48・気持ちの整理の仕方
《アシュトン視点》
「本当に寝ちゃいましたね……」
「ああ」
ノーラの寝顔を眺めながら、俺──アシュトンはライマーの言葉にそう返事をした。
「こうして見てると、ただのキレイな女の子にしか見えない。まあ、星空の下というのがちょっとあれですが……」
「くくく、ライマーよ。なんだかんだでノーラのことを『キレイ』と認めてるんだな? こいつが起きている間に、それを言ってみろ。ノーラがどういう反応をするか見てみたい」
「い、嫌ですよ! それにさっきのは言葉の綾といいますか……あっ、間違っても浮気なんかじゃないですから!」
慌ててライマーが否定する。俺はその様子を見て、愉快な気持ちになった。
ライマーの言う通り、こうしているとノーラは普通の令嬢。魔物を前に堂々とした立ち回りをしたとは、到底信じられない。
「そ、そんなことより、アシュトンさん。ノーラが言っても聞かないから……って理由で、旅に付いてこさせたと言っていましたが、他にもありますよね?」
話を逸らしたかったのだろう──ライマーがそう問いかける。
「他とは?」
「理由のことです。あれだけでアシュトンさんが折れるとは思えないですから」
「ふむ……なかなか洞察力を身に付けたな。ライマー」
感心したので褒めてやると、ライマーは嬉しそうだった。相変わらず子犬みたいなヤツだ。
「……まあ、ノーラの好きな通りにさせてあげたいと思ったのは事実だ。こいつはレオナルトと婚約中、散々我慢させられてきたからな。せめて俺の前では……と」
「でも今回の危険の多い旅になります。普段の依頼とは違うんです。それなのに、ノーラを同伴させるなんて無謀だと思いませんか? いくらこいつが強くても──です」
「それも一理ある」
と俺は頷く。
俺とライマーだけならいい。俺たちは死ぬ覚悟も出来ている。そして魔物と戦い、弱い人々を守れるなら本望だ……とも。
しかしノーラはどうだろうか?
……ノーラも似たような気持ちは抱えていると思うが、そこまでの覚悟をあるのかと言われると疑問である。
それに仮にあったとしても、ノーラが死ぬことは俺が耐えられない。
そういった意味で、ライマーがこんな疑問を抱くのも仕方がないことだろう。
しかし俺には別の考えがあった。
「……気持ちを整理出来ると思ってな。お互いに」
「え?」
俺の言ったことがよく分からなかったのか、ライマーがそう聞き返す。
「いや──さっき言ったことは忘れてくれ。なんにせよ、こいつを危険な目に遭わせない。なにがあっても、俺がノーラを守る──そのためにはお前の力も必要だ。頼りにしてるぞ」
「は、はいっ!」
ライマーの元気な返事が夜の平原に響き渡った。
◆ ◆
今日は橋を渡って、目的の街クロゴッズに向かう。
平和な道中だと思ったんだけど……。
「橋が壊れている?」
無残にも壊れている橋を前に、アシュトンがそう言った。
「はい」
それに答えるのは、橋の修理をしている作業員の一人だ。
「とある冒険者たちと魔物が、ここで戦闘になったらしいんです。そのせいで橋が壊れてしまい……今はその修理中です」
橋の真ん中くらいまで行ったところが瓦解していて、とてもじゃないが、これでは向こう側に渡れそうにない。
「その魔物はもういないのか?」
「はい。戦っていた冒険者パーティーが無事に討伐してくれたようです」
と作業員が首を縦に振った。
「うーん……どうしようかしら」




