃない。なのにそんな人聞きの悪いことを……」
「うるさいっ! 言い訳するんじゃない! そもそもこっちも殺すつもりなんてないんだぞ!」
「はあ? あんな危険な矢を放ってきて……」
「おい、お前ら! さっさと僕を助けるんだぞ! こいつらに向けて矢を放て!」
そのエルフは顔だけを木の上に向け、そこで待機している者たちに呼びかける。
しかしさっきのように矢を放っていたら、近くにいる彼にも当たってしまうかもしれない。
そのせいで、どうしようか迷っている様子だった。
「ノーラ、とうとうやったな! お前と一緒にいたら、どうせこんなことになると思ったんだ。ああ……これでエルフと戦争だ……ノーラのせいで戦争の火種が……」
とライマーは愕然としている。
「まあ待て、ライマー。考えようによっては、これはいいことかもしれないぞ。なにせ、ようやく話し合いが出来るようになったんだからな」
一方、アシュトンはそうニヤリと口角を吊り上げた。
「ひっ……」
彼もアシュトンの悪人みたいな笑顔に、怖がっている。
アシュトンってイケメンだけど、こういう顔をしたら怖いのよね。いや、イケメンだからこそなのか……。
億した様子の彼であったが、すぐに気を取り直して、
「き、貴様らがなにをしようとも、僕は屈しないんだぞ! さあ、一思いに殺すがいい!」
と毅然と振る舞った。
でも空元気って感じがする。その証拠に体がガタガタ震えている。
こんな姿を見てたら、可哀想に思えてくるわね……仕方がない。
「はい」
私は魔法を解いて、彼を解放する。
「いたっ!」
不意に網がなくったので、彼はそのまますとんと地面に落ちた。
「あらためてだけど……あなたって、エルフでいいのよね?」
「そうだ! それ以外に誰がいる!」
拘束を解いたというのに、やっぱり彼は敵意丸出し。
さらさらの金髪で、肌は真っ白。均整の取れた美しい顔立ちで、まるでお人形さんみたい。それに長く尖った耳に、嫌でも注目してしまう。
この通称『エルフ耳』と言われる尖った耳は、エルフの外見的な特徴として有名だ。
彼もそう言っているし、エルフだということは間違いなさそう。
「私はあなたたちと戦争をしにきたわけじゃないわ。私たちはただ、崖の向こう側に行きたくって……」
「殺せ殺せ! お前、もしかしたらオークが人間に化けてやがるな!? お前みたいな女が僕たちの矢を避けることなんて出来るはずがない! そ、そうだ。お前は魔法が使える世にも珍しいオークで……」
……ダメね。
この調子じゃ、まともに話し合いも出来ないわ。
「くっくっく、ノーラ。お前、エルフにもオークだと思われているじゃないか。やっぱりオレが思っていることは間違いじゃないんだ!」
「ライマーは後で説教ね」
「何故!?」
でも……オークだと思われるのは心外だわ。腹が立つ。
私はそのエルフに大股で歩み寄り、彼の両手を取った。
「な、なにをする!?」
怯えている様子の彼。
私はその両手を持ったまま、
「どう? 変身なんかしてないでしょ。これでもまだ疑うのかしら?」
と言いながら、自分のほっぺを指で掴ませたのだ。
「え? え?」
彼は戸惑っている様子。
こうすれば、私が人間の皮を被ったオークだって疑いは晴れるでしょ。ほーんと、失礼しちゃうわ。
「……こいつはそういうことを言ってるんじゃないと思うぞ」
「少なくとも、そのバカさ加減はオークに匹敵するな」
後ろからアシュトンとライマーの呆れたような声。
一方、
「へ、変なことをするな!」
彼は顔を真っ赤にして、強引に私の手を振り払った。
「どうしてそんなに顔が赤いの? もしかして、熱でもあるの?」
今度は彼の額に手を当ててみる。
うーん、風邪ではなさそうね。でも彼の顔はさらに真っ赤になっていった。
「……っ! や、やめろ! 離せ!」
あらら。
余計に腹を立てたみたい。
彼は私から視線を外し、もう一度木の上に顔を向けた。
「もうこうなったら総攻撃なんだぞ! お前ら、もう一度矢を放ちまくれ! 最悪、僕に当たっても……」
彼がそう言葉を続けようとした時だった。
『エイノ──やめなさい』




