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5・執事のカスペルさんはタダものじゃない

 そのあと、私はアシュトン様の屋敷に招かれることになった。


「ここに座るといい」


 食堂に通されると、彼が私のために椅子を引いてくれる。

 私はそこに座りながら、辺りを眺めた。


「広くてキレイなお屋敷ですね」

「意外か? 王都から抜け出して、こんな辺鄙なところに来た変人王子なのに、こんなところに住んでいる……と」

「いえいえ。ただ……これだけ広かったら、お掃除とかさぞ大変だと思いまして」


 とはいっても、屋敷の広さは私の実家ほどではない。

 しかし一人でここに住むにしては広すぎると思ったので、私は口からそんな言葉が出てしまっていた。


 誰か他に住んでいるのかしら……。


 そう思っていたが、私の疑問はすぐに解消されることになる。



「ノーラ様、ようこそ。アシュトン様のお屋敷へ。こちら、紅茶を淹れさせていただきました」



 急に後ろから声。

 驚いて振り返ると、そこには燕尾服に身を包んだ男が手を伸ばし、私の前にティーカップを置いているところであった。


「あ、ありがとうございます。あなたは……」

「紹介しよう。彼はこの家の執事をしてもらっているカスペルだ」


 彼の代わりに、アシュトン様がそう言った。

 執事──カスペルさんは軽く私にお辞儀をする。


 カスペルさんは眼鏡をかけていて、物腰が柔らかい男性だった。

 鼻筋が通っていて、肌も嫉妬したくなるほど白い。

 この方もアシュトン様に負けず劣らず美形ね。


 それにしても……私とあろう者が、こんなに近くに人がいたのに気づかなかったなんて!

 傍に立ち、私たちを暖かい眼差しで見守っているカスペルさんは、こうしている間も存在が希薄のように感じた。


「くくく……驚いたか?」


 そんな私の心情を察してか、対面に座るアシュトン様が愉快そうに笑う。


「え、ええ」

「カスペルにはちょっとした()()があってな。なあに、気にしなくていい。悪いヤツではないことは確かだ」


 もう一度カスペルさんに視線を移すと、彼はニコニコするばかり。


 カスペルさん……要注意人物ね。

 一見、ただの普通の執事に見えるけど、この方も曲者の雰囲気を感じる。

 アシュトン様の言う通り、悪いお方ではなさそうだけどね。


「そ、それにしても執事もいたんですね。あなたはいつからアシュトン様にお仕えになっているんですか?」


 動揺を誤魔化すように、カスペルさんに質問すると、


「はい。私はまだ王城にアシュトン様がいる頃から、お仕えしております」


 と優しい声で話し始めた。


「つまりアシュトン様がここ……ジョレットに移住する際に、私も付いてきた形ですね。長い付き合いにはなります」

「そ、そうなんですね。他にも執事や侍女といった使用人は誰かいらっしゃるんですか?」

「いえいえ。執事は私一人であります」


 ひ、一人!?

 一人でこの広い屋敷の掃除をしているということなの?

 とてもそうとは思えないくらい、屋敷の清掃が行き届いているように見えたんだけど……。


 ふむ、少なくてもこのカスペルさん、やっぱりタダものじゃないわ。

 ()()()執事とも思えないんだけど、あまり詮索するのも失礼かしら。


「使用人ではないが、もう一人この屋敷には住んでいる。だが、そいつは冒険者で今は長期遠征中だ。しばらく帰ってこないと思うが、また機会があれば紹介しよう」


 カスペルさんにビックリしている私に対して、アシュトン様が補足する。


 アシュトン様とカスペルさん……そしてもう一人。今は計三人でこの屋敷を使っているということね。

 三人で住むには十分な広さ。

 少なくても、アシュトン様はジョレットで不便な思いをして住んでいるわけではなさそうだ。


「ん……待ってくださいよ」


 私は口元に指をつける。


「先ほど、私とアシュトン様が剣の手合わせをしている時。カスペルさんはなにをしていたんですか?」


 屋敷の中にいたにせよ、主人アシュトンがいきなり来た女と戦おうとしているのである。

 物音も立っていたと思うし、気づかなかったとは思いにくいけど?


 そう疑問に思っていると、カスペルさんは相変わらずニコニコしながらこう口にした。


「はい。窓から見学させてもらっていました。ここからでも、アシュトン様とノーラ様が戦っている光景が十分見えますので」


 カスペルさんの視線の先を見ると、大きな窓があった。

 そこからは私たちが先ほど戦っていた中庭が見える。


「驚きましたよ。アシュトン様と互角に渡り合えているんですからね。それに魔法も使うなんて、想像だにしていませんでした」


 カスペルさんはそう言っているものの、驚いた表情を少しも見せていなかった。


 私たちの戦いを静観していたってことよね!?


 普通、止めようとしてもおかしくないと思うんだけど……。

 それにこんなところから誰かが見ていたら、普通私も気づくと思うが、全くそうはならなかった。不思議ね。


「は、はは。そうなんですね……」


 じゃっかん引きつつ、私はそう苦笑いするしかないのであった。


「……さて。お前もカスペルと打ち解けたようだし、話の本題に移ろう」


 いや、全く打ち解けた気はしていないけど……。

 なんならカスペルさんの謎が深まるばかりだ。


 私の思いを知ってか知らずか、アシュトン様はこう口を動かす。


「確かノーラと言ったな。どうしてお前はそんなに強い? その強さは異常だぞ」


 あら、やっぱりそこね。

 どうしましょ……正直に言ったら引かれるかしら。


 迷っていると、アシュトン様はそんな私の顔をじっと見つめていた。

 ……これは嘘を吐けそうにないわね。なにを言っても見透かされてしまいそうだ。


 それにアシュトン様は婚約者だ。

 あまり隠し事をしてもよくないだろう。


「実は……」


 私は慎重に言葉を選びつつ、口を動かした。

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